【ラグリパWest】司令塔の使命。上里貴一 [九州電力キューデンヴォルテクス/SO]
取材は村上泰將の推薦による。
愛称「ヤス」との付き合いも長くなった。出会いは四半世紀ほど前。当時はラグビー日本代表の通訳をしていた。
今はリーグワンの九州電力キューデンヴォルテクス、略称「九州KV」のチームディレクターについている。中軸のひとりである。
そのヤスの推薦は上里貴一(うえざと・きいち)だった。理由を挙げる。
「今、いいんですよ」
ポジションはSO。29歳の社員選手だ。勤務先は九州KVを持つ九州電力。この4月にはチーム、会社ともに在籍8年目に入る。
上里は先月27日、ヨドコウ桜スタジアムの緑芝の上にいた。RH大阪との一戦に先発。31-24の勝利に貢献した。
「負け続けていたので、とてもうれしいです」
チームの連敗を5で止めた。
前半20分、蹴り足の左から高いハイパントを上げる。CTB中靍憲章が好捕。その流れに乗り、ゴール前のポイントから、WTBチャーリー・ワージントンにオーバーヘッドパスよろしく、上から、素早く、楕円球を預ける。10-7と逆転のトライを完結させた。176センチ、84キロの体が躍動する。
上里は振り返る。
「あのトライは外が空いているのが見え、ディフェンスが詰めてきたので放りました」
両目が喜びを思い出し、まん丸になる。アニメの忍者くんがキック、パスと鮮やかな一連の忍術を使ったかのようだった。
前半38分、レイトタックルを受け、緑芝の上に倒れ込んだ。医療系の2人が駆け寄る。しばらくして飛び起きた。
「大丈夫。ちょっと打撲は残っていますが」
タフさも持ち合わせている。
九州KVはこの試合が今季9戦目だった。上里は5試合連続で先発する。ほかのSO登録は3人。松下彰吾、喜連航平、ジュード・ギブスだ。松下は6学年、喜連は1学年それぞれ上。新加入のギブスは5学年下だ。
松下のゲームメイク、右から長いキックを放つ喜連よりもSOとしての評価はリードしている。昨季はニュージーランド代表キャップ3を持つトム・テイラーの存在もあり、上里の出場は2試合にとどまった。
その進歩のわけを上里は語る。
「コーチが変わりました」
昨季終了後、ロブ・テイラーと竹田祐将が加入した。2人とも現役時代は同じSO。実体験からの教えは浸透しやすい。
特に竹田は2年前、頸椎を痛め、31歳での現役引退を余儀なくされた。自分の夢を上里に託す思いもあるのだろう。
「ボールをもらう前にも相手を見て、それも含めて攻めを選ぶことを教わりました」
竹田の父・寛行は御所実を強豪化する。冬の全国高校大会で準優勝4回。血脈がある。
そのSOを軸に上里が競技を始めたのは高校入学後だ。沖縄の県立校、名護である。
「それまではサッカーをしていました。先輩にラグビーを誘われました」
高2からレギュラーになる。その冬の全国大会は93回(2013年度)。3回戦で優勝する東海大仰星に0-63で敗北した。
この3回戦進出は名護の最高位だ。3回ある。出場回数は県内トップの22。2位はコザの16回。そのコザに上里の1、3年時は県予選決勝で敗れている。名護の創部年は1977年(昭和52)。本土復帰の5年後である。
高校こそ違え、同期は宮里侑樹だ。名護商工から早大に進んだ。
「彼のことはチェックしています」
現在は相模原DBのHO。同じ「うちなんちゅ」として気になる存在である。
上里は岐阜の朝日大に進学する。
「仲のよかった先輩がいました」
名護から1年前にCTBの渡口大貴が入学していた。朝日大は上里の在学した4年すべてで大学選手権に出場している。
上里は2年を除き、SOとして先発する。最良は3年時の54回大会(2017年度)。最高タイの3回戦にチームを押し上げた。流経大には前半、24-28と4点差だった。
「勝てる、と思ったけれど、相手の方がラグビーを知っていました」
最終的には関東リーグ戦の3位校に34-55と及ばなかった。
上里は高校と大学でチームを最高位に押し上げた。満足感があったことは否めない。キャリアの終了を考えていた。
「草サッカーをしようと思っていました」
町の中村憲剛を目指し、スルーパスを練習するつもりだった。その中で九州電力が地元出身の社員選手として声をかけてくれる。
「今まで先輩についてゆく人生でした」
ひとり立ちを考え、実行した。
社業においては、<エネルギーサービス事業統括本部>に属している。
「50くらいある営業所をまとめる部署です。会社はしっかりしていて、いやすいです」
今は育児休暇を取得中だ。昨年は男児、一昨年には女児が年子で生まれている。
大学から続く内地での生活は楽しい。
「刺激をもらっています」
その日々の中でも、沖縄は常に胸にある。
「めちゃめちゃ好きです。時間がゆっくり流れる。せかせかしていません」
故郷の料理で好きなのはタコライス。めしの上にひき肉やトマトなどタコスの具材を乗せる。沖縄そばを麺から作ったこともある。
「1回でやめました。大変でした」
名護には沖縄そばの名店、宮里そばや我部祖河食堂がある。「がぶそか」と読む。
その沖縄の血を誇りに、九州KVのために戦う。現在は9戦3勝6敗で勝ち点15。8チーム中の7位だ。入替戦圏外になる6位の釜石SWとの勝ち点差は1だ。
上里は司令塔と呼ばれるSOを定義する。
「チームを勝たせるポジションです」
4月4日にはGR東葛と対戦する。
「今はきついけど、あとは全部勝ちます」
残り試合は「5」。10番を背負う者としての責任を果たしたい。白星が連なれば、目標だったトップ3も現実味を帯びてくる。



