カンタ、「すべて押す」。帝京大６連覇へ、３番を背負う。

　誰よりも大きな声を出して前に出た。
「ハイッ！」
　1月9日、大学選手権決勝前日の帝京大学グラウンド。ジャージー渡しの儀式で、誰よりも大きな声を出したのが東恩納寛太（ひがしおんな・かんた）だった。

　岩出雅之監督が「3番！」と言って、ジャージーを手にすると。東恩納は少し涙を浮かべ、仲間が見守る中前に出て、清めの塩が振られたジャージーを受け取った。
「昨年も決勝に出られたのですが、途中からの出場でした。4年生になった今年は、決勝戦にスタートから出ることを目標にしてきて、それが叶ったので…嬉しくて、声も大きく、涙も出たのだと思います」
　練習でも、いつもいちばん声を出そうと思っている。何でもいいから、チームのためになることをしたい。そんな気持ちの表れからだ。最前列でチームを牽引する。決勝のピッチでも大声を出して動くつもりだ。

　沖縄は名護高校出身。東江（あがりえ）中学校時代まではバスケットボールに親しんでいた少年が、楕円球と出会ったのは中3の頃だ。地域には、夏までの部活動を終えた中学生を集め、ラグビーを紹介する活動があった。それに参加。自由に走り、体をぶつけ合うこのスポーツの魅力に取りつかれ、花園の常連校だった高校に進学した。
　高校時代は、大学ラグビーで活躍するOBの名嘉翔伍（明大→ヤマハ）を見て憧れた。そしていま、自分が同じような存在になった。
「大学に入学した頃は、沖縄のゆっくりしたリズムのまま生活していたと思います。（故郷を離れての生活に）慣れず、幼いままでしたが、3年生、4年生になって精神的にも成長できた気はしています。（自分の活躍が）後輩や沖縄の人たちの励みになれば嬉しいですね」

　決勝戦には、家族や沖縄の友だちも応援に駆けつける。セカンドステージの第2戦から準決勝までの3試合を怪我で欠場した悔しさもあわせ、大舞台で暴れるためのパワーはあふれている。
「最初から最後まで、すべてのスクラムを全力で押します」
　キックオフの時間が待ち遠しい。そんな表情をしていた。