ワールドカップ 2023.09.29

流に代わり齋藤直人が急遽先発、テンポの発信源に。サモア代表戦では「プレッシャーを軽減させる」のが鍵

[ 向 風見也 ]
流に代わり齋藤直人が急遽先発、テンポの発信源に。サモア代表戦では「プレッシャーを軽減させる」のが鍵
W杯初先発の齋藤直人。ジャパンのテンポを作る。(撮影/松本かおり)



 初めてワールドカップに出てみてどう感じるか。齋藤直人が答えた。

「これまでのテストマッチ(代表戦)と全然、違うなと。それはチリ代表との初戦前から感じていて。言葉でどう説明していいかはわかりませんが…」

 2023年秋のフランス大会に日本代表として参戦中。現地時間9月28日夜にはスタジアム・ド・トゥールーズで、サモア代表とぶつかる。
 試合2日前のメンバー発表ではベンチスタートの予定も、当日になって先発に変更となった。
 21番には福田健太が入った。福田は試合に出場すれば、初キャップ獲得となる。

 プールステージを戦い、各プールの上位2チームが決勝トーナメントに進むことができる。プールDで日本とサモアは、両軍とも1勝1敗。勝点も5で並び、得失点差によりサモア代表が2位、日本代表が3位となっている。

 日本代表は、2大会連続での8強入りが期待される。チームの命運を分ける戦いを前に、SHの齋藤が述べる。

「ここを落としたら、グループステージ突破が難しいのはチーム全員が認識しています。ただ、それがプレッシャーになっているかと言えばそれは特になくて。選手はコーチの提示するプランを信じて、それを遂行するだけだと思っています。(サモア代表は)フィジカルを全面に出して戦うチーム。そのプレッシャーを、ゲームコントローラーとしてどれだけ軽減できるか。チャンスを見極め、そこを逃さずアタックするか。それが鍵です」

 掴んだ好機を逃さない手応えなら、徐々に掴んでいる。イーブンボールを確保して攻めに転じ、防御の乱れを突く感覚が養われているという。

「練習、試合を重ねるにつれ、チャンスが来た時のスイッチの入り方、見極め方はよくなってきていると思います」

 話をしたのは試合前日。練習拠点でのキャプテンズランを前に、スタジアムで会見した。

 出席者には後藤翔太さんがいた。かつて齋藤が在籍した桐蔭学園高、早大でプレーしていて、齋藤が主将だった頃の早大でコーチを務めていた。2021年には、ちょうど初キャップを得た齋藤にフォーマルな場で活用できるベルトをプレゼントしたという。

 今回の会見には、解説者として訪れていた。挙手してマイクを手にするや…。

「齋藤選手に。頑張って下さい、応援しています! 以上です」

 突然の激励には、齋藤も「ありがとうございます」と笑い、場が和んだ。

 後藤さんは、現役時代のポジションが齋藤と同じSHだった。代表デビューを果たしたばかりの齋藤が素早いさばき、サポートで得点を促すのを見て、「同じストラクチャーでもSHが変わるだけでアタックの結果がまるで違う。SHって大事だな」と再確認した。

 齋藤本人も、自らの強みを磨き続けてきた。

 頭脳派で度胸のある流大との定位置争いのさなか、日本代表のトニー・ブラウンアシスタントコーチからは「お前はお前だ。お前の強みを出して、自信を持ってプレーしろ」と諭された。

 現所属先の東京サントリーサンゴリアスでは、ディレクター・オブ・ラグビーとして携わるエディー・ジョーンズ現オーストラリア代表ヘッドコーチから助言を受けた。

 フランス代表SHのアントワーヌ・デュポンの動きを引き合いに出され、「試合中に1回か2回、SHがテンポを変えられる瞬間がある。それを見逃さないのがデュポンだ」と投げかけられた。

 名伯楽の教えを受けるたび、自己分析してきた。

 素早く接点に到達し、素早く正確なパスを投げ続けられるのが自分の生命線だ。

 サンゴリアスでの活動中も、密集から球をさばく個人練習を繰り返してきた。

 日本中のラグビーファンが注目する今度の一戦でも、自分らしく仲間を動かす。


PICK UP