【村上晃一の楕円球ダイアリー#8】ラグビーは「選択」を学ぶスポーツである。
2026年も早いもので3月下旬になろうとしている。
3月25日発売のラグビーマガジン5月号で、東芝ブレイブルーパス東京株式会社の事業運営部に勤務する望月雄太さんの取材をした。連載「私のコーチ哲学」でのインタビューである。
現役の監督、ヘッドコーチといった指導者にコーチ哲学を聞くコーナーだが、今回は2024年まで7シーズンにわたってブレイブルーパス東京の採用担当を務めた望月さんに、選手のどこを見て採用を決めるのか、どんな選手たちが入団後に成長し、リーグワン連覇の中心選手になったのか、ラグビー選手の見方について伺った。
ブレイブルーパスは伝統的に雑草軍団である。大学時代のスター選手は少なく、無名でもひたむきに動き続ける選手を軸に採用、育成してきた。
とても興味深い話だったので、ぜひ多くのラグビー関係者、ファンの皆さんに読んでほしいのだが、本稿で書きたいのは別のことだ。
実はラグビーマガジンの取材の半年ほど前、日本ラグビーフットボール協会のサイトにある「みんなでラグビー」というコーナーで望月さんにインタビューをした。そこで印象的なエピソードに出会った。
望月さんは、神奈川県の桐蔭学園高校で本格的にラグビーを始めた。高校2年生のとき、全国高校大会が行われた東大阪市花園ラグビー場でプレーした。
それを同志社大学の名指導者である岡仁詩さん(故人)が見ていた。目立つプレーヤーではなかったのだが、岡さんから声がかかり、同志社大学に進学することになる。のちに東芝の主力となり、日本代表に選出されるまでに成長したことで岡さんの眼力の鋭さが証明された。
岡さんは望月さんのことを何かと気にかけ自宅に招くこともあったという。そのときの出来事を望月さんが聞かせてくれた。
「岡先生の奥様から、『何を飲む? コーヒーがいい? 紅茶がいい?』と聞かれました。なんでも良いです、と答えたら、『あなたはラグビーをやめなさい』と言われました。ラグビーのプレーに、なんでも良いプレーなんてない。ラグビーはいろいろな選択肢の中から、どちらに進むかを自分で決めるスポーツだということを教えてくださったのです」
ボールを持って走る、相手にぶつかる、味方にパスする、足で蹴る、その他にも様々なプレーがある。ラグビーは一人ひとりに与えられる選択肢が多い。
そして、反則をされた側のチームに複数の選択肢がある。自分たちの得意なスタイルで反則を有効に活用できるのだ。これは他のスポーツにはあまり見られない特徴である。
日本代表の歴史的勝利と言えば、2015年のラグビーワールドカップの南アフリカ代表戦である。日本代表は試合終盤にPKからスクラムを選択して逆転勝利を挙げた。
このときの日本代表には、PKから速攻で攻める、タッチキックを蹴ってラインアウトから攻める、スクラムを組んで攻める、PGを狙うという4つの選択肢があった。
世界が驚いたのは、世界最強FWを擁する南アフリカに対して敢然とスクラムを組む選択をしたことだ。
それだけでも驚かされるのにトライまで奪って見せた。選択肢が複数あるからこその感動でもあったのだ。
PKからの選択は、点差、時間に影響されるのは当然として、そのチームの強化のプロセス、チームカルチャーを感じることができる。選択の結果、勝つこともあれば負けることもあるが、選手自身が選択するから、結果に納得できるのである。
ラグビーには人を成長させる要素がたくさんあるが、筆者は「選択」こそ、ラグビーの一番の特徴だと考えている。
人生は選択の連続だ。その楽しさ、難しさを幼いころから自然と身に着けることができる。そのように設計されたスポーツがラグビーなのだ。
レフリーにその選択を告げるのはキャプテンの役目だ。だからこそ、キャプテンになった選手は、それまで以上に成長し、大人になると思うのだ。
ラグビーは「選択」を学ぶスポーツである。この特徴は、これからも大切にしてほしいと願っている。




