ビジャレアルCF・佐伯夕利子さんがリコーブラックラムズ東京のスタッフ向けワークショップを開催。地域と深く結び付く育成の実例から学ぶ。
異国の異競技のスポーツチーム同士が手を取り合う。リーグワンD1・リコーブラックラムズ東京とスペインのサッカークラブ・ビジャレアルCFのパートナーシップが歩み始めた。
人材や組織の成長、地域貢献を通してクラブの存在価値と持続性を高める「サステナビリティ」の実現と推進が大きな目的となる今回の連携だが、そこに至るまでの具体的な道筋は予め決められていない。国やスポーツ、文化の枠を超えた両クラブの人々の交流の中で「何か」が生まれる。そんな「未知」への期待が込められたプロジェクトの第一歩となるワークショップが2月25日、ブラックラムズのクラブハウスでおこなわれた。
ビジャレアルはスペインリーグ「ラ・リーガ」屈指の選手育成力を誇る強豪だ。今季は第26節(全38節)終了時点で4位につけており、来季のチャンピオンズリーグ出場権獲得(5位以上)への期待が高まっている。
同クラブのフットボール・マネージメント部のスタッフとして育成強化を担う佐伯夕利子さんは、過去にスペイン3部リーグで初の女性監督となり、Jリーグ理事を務めた経歴を有する。今回のワークショップは、佐伯さんがビジャレアルの文化や取り組みを紹介し、午前中にはブラックラムズのタンバイ・マットソンHCをはじめとしたコーチ陣と選手育成に関するディスカッションを実施。そして午後はクラブを運営する事業スタッフがクラブの在り方を考え、学びを得る機会となった。
ビジャレアルの「主力事業」は言うまでもなくフットボールビジネスであり、世界的に人気の高いラ・リーガ1部に加盟する現在は、日本円にして100億円を超える放映権収入を得ているという。だがスポーツが持つ魅力の一つである、筋書きのないドラマという要素は「不確実性」としてビジネス上では大きなリスクとなり得る。実際に競技成績が落ち込み、2部へ降格した2011-12シーズンは放映権料が約6億円にまで落ち込んだ。
「放映権に振り回される。つまり成績に振り回されるというのは持続性がない」と佐伯さんは収益環境の危険性を表現した。
フットボール事業を骨格とするビジャレアルという組織の価値と「サステナビリティ」を高めるためのESG(環境・社会・ガバナンス)分野で柱となるのが、クラブスローガン「Endavant(バレンシア語で『常に前進』の意味)」を冠したエンダバン・プロジェクトだ。
2004年から始まったこのプロジェクトは、時代や環境に応じて形を変えながら「地域還元とまちづくり」を推進する取り組みで、現在は8つの領域で展開されている。そのうちの一つである「共生社会」のテーマでは、アカデミーのU13以上の全10チームが地域の高齢者施設などに訪問し、相互交流の機会を持っている。
トップクラブのアカデミー生は、卓越したサッカースキルを持つ一方で、実社会を生き抜く知識や経験が乏しいまま大人になる危険性がある。こうした活動を通して、若い選手が考えながら感性を刺激し、施設の方々と信頼関係を築くことは青少年期の成長過程において大きな意味があるという。
「弱者のために何かをして差し上げるみたいな上から目線ではなく、正直なところ逆に社会の皆さんに『うちの子たちをどうにかしてください』という思いの方が強いです」と佐伯さんは取り組みの背景を語る。育成力に定評のあるビジャレアルの「人づくり」が、地域社会との結び付きをより強くした実例だ。
2014年、「現場」であるフィールドにおいても「指導改革」が起きた。1923年創設のクラブの歴史の中でおこなわれてきた指導内容やアプローチを振り返り「抜本的に、全て更地にして」指導、育成、選手、クラブなどのキーワードを再定義。スタッフ間で議論とレビューを繰り返しながら、およそ3年かけて新たな指針を作り上げて組織のアップデートを実現した。
ブラックラムズで主にグッズ開発・販売に従事するマーチャンダイジング担当の金城雄貴さんは、ワークショップの中で熱心に質問し、有意義な学びを得ていた。
スペイン1部のサッカービジネスは放映権やスポンサー収入の獲得に注力するというイメージを持っていた中、地域密着や選手育成に「真剣に取り組んでいる」ビジャレアルの現状を知り驚きを感じたという。加えて「自分たちにしっかりと矢印を向けて組織を作り直して、選手の育成に着手しながら地域とのつながる活動を、ラ・リーガのチームがやっている」という事実を「すごく新鮮でした」と受け止めたようだ。
何より、ワークショップを通じて、自分たちが取り組んできた活動や地域社会との歩みが正しい方向に進んでいるという自信を深められたことが喜ばしい。
「今までブラックラムズの皆がやってきたことは間違っていなかったし、もっと継続的にやっていけば、思い描いていたゴールには必ず到達できるのかなと思います」
ワークショップに参加したスタッフの頭の中には、今後の活動のヒントとなる「何か」が生まれたはずだ。両クラブのリレーションと未知への探求は、これからも続いていく。





