コラム 2026.07.08

【コラム】サッカーワールドカップから学ぶ。

[ 渡邊 隆 ]
【コラム】サッカーワールドカップから学ぶ。
無尽蔵のスタミナでスプリントをし続けた前田大然(Photo/Getty Images)

 日本中が沸いたブラジル戦。『目標はワールドカップ優勝』を公言する日本代表にとっては、決勝トーナメント初戦の相手に不足はなかった。

 いきなり最後の「仮想決勝」を味わえる、またとないチャンスだった。日本の力を示す絶好の機会だと思った。

 堂安律をはじめとした日本の選手たちの周りには、ビッグネームに臆せず立ち向かう謙虚なチャレンジャーとしての清らかな風が流れていた。勝てる可能性は秘めていた。

 佐野海舟はセンターサークル付近から一人で相手ボールを奪い、ど真ん中をドリブルで切り裂き、ゴールまで持っていった。そして、ボールはゴールの霧の中に吸い込まれたように見えた。

 鉄壁のデフェンス、強豪チームのゴールを割るには、この手があったんだと思った。ブラジルでさえ、このカウンターには対応しきれなかった。この攻撃的な防御に命をかけ、スキームのひとつとして磨き上げることがきっと勝利に近づくはずだ。

 敵陣でボールを奪うことは簡単ではないけれど、【球際の強さ】は、このチームが最も大切にしてきた核のひとつだ。

 サッカーはチームプレーだけど、ひとつのボールを奪い合う個の戦いは格闘技そのものである。読みや技術は絶対条件だが、戦いである限り『気』がその核心であることは間違いない。

 システムやセオリーを超える『気』は、日本人の優位性を活かせる領域である。スポーツにおいて、他国はあまりその存在、重要性を理解できないのではないだろうか。

 我々の先祖は欧米に比べると歴史的には肉の摂取量が少なく、植物性食品や魚を多く食べる食文化の中で暮らしてきた。個の力を高めるだけでなく、とても敵わない要素は同じ土俵で戦わず、日本が世界に勝つための『違い』に焦点を当て、戦略を練るべきである。

 日本が世界と戦える優位性、特異性は「機敏さ」「器用さ」「緻密さ」「真面目」「持久力」「組織力」「インテリジェンス」そして、「サムライジャパン」の武士道から繋がる「精神性」「気」ではないだろうか。

 ラグビーにおいても同様である。

 しかし、このゲームを決めたのは、百戦錬磨のアンチェロッティ監督のハーフタイムの采配、指示だったと思う。熱弁を振るうのではなく、静かに選手たちの目を見て、具体的な要点を簡潔に、低音でゆっくりと伝えたのだろう。

 前半苦戦した日本の守りを、後半から陣形、戦法を変え、キャラクターを変え、マッチアップの化学反応を変えて、ついにスペースを見つけ、日本の組織的な堅い守りを崩していった。

 戦況を見つめる深い洞察眼、前半で敵の戦略、戦力を見透かし、自軍の手持ちの駒と対比させ、冷酷な慧眼とも言える高速コンピュータが勝つ方法を弾き出した。その組織のリクリエイトが後半の破壊力に繋がった。

 田中碧はこの敗戦の責任を一身に負わなくて良い。たとえあの数分後、延長になったとしても結果は変わらなかったはずだ。すでに日本イレブンは、アンチェロッティの手の上に乗せられていた。

 サッカーという競技が、これだけ理詰めのクレイバーなスポーツであることをあらためて感じた。指揮官の指示ひとつでゲームは大きく動かせる。サッカーというスポーツの歴史と文化の奥深さを思い知らされた。

 来年は、ラグビーワールドカップが待っている。

 この学びは、真剣勝負のあの一戦からしか得られなかった宝である。負けて得た教訓は大きい。

 日本ラグビーの未来も、世界の強豪に立ち向かった日本サッカーのこの一戦から学ぶことは多いはずだ。

【筆者プロフィール】渡邊 隆( わたなべ・たかし )
1957年6月14日、福島県生まれ。安達高→早大。171㌢、76㌔(大学4年時)。早大ラグビー部1981年度FL。中学相撲全国大会準優勝、高校時代は陸上部。2浪後に大学入学、ラグビーを始める。大西鐵之祐監督の目に止まり、4年時にレギュラーを勝ち取る。1982年全早稲田英仏遠征メンバー。現在は株式会社糀屋(空の庭)CEO。愛称「ドス」

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