コラム 2014.09.29

Kのプライド 公立7校合同チームが大阪府予選で快進撃

Kのプライド 公立7校合同チームが大阪府予選で快進撃

 高校合同チームの星である。
 牧野、枚方、長尾、枚方津田、野崎、門真西、北かわち皐が丘(さつきがおか)と公立7校36人で構成された合同Kが9月28日、第94回全国高校大会大阪府予選で決勝トーナメント(以下決勝T)に進んだ。
 14日に早稲田摂陵を17−14、28日に天王寺を40−27と連破する。2009年度に早大の系属校になり、アカクロのノウハウを取り入れる新興強豪校を3点差。1922年創部と大阪ではもっとも古く、旧制中学を含め全国大会19回出場の公立伝統校には13点あけた。

 合同Kは、開催地枠1を含め3校が出場できる大阪府で第3地区の12ブロックに入った。AからCまである12のシード校以外は、3校構成の各ブロックに入り、リーグ戦をする。1位通過しなければ決勝Tには進めない。
 全部で16あるブロックを勝ち抜いた合同チームはKとL。しかし、Lの相手は同じ合同のHと初芝富田林。名の通った2チームを下したKの奮闘は光る。
 Kは力の順番ではない。大阪では高校体育連盟ラグビー専門部が大会メンバー表を受理した順にAからのアルファベットをつける。

 ジャージーは枚方の白地に胸元に青を挟んだ赤の三本線を着た。指揮を執った枚方監督・松嶋浩典は口元を緩める。
「勝ってくれてホッとしました。摂陵と天王寺の間の2週間で全員練習ができたんは3日間。不安の中でようやってくれました」
 7校集まってのトレーニングは土、日、祝日のみ。時期的に学校行事の文化祭や体育祭などでなかなかメンバーは揃わない。この日はPR、LOをこなす主将の宮原翼(3年・枚方)が関西大学Aリーグに所属する摂南大学の推薦入試と重なり、試合会場となった枚方高のグラウンドにさえ来られなかった。

 それでも勝てたのは経験者の多さである。
 枚方、寝屋川、大東市などに在住する高校生が合同Kに参加。その地域は「北河内」と呼ばれ中学ラグビーが盛んだ。高校は前年度全国優勝の東海大仰星、大阪桐蔭、常翔啓光、同志社香里などがある。例年の北河内大会は12人ではなく、全国でも珍しい15人制を採用。そのため公式戦で楕円球に触れる選手は多い。28日の天王寺戦では先発15人の内、13人が中学などでラグビーを経験していた。

 交野市立第一中学校でプレーしたWTB藤木健吾(3年・牧野)は、前半19、23、28分と3連続トライをマークした。特に23分にはラインブレイクにゴロパント、カバーをチップキックで抜き、あとはドリブル。ほぼキックのみでボールをコントロールし、インゴールに飛び込んだ。元トップレフェリーだった天王寺監督・田中伸明はつぶやく。
「あんなプレー、経験者でないとできん」
 50メートル走6秒2の快足を誇る藤木は白い歯を見せる。
「バウンドがラッキーでした」
 大学ではサークルでラグビーを続ける。
 ゲームキャプテンのFB根来弘樹(3年・長尾)は枚方市立楠葉(くずは)中学校で楕円球に触れた。26−22と4点差に追い上げられた後半23分、CTBが流れたところをタテに直線を引くようなライン参加。2人を抜き去りトライを挙げた。
「あれは得意なプレーです。キャプテンの宮原のためにも勝ててよかったです」
 根来は関西大学Bリーグの大阪産業大学進学が決まっている。

 さらに、合同Kはおのおののチームや指導者に全国レベルだった歴史がある。
 牧野は1982年度の第62回全国大会に出場した(2回戦で奈良・天理に0−6で敗退)。現牧野監督・吉田聡は、守口東監督時代の1988年度、漫才コンビ「中川家」の兄・剛をSHとして起用して第68回大会府予選決勝まで進んでいる(啓光学園に3−29で敗退)。
 1960年生まれでSHだった吉田は枚方監督・松嶋と天理大の同級生。関西を代表する強豪大学でHB団を組み、気心は知れる。同期には奈良・御所実監督の竹田寛行もおり、トップレベルの情報も下りてくる。
 枚方は1970年代に府予選決勝を3回経験した。長尾は1984年に近畿大会に出場したこともある。

 合同チームは地区決勝で優勝しても、規約により全国大会には出場できない。その状況下で吉田はモチベーションの保ち方を話す。
「予選ではウチはベスト8、あるいは4を狙っています。まずはそこを目指そう、と。近畿大会もありますしね」
 毎年3月の近畿大会には合同チームでも出場可能。1、2年生にとって、全国予選は経験を積む格好の大会になる。
 10月26日の決勝T1回戦では全国大会3回出場の布施工科との対戦が決定。勝てば8強でCシード、同5回出場の近畿大学附属との戦いが濃厚だ。吉田は笑う。
「そこまで行ければええですね」
 冬の花園には届かなくとも、合同Kには決して短くない18歳までのラグビー人生がある。そのプライドを一戦一戦に込めていく。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社、14年10月発売予定)がある。

(写真提供:大阪府立牧野高校・吉田聡監督)

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