「仲間割れ」がないのがいい。代表候補になった明大・田島貫太郎、無失点に手応え。
101得点よりも0失点が素晴らしい。
明大ラグビー部の神鳥裕之監督がその価値観を示したのは9月28日。神奈川・小田原市城山競技場でのことだ。
加盟する関東大学対抗戦Aの3戦目に挑み、下部から昇格した日体大を101-0で一蹴した。3桁のリードを保っていた後半終了間際にも、自陣ゴール前で堅陣を張っていた。
「今季初めてシャットアウトで終われたことは評価したいです」
ここまで青学大、慶大を大差で下してきたなか、指揮官は「続けていいゲームができるかが問われる」といった心持ちでキックオフを迎えた。
いざ開戦の笛が鳴れば、海老澤琥珀、白井瑛人の両WTBが縦横無尽に動いた。持ち場と異なる箇所にも果敢に顔を出し、チャンスを広げた。ハイボールの競り合い、相手との間合いを詰めてのタックル、味方へのサポートにも尽力した。特にルーキーの白井は、フットワークも利かせて計4トライを奪った。
SOで先発の伊藤龍之介は、キックパス、自らのランでスコアラッシュを加速させた。特に後半はインサイドCTBに転じ、持ち前の突破力を最大化した。
その際、SOの位置には1年生の萩井耀司が投じられた。白井と同じ桐蔭学園高の出身で、高校3年時に全国制覇を成し遂げている。
61-0のスコアでハーフタイムに突入すると、明大の首脳陣は選手を大幅に入れ替えていた。
NO8の木戸大士郎主将、アウトサイドCTBの秋濱悠太副将といったリーダーもベンチに下げた。萩井の投入もその流れでおこなった。
この判断について神鳥監督は、「コーチと話して作ったゲームプランの通り」。続けて、創部100周年だった昨季に全国準Vに終わったことを振り返った。
「昨年度、リザーブが入ってきた時にチーム力がうまく高まらなかったという反省点がありました。今年は競争力を高めるテーマを掲げてやっています。誰が出てもチームのパフォーマンスを落とさないように(したい)」
6シーズンぶり14度目の大学日本一へ前進できたであろうこの午後、図らずもボスと同じく「0(失)点というのが、大きい」と語ったのは田島貫太郎。LOでフル出場の4年生だ。
「試合中は、トライを獲らせないことを意識しました」
空中戦のラインアウトを見せ場とする。身長195センチ、体重101キロのサイズ、普段から片手でボールを扱って養ってきたというハンドリングスキルを活かす。
前半38分には敵陣22メートルエリア左で、上ずったボールを右手一本で確保。まもなくモールでスコアをおぜん立てした。
「スローワー(投入役)には、(弾道は)低いよりもオーバーがいいと言っています。少し高くなっても、捕れるので」
早生まれであるのに伴い、昨季は3年生ながら20歳以下日本代表でプレーした。
さらに今春には、ナショナルチームのコーチ陣が大学生を育てるナショナルタレントスコッド(JTS)というプログラムに参加した。
フィジカリティが課題とされたためか、いまでもJTS側から電子レンジで温めるタイプの鶏肉料理、餃子などが個別に送られてくるという。普段の食事とは別にたんぱく質を摂る。
「よく、食べるようにしています。(もともと)食べるほうだと思っていたのですが、自分は(エネルギーの)消費が凄くて、試合をすると(体重が)3~4キロ減ってしまうんです。きょうも、3キロ、減りました」
5月には、日本代表の候補合宿にも混ざった。同部屋で今季のジャパンの正NO8となるファウルア・マキシをはじめ、多くの実力者の胸を借りた。
改めて、重さが必要だとわかった。
「(練習では)誰と当たっても、強かったです。誰に圧倒されたか…というより、皆さんに圧倒された感じです」
貴重な成長機会に感謝しながら、いまは、大学日本一を目指す。
「奪還」をスローガンにする今季の4年生について、所感を問われれば「いい感じだと思います。そんなに、仲間割れとかもないと思っているので」。軽やかでストレートな言い回し。神鳥が「凡事徹底」と謳うグループにあって、美しく、激しく戦う。