大人を相手に極真空手。長野高・西條凛、秩父宮で走る幸せを噛みしめる。
西條凛が駆ける。
左右に足を刻み、前進する。
「ただ方向転換するだけでは意味がない」
ステップは、あくまで防御を破るための術だ。
守備側の横やりを浴びても、低い重心を保つ。身長170センチ、体重80キロ。粘り腰でもある。
長野県立長野高の3年生が長所のランを繰り出したのは6月30日。東京・秩父宮ラグビー場でのことだ。
関東ラグビーフットボール協会の100周年記念試合のひとつに、北信越選抜の13番として出場した。関東高校選抜との20分ハーフの一戦にハーフタイムまで参加し、7―5で勝った。
3月にセレクションを通り、長野高から唯一の選抜入りを果たしていた。この日は高校で文化祭があるため、着替えたらその足で学校に戻った。
「大きな舞台でやることは初めてで緊張したのですが、自分のやるべきことはできたかなと」
もともと東京に暮らしていて、その頃はサッカー少年だった。小学2年で引っ越し、近所の長野少年少女ラグビースクールへ加わった。
「僕は走るのは好きなのですが、サッカーの足だけを使って身体を使えないというところが自分には向いていないな、って。(ラグビーは)身体を全体的に使って、当たったり、走ったりというのがよかった。自分でボールを持って走って、トライを決めるのが一番、楽しいところです」
力強さの源には、ラグビーと並行して習ってきた極真空手がある。
3つ年上の姉の通うダンスクールが活動する体育館で、年齢不問の道場を見つけて門を叩いた。小中学生のうちから組手で「大人にボコボコに殴られて」いたことで、タックルへの耐性がついた。
高校受験の際は、単独チームで戦える規模のラグビー部があり、かつ文武両道を全うできそうな地元の学校を選んだ。それが長野高だった。
県下有数の進学校とあり、文化祭の翌日以降は3年生の教室が「勉強モード」に包まれる。それまでの間に、ほとんどの最上級生は部活を引退する。秋に県大会を控えるラグビー部の面々は、校内でやや特殊に映るだろう。
西條の同期は3名いる。1、2年生を合わせて部員は計10名だ。15人制の試合に出るには、他校と合同チームを作らなくてはならなそうだ。
つまり、入学前に目指していた単独チームでのプレーは1年目の秋から叶えられずにいる。しかし、置かれた状況を前向きに楽しむ。
「おかげで(他校の)いい選手にも出会えました。運は、よかったかなと」
高校卒業までには、実戦経験の積みやすいラグビー部のある大学に受かっていたい。飛行機も好きだから、将来は航空業界で働けたらと思う。