東海大は初の日本一に輝けるか? 指揮官と主将の見解は。
ボールを持つ前に光った。東海大ラグビー部の谷口宜顕主将が、運営側選定のプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。
10月21日、群馬のアースケア敷島サッカー・ラグビー場。加盟する関東大学リーグ戦1部の4試合目で、立正大を69-12と制した。開幕4連勝だ。
WTBで先発して3トライを決めた。楕円球を持たずして際立ったのは、前半10分の1本目でのことだ。
SOの武藤ゆらぎが自陣深い位置から抜け出すのに反応した。ちょうど目の前に広がっていた、左大外のスペースを駆け上がった。ハーフ線付近でサポートした。球を得たら追っ手をひきつけ、右隣へ寄った味方へつないだ。前進を促した。
敵陣22メートル線付近左中間に接点ができると、その場からやや距離を取った。対面の防御が接点に注視しているのを見逃さず、左端に回り込んでパスを呼び込んだ。
最後は誰もいない場所を駆け抜け、ゴールラインを割った。
「ひとりひとりのやるべきことを徹底しよう、ということ。誰かがラインブレイクしたら、その近くの選手がサポートする。自分がボールを持っている、持っていないにかかわらず、その瞬間、瞬間に自分の正しいプレーを判断しようとしています」
本人がこう話すかたわら、木村季由ゼネラルマネージャー兼監督は意味ありげに言う。
「きょうも、ぶれないのはこの男だけなんですよ」
身長172センチ、体重80キロの船頭役が規則正しく動く東海大。リーグ戦6連覇へ順調に歩んでいるようにも映るが、指揮官は手厳しい。
「ディフェンスからゲームを作り、自分たちでコントロールできる時間を増やしていこう…と臨んだ試合だったのですが、序盤のトライに至るまでがすっと(簡潔に)行ってしまうところがあり(開始6分で12-0)、その後ふわっとした時間帯があった。強い風上に立った後半に、15人の考えが一致しない部分もありました。これを活かして次に行けたらなと」
確かにこの午後は、立ち上がりにスコアを連取してから膠着状態に陥ったり、攻め上がるさなかに自軍ボールを失ったりしていた。
目指しているのは、冬の大学選手権の初制覇だ。目標達成のためにも、パフォーマンスの一貫性を求めたいと木村は言う。
「このリーグ戦のなかでも厳しいプレーをしたいと言い続けています。ただ、いまはひとりで(想定以上に)前に行けてしまって、その先で簡単に倒れて相手にボールを獲られるところがある。そのあたりの精度を上げていかないと、(選手権で)勝負のできるところへは行かない」
選手権では、初めて決勝に進んだ2009年度から16年度までで計3度の準優勝を果たした。
その際に敗れた相手は、いずれも帝京大だ。関東大学対抗戦Aの強豪で、前年度までに2季連続11度の日本一に輝いている。
帝京大が強力なライバルなのは、今年も変わらない。東海大は、6月18日の春季大会の一戦で5-64と敗れている。
11月下旬までのリーグ戦で3位以内に入ることで12月から選手権へ出て、そこで帝京大と当たった時にどう勝つか…。
その答えを導くためか。指揮官はいま、メンバー編成にメスを入れている。
もともと最後尾のFBが定位置だった谷口を、10月1日の法大戦からWTBに回した。
空いたFBには、新人のコンラッド・セブンスターを配した。南アフリカ出身のセブンスターは身長196センチ、体重95キロと大きく、突破力とロングキックを誇る。陣地の獲り合いで持ち味を発揮しそうだ。
指揮官は続ける。
「組み合わせ、コンディションの問題、選手の特徴を考えたうえで、我々が望むゲームをするのにふさわしいのは誰かを見極めたいです」
競技の肝にも注視する。スクラム、接点での強さをどこまで引き上げられるか。
ぶつかり合いを支えるのはFW陣。東海大が例年、強力な陣容を揃える位置だが、今季はその顔ぶれが大きく刷新された。
LOのワイサケ・ララトゥブア、FLのレキマ・ナサミラのフィジー出身コンビは、4年間の在籍期間を経てリーグワン参戦を表明。木村は「誰かに頼る感じにはしたくない。今年は総合力で勝負」と自覚して言う。
「まずはセットプレー(スクラムなど)をレベルアップしていく。もちろん時間との戦いもあるので、最終的な完成度がどこまで行くかによって、どういうスクラムを組んでどういうボールを出すかを考えなくては、とも思います。また、コンタクトエリアでどこまで勝負をかけられるか。フィジカルは徐々に高めてきていますが、急には強くならない。1対1で勝てないのであれば、そこに人数をかけなくてはいけない。かといって、人数をかけ過ぎたら(防御ラインの)バランスが崩れる…。そのあたりの粘り強さ、運動量で戦っていかなくてはいけません」
こう述べる指揮官に「ぶれない」と称えられる谷口はまず、これまでの振り返りと今後の展望をまとめる。
「ひとりひとりのやるべきことを80分間、徹底しようというテーマを持っていました。最初と比べると、そうできる時間が段々増えている。選手権に入るまでに、その時間をもっと増やしたいです」
状況ごとに変わる「やるべきこと」を正確におこなうべく、練習から実戦を想定する。記者とのやりとりを通し、このように応じる。
「もちろん最後は勝って日本一になるのですが、勝つゲーム作りの前に負けないゲーム作りが優先だと思っていて…」
ここでの「勝つゲーム作り」とは、「フェーズを重ねてトライを獲る、サインプレーを決める」といった得点につながる動きを指す。かたや「負けないゲーム作り」は、それらの動きが跳ね返された後の防御をイメージした言葉だ。
「相手にトライを獲られなければ負けることはない。自分たちで減らせる反則をしない、ディフェンスのシステムを強化する…。そういう点を取らせないゲームメイクを、リーグ戦でくせづけていきたいです。相手(帝京大)はフィジカルが強いですが、それほど複雑なことをするというよりは、シンプルなラグビーで勝負してくる。そこ(ぶつかり合い)で負けなければ、負けないラグビーはできると思います。…そうですね、間に合わせます」
球を持たして勝機を見出す心構え。これを全部員と高次で共有できれば、勝機を見出せるか。