好調・大東大にクレバーな寮長。嵯峨嗣侃は「よくないことがあったらちゃんと指摘する」
就職活動の面接の口ぶり。大東大ラグビー部の嵯峨嗣侃(さが・しゅら)は、今季途中に選手同士で決めた「Passion(情熱)」というスローガンについてこう述べた。
「自分たちで決めた言葉なので、それに対しての責任も生まれているなと感じております」
身長169センチ、体重97キロの4年生。普段は寮長を務める。
昨年度に担った副寮長から昇格し、備品管理、選手たちが交替でおこなう掃除の最終チェック、夜22時以降に部屋の窓を閉めているかなどを確認して音漏れを防ぐ「騒音対策」に勤しむ。
タスクの多さを踏まえて同級生でSOの福井真仁も同じ役職にスカウトし、2人体制でクラブのモラルを保たんとする。
グラウンドでは最前列中央のHOを担う。スクラム、接点で力を示す。
転機を迎えたのは昨季のことだ。先輩の控えとして掴みかけていたリザーブの座を手離して「気持ち的に落ち込んだ」ところ、就任したてだった酒井宏之監督に「このままじゃだめだ」と励まされた。
心を入れ替えた。日々、寮の近くにある動物公園の裏側の坂でダッシュを繰り返した。
「酒井さんは、落ち込んだ時には『とにかく走れ』と言われました。走ることは(体力的に)プラスになるし、落ち込む気持ちも忘れられるからと」
獣の鳴き声を聞きながら、地道に持久力、瞬発力を鍛えてきた。何より、主体的に己を鍛えたことで自信をつけた。
今季はレギュラーとして、加盟する関東大学リーグ戦1部で目下開幕3連勝中。10月13日には、神奈川県内にある敵地で関東学大に挑む。まだまだ進歩を止めたくない。
「4 年生全員で、ワンチームで勝ち進んでいきたいなという風に思っていて。ウエイト(トレーニング)でも、練習中でも、ただ仲良しこよしじゃなくて、よくないことがあったらちゃんと指摘する、妥協しないでやる…といったところも踏まえて、全員で勝ちに向かっていきたいです」
元野球少年だ。この競技と出会ったのは、地元である秋田の将軍野中である。全国きっての強豪だった。
進学した秋田中央高では主将を務めた。
他校を招いて試合をしたある日のことだ。その折ちょうど怪我をしていた嵯峨は、来訪したチームへの挨拶もせずにウェイトトレーニングをしていた。
よい状態で復帰したかったがゆえの行動だったが、尊敬する古谷和義監督に「自分勝手じゃないか?」と指摘された。それが記憶に残っている。
「古谷先生には『チームのことを何も考えられていないぞ』と教えていただいて。15人という大人数の球技で、他人のことを考える意識を学べたと思っています」
大東大を選んだのは、この秋田中央高で仲のよかった先輩が進学していたからだ。ジャージィの色を変えても、他者の鏡になりたい思いは変わらない。
何より、情熱を持ってフィールドに立ちたい。
卒業後は、OBを介して面接のチャンスを掴んだ大手企業へ入社できる。引き続き楕円球を追いかけるつもりだ。