【連載】プロクラブのすすめ㉛ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 静岡やブルーレヴズの良さを知って欲しい!
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。
31回目となる今回は、苦しむチームの現状や採用などについて語ってもらった(3月6日)。
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――チームは連敗中(第12節で連敗脱出)。かなり苦戦しています。
なかなか上手くいきませんね…。
僕もアメフトで2年ほどコーチを経験してきましたが、こういう時は選手、コーチ、そして私も含めてそれぞれが自分に矛先を向け、自分にできることは何か、を考え続けるしかないと思います。
いまやるべきこと、中長期でやるべきことをちゃんと整理しながら、本質的な問題を解決していきます。
ラグビーの現場に関しては、コーチを信じるしかないですし、藤井(雄一郎)さんとは毎週ミーティングをしています。
経営者としては例えばケガ人が多いのであれば補強できないかなど、経済面で問題解決できるかをしっかり考えないといけません。
――山谷社長は強化部の部長(GM)も兼任していますね。
はい。バスケのクラブの経営者だったときも、強化の責任者を兼務したことがあります。
自分がクラブの経営者になるタイミングは、立ち上げから徐々に強くなっていくフェーズであることが多いので、専任の強化責任者に人件費をかけられなかったんです。
経営に直結する役割ですし、予算面の判断をすぐにしなければいけない役割なので、バスケもラグビーも競技は未経験ですがそうしたポジションをやってきました。
ただ、これが正解だとは思っていません。チームがなかなか勝てない状況になると、やはりラグビーに知見があり、現場に寄り添える強化の責任者をちゃんと置かなければいけないと感じています。
僕は週に1回くらいしかクラブハウスに行けず、練習をきちんと見たり、他のスタッフと雑談も含めたコミュニケーションができる状況ではあまりありませんので。
――もし適任者がいれば採用したい意向なのですね。
強化の責任者は予算の管理もしなければいけません。限られたお金の中で、どうやってやりくりしていくのか、どういう工夫ができるのかが問われます。
そのためには本質的にチームの課題を見抜く力が必要ですし、時にはコーチと向き合って議論をしなければいけないタフなポジションなんです。
ラグビーではあまり見られませんが、バスケの時はシーズン中に選手やコーチの契約を終わらせるケースもありました。そうした嫌われ役になることもあります。
現場からはもっとお金をかけてくれと言われる一方で、上司である社長からはこれ以上はお金を出せないと言われることもある。板挟みになるので、非常に難しい舵取りが問われます。
――かたや事業面では、ここまで好調です。現時点での平均観客数は8682人で、昨季は7590人でした。
昨季はチームの成績が良かったけど事業面の調子が悪く、今季はチームの成績は芳しくないですが事業面の調子は良いという…なかなか噛み合わないですね。
ただ、いまの状況でコンスタントに7000〜8000人を集められているのは、勝ち負けに関係なく集客できる力がついたことの表れだと思います。
しかも、今季はホストゲームが前半戦に集中していて、12月、1月と集客の難しい寒い時期に2試合ずつおこなわれました。
前回にもお話ししたチケット販売部門の努力が結びついているのもありますし、広報チームの頑張りもあると思っています。
地上波で試合の中継をしてくれたり、県内のスポーツを特集する番組に選手を出演させてもらうなど、県内メディアへの露出が以前よりも増しています。
首都圏のクラブではマスメディアでこうした特集を組んでもらうのは簡単ではないので、これは地方のクラブの強さだと思います。
また、第10節時点でパナソニックさんの平均観客数を抜きました。ホストスタジアムを1か所としているパナソニックさんをベンチマークにしているので、誇らしいことです。
ジュビロ磐田さんも現在J2で苦戦しているとはいえ、同じくらいの平均観客数なんです(4試合で平均8943人)。有料比率はジュビロさんの方が高いと思いますが、観客数として近づいているのは、このエリアで一定の存在感が出てきたとみていいのかなと思っています。
――ジュビロ磐田といえば、ヤマハ発動機が子会社化すると発表しました。
ヤマハ発動機が「第三者割当増資」によって30%程度だった保有株を50%以上に戻したということです。よりコミットしていくことの表れだと思います。
そして経営者をこれまではヤマハ発動機内から派遣していましたが、初めて外部の社長経験者を迎えました。町田ゼルビアの社長だった大友健寿さんですね。
そんなこともあって実は、ヤマハ発動機本社と僕と大友さんでミーティングすることも増えてきたんです。
例えば、ヤマスタジアムの看板はジュビロさんが販売されているのですが、それをLED看板にできないかと議論しています。そうすればサッカーとラグビーの試合ごとに切り替えられるので、ブルーレヴズの収益増にも繋げられます。
ブルーレヴズのためだけに良くしてくださいと言うつもりはないのですが、一緒にスタジアムを改善することについて議論できる輪に加われているのはとてもありがたいことです。
――話は戻りますが、観客数が増えれば当然、グッズの売り上げも伸びている。
今年は確実に1億円を超えると思います。購買人数比率(観客数に対するグッズ購入者数の割合)も15%程度まで伸びていて、スタジアムに来た6人に1人がグッズを買っている計算です。さらに購買単価も2〜3000円から4〜5000円まで伸びています。
比較的コアなファンが増えていることということですね。
1月からグッズ売り場の場所を変えて広くしたことも、購買単価増に繋がっていると思います。
それまでは、敷地に入る門からスタジアムの入り口の間にあったのですが、そのエリアが手狭だったので待機列が長くなっていました。そうすると、今日は買わなくてもいいや、となってしまいかねませんよね。
なので、多少目につきにくい場所になりましたが、早く買い物を済まさなければいけないという心理もなくなって、売り場をゆっくり回遊できるようになりました。
いろんなグッズを見てみようという気持ちになり、滞留時間が増えてより欲しいものが見つかりやすくなったと思います。
――今回のもうひとつのテーマは「選手のリクルーティング」についてです。
大学生だけでなく海外出身選手も含めて、選手のリクルート戦略はしっかり考えていかなければいけないと思っています。
静岡はすごく誤解されていると感じます。(ラグビーの強豪)大学が東京や関西に集中しているので、都会の景色に慣れている分、地方は何もない、東京から遠いと思われがちです。
あとは比較的厳しい練習をしているので――ファンの方々はすごく頑張っているんだと応援してくれるのですが――大学生の選手からすると敬遠されてしまうこともあります。そうしたことの背景や意図をどう伝えていくか。
優勝回数が少なかったり、日本代表選手数が少ないこともあり、そうした実績が(選手がチームを選択する)大事な要素であることは間違いないと思うのですが、われわれとしてはそこをウリにできない以上、そこではない魅力のあるクラブだということをしっかりコミュニケーションを取らなければいけないなと。
われわれの強みは、クラブとして選手の成長にフォーカスしているところだと思っています。うちに来れば本当に伸びるし、成長します。
いまはその選手の成長をチームの勝利に繋げるためにどうするかを研ぎ澄ますフェーズだと思っています。
もう一つは、独立分社化をはじめ、これまでU18チームの設立や本山佳龍選手の入団(大学に通いながらプロ契約)などラグビー界では前例のないさまざまなチャレンジをしてきましたが、クラブとしてこれから先、何を見据えているのか、チームとして何を大事にしているのか、そうした大きなビジョンを伝える必要があります。
いまは、企業の採用のコミュニケーションに長けている外部のコンサルタントと相談しながら、どういうコンテンツを発信していくかを考えている最中です。
クラブの考え方、静岡の環境の良さをしっかり伝わるような動画もつくりたいと思っています。
――選手のリクルーティングはここ数年、西内(勇人)さんが興味深い選手補強をおこなっています。
良い選手を獲得できていると実感しています。学生と向き合いながら丁寧に話をしてくれている。
日本ハムが大谷翔平選手を口説いた際のプレゼンのように、うちにチームに来ればこういう風に伸びるだろうというのを、資料を使いながらかなり細かく伝えてくれているようです。
ただ、担当一人でコミュニケーションできる量には限界がある。最初の入り口で広く情報発信ができていれば、会って話すときにより口説きやすくなると思うんです。
――山谷さんもアメフト時代にリクルーティングを担当していた。
はい。西内さんもそうなのですが、親身に相談に乗ると『この選手はうちではなく、あのチームに行った方がいいな』と思うことが本当にあります。
チームの雰囲気や在籍している同じポジションの選手の兼ね合いも考えて、あえてそっちを勧めることもありました。
一般企業でもそうなのですが、そうした獲得しなかった選手との丁寧なコミュニケーションもとても大事だと思うんです。
企業の人材採用においても、例えば消費者向けの商品を作っている企業だと、不採用になった場合、商品や企業のことを嫌いになってブランドイメージが下がる可能性もありますよね。
クラブの場合は選手とは何かの縁で再び繋がることもあります。自分は行かなかったけど、あのチームは本当にお世話になったし良いチームだから話は聞いておいた方がいいと、先輩が後輩に言ってくれるようなことにも繋がります。
自分も成長して主力になって一緒にチームを強くしたい、このクラブのビジョンに共感してリーグワンやラグビー界を盛り上げていきたい。そうした選手と出会いたいと思っています。
他チームと競合するほど能力の高い選手が、他チームに惹かれているところにグッと踏みとどまれるだけのわれわれの魅力をしっかり伝えていきたいと思っています。
PROFILE
やまや・たかし。1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任



