【ラグリパWest】宅建戦士トモヤ。中村友哉 [花園近鉄ライナーズ/SH]
トモヤこと中村友哉は宅建戦士である。
花園近鉄ライナーズ(花園L)の社員選手はまた、この不動産取引の免許を持っている。取得は新入社員だった3年前。2か月半ほどの勉強で合格した。デキる。
ラグビーは3季目。SHとして、ここまで8試合連続でリーグワンの公式戦に出場している。1月27日の静岡B戦からである。
162センチの小兵さを生かしたさばきでウィル・ゲニアの二番手につける。ゲニアはオーストラリア代表キャップ110を誇る。
仕事もラグビーも充実するトモヤはこの6月で26歳。宅建免許取得を振り返る。
「何で合格したかはよくわかりません…」
流行りのツイストパーマがかぶさった両目は笑うと両端が急降下する。三日月の尖った2つの部分が下に来る感じだ。
トモヤが花園Lの親会社とも言うべき近鉄グループホールディングスへ新卒入社したのは2021年4月。総合職採用のため、出世を重ねてゆけば傘下260ほどのグループ会社を総帥としてまとめ上げる可能性がある。
新人研修は4か月ほどだった。トモヤは7月末、近鉄不動産に割り振られた。
「会社の人から、宅建免許取ってねー、と言われました」
試験は10月中ごろだった。
宅建の正式名称は「宅地建物取引士」。国家資格で、不動産の売買には不可欠だ、合格の目安となる勉強時間は300、合格率は15パーセント程度と言われている。
「毎晩、1~2時間ほど過去問題を中心に勉強しました」
新人として社業とラグビーをこなし、さらに勉強。さぞかし大変だったに違いない。
合格発表は12月だった。
「うれしかったっすけど、会社からのお祝い金が社会人1年目のこの時期、大きかったです。何に使ったかは忘れましたけど…」
勤勉はもちろん、正直な性格でもある。
現在は資産活用事業部に属し、奈良の東生駒の営業所に詰める。
「会社の所有する山や土地を管理しています」
ラグビー場のある東花園駅までは近鉄電車で15分ほど。配慮されている。
宅建資格の取得からラグビーも末広がり。公式戦出場は初年度の「2022」は4、「2022-2023」は5。そして今季はすでに8試合に出ている。内訳は先発3、入替は5である。
2月24日のS東京ベイ戦は19-56と敗れたが、トモヤは後半29分、ダイビングパスを見せる。WTB木村朋也のトライにつなげた。この飛びながら素早く投げるパスは昔、特にFWが劣勢時には当たり前だった。今里良三はこのパスで23の日本代表キャップを得る。花園LのOBであり、77歳の現在はチームトップの統括についている
トモヤがパスを磨いた源は伏見工(現・京都工学院)の高校時代にある。
「トライはBKで挙げる、という感じで、さばけへんかったら怒られました」
入学時の監督はOBでもある高崎利明。1980年度の高校日本代表のSHだった。トモヤは、SHは放ってなんぼ、を知る。
伏見工では正選手になった2年時に全国大会に出場する、95回大会(2015年度)は3回戦敗退。優勝する東海大仰星に5-41だった。
伏見工へ続く競技を始めたのは、洛西ラグビースクール。幼稚園の年中だった。友だちについてゆく。そして、そのトモヤに2人の弟たちもついてゆく。上の弟の大介は東海大の新4年生。SOだ。下の弟の直人は東海大仰星の新3年生。SHである。
小学校までこの洛西スクール、中学校は西陵でラグビーを続けた。顧問の伊藤健がOBだったこともあり、伏見工に通った。
大学は東海に進む。
「FWが強いチームでやってみたい思いがありました。教員免許も取りたかったのです」
保健・体育の教員免許は在学中に得た。ここにも宅建取得の片りんがうかがえる。
「大学時代は楽しかったです。人生初めての寮生活。海まで原付で20分ほどなので、仲のいいみんなとよく行きました」
寮から南下すれば平塚あたりの青い太平洋にぶつかる。仲間との親密度を高めたり、息抜きをするにはもってこいだった。
公式戦には1年から出場したが、ひとつ上に山菅(やますが)一史(現・横浜E)がいた。正位置は4年生でつかむ。時の大学選手権は57回。コロナもあって、初戦となる8強戦で帝京に8-14で敗れた。
「負けたけど、同窓会みたいな試合でした」
伏見工の同期が自分を含め5人先発した。東海はCTB赤木凛、帝京はCTB尾崎泰雅、WTB木村朋也、FB奥村翔(かける)である。現在、トモヤと木村は花園L、赤木は関西社会人のユニチカ、尾崎は東京SG、奥村は静岡Bでそれぞれプレーを続けている。
花園L入りは東海のつながりだった。
「カズマさんに誘ってもらいました」
北村一真はOBで当時は採用。今はチームディレクターである。トモヤと同じSHで2001年度の高校日本代表だった。
北村の引きもありトモヤは社員選手となり得た。プロ選手に対して不利は感じていない。
「練習する時間は同じです。しんどいとは思いません」
希望がある。
「社業と両立しながら、試合に出続け、中心選手になってゆきたいです」
花園Lは開幕13連敗と不振にあえぐ。ここでトモヤが奮闘すれば、中心選手への道筋がつけられてゆく。若手の社員選手の手本となることも間違いない。チーム同様、トモヤにとっても踏ん張りどころである。