【ラグリパWest】オレンジのアンパンマン。海士広大 [クボタスピアーズ船橋・東京ベイ/PR]
2歳のひとり娘とのブームはアンパンマンである。
このアニメを一緒に見る時、海士広大(かいし・こうた)は幸せに包まれる。
アンパンマン・ミュージアムは全国5か所。目指すはコンプリート訪問だ。
娘は女の子らしく、口が立つ。
「ダメだよ、とか言われます」
それすら愛おしい。デレデレだ。
32歳の海士にとって娘はラグビーをする原動力だ。長めのスポーツ刈りと柔和な目、丸々した体はすし屋の大将でも通る。
その見かけとは真逆。スクラムでバチバチやってきた。172センチ、102キロの左PRである。プロ選手として3年目に入る。
所属するクボタスピアーズ船橋・東京ベイはリーグワンのディビジョン1(一部)。チームの略称は「S東京ベイ」だ。
海士はオレンジのジャージーのS東京ベイにアンパンマンのような献身がある。3番手として、惜しげもなく自らの顔(あんパン)をチームのために差し出す。
献身とはその存在そのものだ。3番手がいないとチームの安心安全はない。ケガ人が出れば、たちまち行き詰る。スクラムは対戦相手との最前線であり、消耗は激しい。
海士は先の準優勝シーズンを振り返る。
「悔しさはある。でも、仲間として、応援したい。そんな気持ちが入り混じっています」
21の公式戦中、出場は入替8試合だった。
先んじたのは紙森陽太と加藤一希。そもそも左PRはレベルが高い。全員が日本代表レベル。紙森の試合出場を示すキャップは3。加藤は先月、代表合宿に初召集された。
海士もキャップ1を持つ。得たのは4年前、6月18日のウルグアイ戦だ。後半20分、三浦昌悟(トヨタV)と交替出場する。34-15の勝利に貢献した。
キャップ持ちの海士にとって、先のシーズンは不本意ながらも記録を得る。生え抜き選手としてチーム100キャップを記録した。真面目にやってきたことのご褒美である。
記録はチームで15人目。現役選手としては立川理道、末永健雄に次ぐ。大台到達は3月14日の埼玉WK戦だった。後半19分、紙森と交替出場。試合は30-32で敗れている。
海士は節目を振り返る。
「嬉しかったですね」
その感情を増やすため、基礎に戻る。
「リョウさんと首トレをしています」
スクラム担当コーチの山村亮の名が挙がる。
上下左右、4方向に首を全力で向ける。山村はそれを両手で受け止める。首を取れれば、相手をコントロールでき、スクラムは有利になる。2年前、首から肩に痛みが走ったことがあった。その部分の強化に徹する。
ヘッドコーチ(監督)のフラン・ルディケは海士の32の年齢について語る。
「年は関係ありません」
海士はまた寝て起きる速さも意識する。
「才能はいらない。誰にでもできること」
ルディケの教えを守っている。
素直さも海士の美徳のひとつだ。高校は大阪の常翔学園。大学は同志社に進んだ。当時、監督だった野上友一の「同志社に行け」の言葉に従う。高3時には同校に5回目の全国優勝をもたらした。92回大会(2012年度)の決勝は御所実に17-14だった。
常翔学園は夏合宿で1時間以上のランパスをする。海士ももれなく洗礼を受けた。
「あれで精神を鍛えられました」
グラウンドの縦100メートルを全速力でボールをつなぐ。ミスをしたらやり直し。笑っていても海士の心は強い。
常翔学園は同じ大阪市内にある東生野中から入った。競技は中学入学後に始めた。
「それまでやったサッカーに比べたら、周りに合わせなくてもよい感じでした」
中2からPR。常翔学園にはその強さや進学実績に引かれたこともあった。
同志社に進学した常翔学園の同期は山田有樹と松井千士だった。山田は九州KVのFL。松井は日本代表キャップ2を有する横浜EのWTBだ。4年時は関西2位で大学選手権を迎える。53回大会(2016年度)は4強敗退。東海大に12-74だった。
同志社入学の頃、思い出がある。
「やらかしました」
ラグビー部寮に入っていたが、届けを出さずに外泊した。同期が集められ、説諭される。
「みんなに迷惑をかけました」
和を乱さないことを思い知る。
社会人はS東京ベイを保有するクボタに決める。同志社のOBが多かった。
「尊敬する人たちやりたい、と思いました」
今も現役を続ける北川賢吾や才田智。引退した四至本侑城もいた。現在、GMの前川泰慶(ひろのり)もそうである。4年間、監督だった山神孝志もクボタからの出向だった。
海士はS東京ベイのよさを語る。
「ブラザーフッド、兄弟愛のようなものが底にあります。たとえ同じポジションであってもギスギスしていません」
教員出身のルディケは開幕戦を迎えれば11シーズン目だ。58歳になり、選手を教育的に包み込む温かさに拍車がかかる。
海士にとっては10シーズン目になる。
「チーム目標はもちろん優勝です。土台は築けていると思います」
S東京ベイは2022-23のシーズンにおいて、トップリーグ時代を含めて初優勝を飾った。創部46年目だった。以後、6、2、2位と来ている。海士の言葉通りだろう。
自分のことを見やる。
「もう1回、ブレイクしたいですね」
理由はいくつかある。超優良企業のクボタの社員をやめ、ラグビーのみに打ち込んだ道を正解にしたい。娘がラグビーをわかるまで現役を続けたい思いもある。グラウンドで大声援を背に受けたい。
心配はご無用だ。アンパンマンはハッピー・エンドで終わるようにできている。



