2024年の青木恵斗。「選手としては日本代表にいたほうが成長できるかも。ただ…」
いましかできないことがしたかった。
帝京大ラグビー部の青木恵斗は今年2月、日本代表の候補合宿に当たるキャンプへ参加していた。4月には、代表のスタッフが大学生選手を育成する「ジャパンタレントスコッド」の第1回目の活動にもコミット。テストマッチデビューへも意欲を示した。
冗談交じりに述べる。
「2月には人見知りの感じが出てしまいましたけど、日本代表のやりたいラグビーがどういうものかはわかった。もし(代表に)選ばれたら(国内トップの)リーグワンの選手にも遠慮せず、アグレッシブに、自分から(アピールしたい)」
しかし、春の段階ではこうも吐露していた。
「まだ、迷い中ですが」
大学に残るかどうか、熟考を重ねていたのだ。
結局、6月までに結成された正代表からは漏れた。バックアップメンバーに名を連ねた。ただそれ以降、故障者発生に伴い追加招集の要請をもらいながらも応じなかった。
青木はチームの主将でもあった。大学の主将は原則、一生に一度しかできない。大学ラストイヤーを走り出す中、気持ちを固めていったのだ。
「このチームで結果を残したいですし、このチームで笑って終わりたい。僕のわがままで(代表候補の)合宿に行って、一回、落ちた身で『もう1回…』というのはさすがにチームに迷惑をかけ過ぎです。(秋以降に選出されても)帝京大にいます」
昨季まで大学選手権3連覇中。在学中の4年連続日本一に王手をかけるなか、シーズン本格化までの準備にもフルコミットしたかったのだ。きっと、周りが思う以上に危機感を抱いている。
果たして身長187センチ、体重110キロのタフなFLは、学生シーンで大暴れする。6月16日にあった春季大会Aグループの最終戦では、早大を60-7で撃破(東京・早大上井草グラウンド)。自らも3度フィニッシュした。
かたや日本代表は、22日に東京・国立競技場でイングランド代表と激突。17-52で敗れた。帝京大の相馬朋和監督は、青木に申し訳ないことをしたと伝えたそうだった。
「イングランド代表戦で彼がフィールドに立っていたら。いま(試合を終えてから)も、そう思います。あの場に立たせてあげられなかった色々なこと(理由)を反省しながら、(今後)そのようなチャンスをものにできるような選手を送り出してあげられたらな…と思います」
本人はこの調子だ。
「ラグビー選手としては日本代表にいたほうが成長できるかもしれません。ただ、帝京大が優勝するためにはチームに残ることが正しい判断だと思います。リーダーとしてはチームをしっかり観察できて、何が足りないのかを考えることができた」
クラブに残って仲間と切磋琢磨する中、周りの大学生選手は代表に混ざって世界に触れている。
青木と同じ桐蔭学園高出身のHOで、早大主将の佐藤健次は6~7月のサマーキャンペーンに参加。早大2年で桐蔭学園卒の矢崎由高に至っては、日本時間8月26日のカナダ代表戦まで6回続けて代表のゲーム(非テストマッチを含む)でFBで先発した。
その流れに、青木は淡々と応じる。
「まぁ、いいことなのかなと思います。大学生が高いレベルを経験できるのは」
自らがナショナルチームに再挑戦するのは、大学を卒業してリーグワンのクラブの門を叩いてからだ。
「一度、辞退している身なので(再度)呼ばれるのかはわかりません。ただ、リーグワンで存在感を出していければ…。そのためにも自分の課題を見つめ直し、努力したいです」
具体的な「課題」には、疲れのたまる時間帯にタックルの低さを保つことを挙げた。もっとタフになりたい。
8月25日。ちょうど合宿をしていた菅平で、昨季の選手権決勝で下した明大と練習試合をした。6月9日の春季大会での対戦時に24-24と引き分けた相手を、今度は31-28で制した。
青木はトライラインを背にしての一撃を含め、効果的なジャッカルを連発。手ごたえを口にした。
「相馬さんからFW第3列(FLなど)全体へ『もっとジャッカルを増やしたほうがいい。仕事量を増やして』という話があった。そこは、1年生から3列で試合に出ていている僕自身が示さなくちゃいけないと思っていました。狙えるところは狙いました」
かつ、気を引き締めた。
「のんびり練習していたら(ライバルに)追い抜かされます。(今季は)まだチャンピオンにはなっていない。今年のタイトルを獲るために、ひたむきにチャレンジする」
加盟する関東大学対抗戦Aの初戦には、9月7日に挑む。神奈川・秋葉台公園球技場で日体大とぶつかる。