コラム 2026.08.28

【ラグリパWest】降りてゆく教え。田野純一 [京都市立伏見中学校/ラグビー部/外部コーチ]

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】降りてゆく教え。田野純一 [京都市立伏見中学校/ラグビー部/外部コーチ]
京都市立の伏見中のラグビー部における外部コーチなどをつとめる田野純一さん。コーチングに人生をかけている。伏見中監督の伊藤賢さんとは伏見工時代から四半世紀ほどの付き合いになり、気心は知れている。田野さんはこの中学のOBでもある。写真右のスペースは今は倉庫になっているが、現役の時は部室だった。

 草莽の志士は命を捨て、明治維新の実現に奔走した。地位も名誉も利益も求めない。

 その生きざまに田野純一は寄せる。違うのは革命ではなく、ラグビー指導という点だ。中学生の育成にすべてを注ぐ。

「生きがいは子どもの成長です。その手助けができればいい。自分の葬式に教え子がどれだけ来てくれるかが大切だと思っています」

 ラグビーをその手段に使う意味がある。
「仲間のために体を張ります」
 切れ長の目は笑うと左右に伸びる。繁盛する喫茶店のマスターの包容力が漂う。

 田野は38歳。軸は京都の市立中学、伏見のラグビー部の外部コーチである。監督で保健・体育教員の伊藤賢を支える。田野はこの中学の卒業生で、2人は高校の同期だ。

 市立中学の部活動は2年後、地域に移される。円滑な移行に向け2023年、FOX JUNIOR RUGBY FOOTBALL CLUBが作られた。中学のセカンド的なチームで田野は責任者だ。

 伊藤にとって田野は相棒だ。
「いてくれて、むちゃくちゃ助かっています」
 田野は毎日、練習に参加する。伊藤が誘い、コンビを組んで5年目に入った。

 田野の参謀的な役割も伊藤には嬉しい。
「映像で見られる試合は全部見ています」
 そこからトレンドを抜き出し、それができるようになる練習を色々と考える。

 クラブ名のFOXは狐。伏見稲荷の神の使いとされている。狐はまた伏見工から京都工学院に連なるラグビー部の象徴だ。冬の全国大会の優勝は4回。歴代6位にあたる。田野と伊藤はその最後の優勝を成し遂げた。

 3年時の85回大会は2005年度。決勝戦で桐蔭学園を36-12で下す。田野はバックロー、伊藤はSHとして深紅のジャージーをまとった。田野は優勝直後、花園ラグビー場で李大佑(り・てう)と記念撮影をする。

 李はOBであり、中学時代のコーチだった。
「李先生がいないと僕の人生はありません。本気で来てくれる初めての大人でした」
 やんちゃな部員が逃げたら追いかける。結婚式に出席の日はスーツ姿で指導をした。

 その指導の源流は、伏見工の総監督だった山口良治にある。李は高校時代、指導者のひとりと衝突したことがあった。山口は翌朝6時、家庭訪問をかける。李と一緒に登校した。泣き虫先生における教育の神髄である。

 山口は半世紀ほど前に保健・体育教員として伏見工に赴任した。ラグビー部の監督として、隆盛の基礎を作った。その軌跡はテレビドラマ『スクール☆ウォーズ』になる。永眠したのは今年5月。83歳だった。

 山口からラグビーを通した人作りの情熱は李、そして、田野に降りる。田野は3世代目だ。李は京都市の小中一貫校、向島秀蓮(むかいじましゅうれん)の教員、そして伏見工と京都工学院のOB会の会長をしている。

 田野は3年前、12年勤めた食品系の会社を辞めた。島根から京都に帰る。当時、支店長だった。部下は80人。年商は入社当時の2億から140億円になった。伏見工を卒業後、就職を選び、勤務は3社目だった。

 当たりを引きながら、軽々と捨て去る。
「サラリーマンとの両立は限界でした」
 嫁の紗智(さち)も夫を信じる。
「あなたは何とかしてくれる」 
 美しい夫婦愛が背中を押してくれた。

 さりとて、自分を含め家族4人を養わないといけない。2年前から遺品整理や不用品を回収するFOX SERVICEをひとりで始めた。
「時間が自由になるからです」
 配達業もやったが、拘束を感じた。

 急ぎの遺品整理を頼まれ、数日間で3ケタの報酬を提示されることもある。
「2、3週間もらえるならお受けします」
 数日間は仕事にかかりっきりになる。ラグビーを教えられない。それは違う。

 そのコーチとしての振り出しは光泉。監督の薬師寺利弥は伏見工の先輩だった。伏見クラブジュニア、そして伏見中に移る。今は一般社団法人<FOX BASE>の代表理事として「放課後ラグビー」も週1回実施する。母校以外の中学生にもラグビーを教える。

 放課後ラグビーでも無欲さが顔をのぞかせる。企業からの協賛金でまかない、月謝はなし。田野はA級コーチとB級レフリーの資格を持つ。どちらも日本協会公認だ。地域の普及を託されたRDO(Regional Development Officer)でもある。お金は取れるはずだ。

 無料には田野の思いがある。
「家庭環境に左右されないようしてあげたい」
 部活の地域移行になればその可能性はある。
「小さい頃、住んでいた家にはお風呂がありませんでした」
 窮屈な生活は体験済みである。

 そのコーチングに関して、実子には一線を引く。長男の琥太郎は京都工学院の1年生HOだ。中高の後輩にもなる。
「かわいそうでしたが中学時代、長男とは家でラグビーの話をしませんでした」
 ほかの部員たちと差がつくことはしない。

 それが田野のこだわりだ。次男は小5の桜介(おうすけ)。南京都ラグビースクールにいる。田野が見据えるのは中学生のみだ。
「一番感受性が豊かな時だと思っています。ここでどういう人生かが決まります」
 高校や大学、社会人には興味はない。

 その中学生の全国大会が来月9月19日、茨城の水戸で開幕する。いわゆる<太陽生命カップ>である。初戦の相手は成城学園だ。
「今年の子らは、出場は難しいかな、とも思ったけど、よく頑張ってくれました」
 目を細める。出場は3年連続6回目だ。

 大会3日間の田野の予定は決まっている。
「すべて帯同します」
 ラグビー指導の最終目的は人間形成である。勝利はそのための目標のひとつに過ぎない。ただ、これまでの成果を勝敗という点から見られる。田野の幸せである。

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