【ラグリパWest】人類のためだ、に続く人たち。
藤島大を敬愛している。
ラグビーコラムのひとつに『人類のためだ』がある。名文家の藤島の中でも白眉だ。この壮大さは他者の及ぶところではない。
東大ラグビー部のホームページに飛べば、この玉稿が読める。東大が力上位の慶應に勝った対抗戦ゲームから始まり、この大学で競技をやる意義が述べられる。
書き屋のはしくれとして、<スイカは踊り、虎は這いつくばった>とのジャージーを模した表現は秀逸だと思う。あやかりたい。あっ、個人的な感想は脇に置こう。
<いつか、なにがしかの役を得て、国連本部の密室で、雄弁にして老獪で鳴るフランスあたりの大臣と一対一の交渉に臨む。そこで負けない。負けないだけの人生の芯をつかんでいる。そのために走ろう。倒そう。起き上がろう>
ラグビーをやった東大生の未来予想図が書かれている。そして、<人類のためだ>で締めくくられる。20年前の原稿とは思えないほどみずみずしい。そして教訓的だ。
その東大への合格者数で全国2位の高校が兵庫県にある。灘である。今春の合格者数は95人。1学年は200人と少々なので、半数近くが赤門をくぐることになる。進学トレンドは<東大か医学部>と聞いたことがある。
灘の創立は1927年(昭和2)。来年100周年を迎える。旧制中学としてスタートした。この私立男子校はほぼ中高一貫。ラグビー部の創部は21年後の1948年に定められている。学制改革で新制高校になった年だ。ファースト・ジャージーは深紅である。
ラグビー部は全国大会出場こそないが、近畿大会の出場は4回ある。77回となった大会は春の選抜の予選になった。監督を兼務する保健・体育教員は武藤暢生。その体育部門の教員は日体大から呼ぶのが慣例だ。武藤はレギュラーFLだった。息子の航生(こうしょう)はリーグワン<横浜E>のFBである。
若きOBには中田都来や大鶴誠(じょう)がいる。どちらも医学部。中田は筑波大に進み、FLとして関東対抗戦の名門で2年からレギュラーをつかむ。そして、整形外科医になった。大鶴は京大に在学中。先ごろ、U23日本代表にSOとして選ばれている。
その灘の最上級生たちの高校ラグビーが5月24日、終わった。芦屋に19-47(前半7-21)。勝てば8強進出だった。それ以前の2試合には連勝している。
芦屋の監督は渡邊雅哉。武藤の教員同期だ。県高体連ラグビー専門部の委員長で、県立校ながら勧誘を含め、強化に励む。8強戦では今春、選抜大会に実行委員会推薦枠で出場した神戸を31-29で破った。
大会はいわゆる春季大会だった。兵庫では<県民大会>の名がある。灘は基本的にこの大会をもって3年生は引退する。受験勉強に集中するためだ。部員数は31。そのうち3年生はケガ人を含め18人いた。
今年のチームは共同主将制を採った。坂本熙(ひろ)と米田遥希(はるき)がその任につく。坂本はNO8、米田はLOだ。敗戦後、坂本は防球ネットの高く太い柱に背中を当てて座り込む。そして、うつむいた。
「燃え尽きています」
武藤はつぶやいた。
坂本は言葉を絞り出した。
「めちゃめちゃ悔しいです」
勝ちにいった。及ばなかった。5年目の敗北である。坂本が競技を始めたのはこの中学の2年からだった。友達に誘われた。
<どの立場にあっても「自分たちより強い相手にひるまず立ち向かう」。そのために知恵を絞り、心身を追い込み、軋轢を乗り越える。そんな過程が知性的な行動なのである。それは未知の難問を解決する際に求められる知性とも重なる>
藤島が『人類のためだ』に書いたように、坂本らは立ち向かった。軋轢もくぐり抜けた。
「関係がうまくゆかなかったりしても、体をぶつけあうと、どうでもよくなります」
そうして、その関係は続いてゆく。
坂本はコンタクトを考察する。
「体をぶつけるということは人間の本能的なものなのかもしれません」
なるほど。猿人のころからの遺伝なのか。確かにボクシング、すもう、空手、レスリングなどの格闘技がすたれる気配はない。
坂本の言う本能的な部分はラグビーにおいても芯になる。
「ほかの球技は技術がメインです。ラグビーはうまくても、相手に当たりにゆくメンタルが必要です」
強い気持ちを日々、鍛える。それが雄弁で老獪な大臣に立ち向かう下地になる。
灘の新入部員は3人だ。2年生は10人。秋の全国大会予選には2人足りない。
「タグラグビーの授業があるので、その時に魅力を伝えたいと考えています」
武藤には展望がある。1、2年生の体育では選択制でタグラグビーをやる。興味を持ってくれた生徒を呼び込みたい。
10年前、この県民大会が終わって3年生は引退した。部員は9人になった。秋になって、8人が復部や新規入部してくれた。結果、合同チームではなく、単独出場を維持した。
その8人の中には3年生の中田やサッカーを引退した同学年の和田爽がいた。受験勉強を一時棚上げする。当時、武藤は話した。
「義理人情に厚い子が実は多いのです」
一点で突き抜けると利害をも超越してゆくものなのだろう。
坂本は進路をまだ明確に決めていない。
「文系か理系かと問われれば、理系になります。でも、リサンではありません」
理科三類は医学部。東大にある。
取り組んだラグビーの感想を残す。
「最高のスポーツだと思います」
坂本がどのような人生を歩むかわからない。が、<人類のため>のひとりであるのは間違いない。それはまた、灘のラグビー全体にかかる枕詞でもある。




