コラム 2026.08.13

【村上晃一の楕円球ダイアリー #12】U20日本代表が大切にする「適応力」について

[ 村上晃一 ]
【村上晃一の楕円球ダイアリー #12】U20日本代表が大切にする「適応力」について
明大4年のSO伊藤龍之介。今夏のテストマッチ全試合に先発中(撮影:早浪章弘)

 今夏は日本代表戦が多く、ラグビーが恋しくなることなく日々を過ごしている。

 強豪国を相手に互角に戦う局面が増えた日本代表は頼もしい。もちろん、勝利という結果は欲しいが、着実な進歩を感じるのは嬉しいものだ。

 そんな戦いの中で明治大学4年生のSO伊藤龍之介の活躍が際立っている。

 伊藤は、6月27日、JAPAN XV(ジャパンフィフティーン)の10番(SO)として、マオリ・オールブラックス戦に出場した。この時の伊藤は、パスやキックの前にタックルされてミスをするなど、世界トップレベルのプロ選手を前に苦しんでいた。

 しかし、日本代表デビューとなった7月4日のイタリア代表戦では、見違えるような動きで日本代表をけん引した。判断のスピードを一段階上げ、簡単にタックルされず、ミスも少なかった。トップのプロ選手たちのレベルにいち早く適応したことに驚かされた。

 ラグビーマガジン10月号(8月25日発売)の連載「コーチング・マイウェイ」でU20日本代表の大久保直弥ヘッドコーチにお会いして話を聞いた。「適応力」という言葉が印象に残った。

 20歳以下の日本代表は、大学1、2年生が軸だ。そして、2023年以降の大会に出場したU20日本代表からは留学生の名前が消えている。これは意図的なものではなく、世界的なルールとして、その国のチームに5年継続して所属していないと代表資格を得られなくなったためだ。

 そのため現在のU20日本代表は日本のチームで子供の頃からプレーしている選手で世界と戦うことになっている。
 当然、体格は小さく、平均身長で10センチ、体重で10キロ劣るのは当たり前。これまで以上に工夫を凝らし、組織で戦うことが必要になったのだ。

 U20世界大会の上位チームはリーグワンのトップ6と変わらないフィジカル、スキルを持つという。そのため、大久保HCはリーグワンのチームの胸を借り、強化に当たってきた。フィジカルレベルに慣れると同時に、大久保HCが重視するのが「適応力」だ。

「チャレンジすることで学ぶ、学んで適応する、これを繰り返すしかない。2023年から(U20日本代表の)選手を見てきて、上手くいかなかったことを失敗ととらえるか、学びととらえるかによって、大きな差が生まれると感じています」(大久保HC)

 伊藤龍之介は、2023年のU20日本代表で世界大会に出場し、そのことを叩きこまれている。だからこそ、マオリ・オールブラックス戦のミスを失敗ととらえて自信を失うのではなく、学びとして次に生かしたのだ。

 関西学院大学4年生のPR大塚壮二郎にも同じことが言える。

「適応」と似た言葉に「順応」がある。手元にあった辞書「辞林」(三省堂)で調べてみた。【適応=ある状況に合うこと。また、環境に合うように行動の仕方や考え方を変えること】、【順応=環境や境遇の変化になれること】。

 当然ながら、環境に慣れることと、能動的に行動を変化させることは違う。「適応力」についてAIにも聞いてみた。【環境や状況の変化に応じて、自分の考え方や行動を柔軟に変え、うまく対応していく能力のことです。わかりやすく言うと、変化に合わせて自分を調整できる力です】。

 もちろん、伊藤龍之介も一人で適応したのではなく、コーチ陣や経験ある選手たちの助言を聞きながら成長しているし、今後も壁にぶつかるはずだが、「適応力」で乗り越え、日本代表をリードする選手になってほしいと願う。

 大久保HCは、高校3年生から大学1年生に上がる段階で試合数が少なくなることについて危機感をおぼえ、この年代での強化の重要性にも言及した。
 U17日本代表、高校日本代表、U20日本代表の連携は今まで以上に緊密になっている。選手としては伸び盛りの時期に、科学的なトレーニングで筋肉量を増やし、質の高いスキルを身に着け、世界トップレベルのプロ選手と戦う経験を積む。そのプロセスの中から第二の伊藤龍之介、大塚壮二郎が出てくるのだろう。

 大久保HCの話を聞きながら、世界の列強を相手に堂々と戦う選手たちが次々に生まれることを想像して胸が躍った。

【筆者プロフィール】村上晃一( むらかみ・こういち )

ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度、西日本学生代表として東西対抗に出場。87年4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーランスの編集者、記者として活動。

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