国内 2026.01.23

「自分に甘い人間でした」。しかし…。酒木凜平、ブレイブルーパス移籍で意識改革。

[ 向 風見也 ]
「自分に甘い人間でした」。しかし…。酒木凜平、ブレイブルーパス移籍で意識改革。
酒木凜平[BL東京/HO](筆者撮影)

 環境を変えて進歩した。

 プロラグビープレーヤーの酒木凜平は、東芝ブレイブルーパス東京で移籍2年目を迎えた。

 昨年12月中旬からのジャパンラグビーリーグワン1部の新シーズンで、第5節までに4戦連続で先発している。

 最前列中央のHOとしてスクラムを安定させ、軽やかなフットワーク、パススキルで攻撃を勢いづけた。守ってもロータックル、スティールと地上戦で光る。

 加入初年度は公式戦に出られなかったなか、食事とトレーニングを見直して課題のフィジカリティを強化した。

 筋肉で体重を増やした結果、26歳のいまは身長178センチ、体重104キロ。自己改革の延長線上で、今回、故障者発生による機会をものにしている。

「(ゲームの)経験を積むなかで自信をつけ、成長している感じがあります」

 出身の大東大では主将を務めた。ハンドリングの技巧やフットワークに定評があり、何より明るいリーダーとして知られた。

 2021年12月18日、東大阪市花園ラグビー場での大学選手権4回戦でのことだ。

 この日はラストワンプレーで自らトライを決め、29-31と追い上げた。直後のコンバージョンゴールが決まって2点が入れば、同点だった場合の規定により準々決勝に進めるところだった。

 勝負を分ける1本は結局、失敗に終わった。するとどうだ。3年生キッカーの戸野部謙のもとへ、一斉にチームメイトが駆け寄った。笑顔でねぎらった。

 ファンの印象に残ったこのシーンについて、当時の船頭役たる酒木は後述する。

「大東大では人を楽しませるのを目標にやっていました。最後のシーンも僕は何があっても謙のところへ行こうとしていましたが、皆も自然と来てくれた。たまたま僕が最初に行っただけです。本当にいいチームでした」

 社会で現実と向き合った。リーグワン1部のコベルコ神戸スティーラーズで計3シーズン社員選手として活動も、出場機会は2年目の計7回に止まった。

 出番なしに終わった’23年度限りで退団。マネジメント側からは、HOの人数を調整しなくてはならなくなったと説明された。

 それでラグビーを辞めようとは、考えなかった。

 職業選手の市場に手を挙げたら、最初にスカウトしてくれたのがブレイブルーパスだった。

 ブレイブルーパスの採用関係者が学生時代の酒木を注目していたおかげだが、そのことを本人は知る由もなさそう。とにかく2部以下でのプレーも視野に入れていたところ、14シーズンぶりに日本一となったばかりの強豪から声がかかったのはありがたかった。

「これまで陽の目を浴びるラグビー人生ではなかったですが、見てくれる人が見てくれたおかげでチャンスが回ってきた」 

 いざ新天地に出向くと、さらに感謝の念がわいた。もともと在籍していた同世代の似たポジションの面々が、高い意識で日々を過ごしていたのがわかったのだ。特に同じHOで同学年の原田衛には、持つべき職業倫理の何たるかを学んだ。

 原田はストイックさで鳴らし、休日も府中市内のクラブハウスへ出てきて身体を動かしていた。睡眠の質を保つために20時以降はスマートフォンを触らず、プライベートの時間に英会話を学習。今季からスーパーラグビーのモアナ・パシフィカへ活躍の場を変えた。

 昨季のブレイブルーパスの副将で、日本代表でも主軸となったこの盟友と時間をともにし、酒木は「朝は、早くなりましたね」。食生活を改善して体重増に繋げたのも、原田に感化されたのがきっかけだったという。

 高たんぱく低脂質を意識し、揚げ物は控えるようになった。部員御用達の定食屋『ますだや』でも大抵、魚を頼み、豚肉を使った「肉野菜」は時々口にする「ご褒美」と定める。

「僕は自分に甘い人間でした。神戸ではそういうところで(が災いして)試合に出られなかった。衛の自分に厳しい姿勢から、そう感じさせてくれました。衛がやっているなら自分もやらないと…。衛がいなくなってからもその気持ちでやれています。(栄養管理などは)衛にとっては当たり前のことだったと思いますが、そういう細かいことを当然のようにできる人間は少ない。衛のおかげで、試合に出続けられるためのスタンダードを知れました」

 文化にもなじんだ。当初は「K9」と呼ばれる控えグループにいることが多かった。普段のセッションで、対戦相手の動きをまねてレギュラーにプレッシャーをかけるのが仕事だ。

 主力組に回ってからも、「K9」に畏敬の念を抱く。

「僕は『K9』が大好き。ハングリーさがあっても、(主力を)痛めつけてやろうとはしていない。すべきことをしながら(存在感を)アピールすると割り切っていて、それを止めない。いまは試合に出られていますけど(目下『K9』にいる)アサエリ・ラウシーのコンタクトは強いと感じますし、スクラムもいままで組んできた相手のなかで『K9』が一番強い。試合以上のプレッシャーがあるんです」

 就任7季目のトッド・ブラックアダーヘッドコーチは、強者にもまれて人が育つ自軍の風土を誇る。

 HOで代表経験者の森太志や橋本大吾、それぞれHO、LOで新加入のアンドリュー・マカリオ、マイケル・ストーバーグ、さらにはFWコーチのジョシュア・シムズの名を挙げて話す。

「酒木は練習で森、橋本、マカリオといった強力なメンバーと向き合ってスクラムを組んでいます。『K9』の質が高いから、その『K9』と渡り合えれば試合のメンバーは自信をつけられます。FWコーチのシムズもしっかり準備してくれています。さらに経験のあるストーバーグは、若いHOにとって投げやすいサインを使ってくれている」

 チームはここまで4勝1敗で12チーム中4位。1月24日には東京・秩父宮ラグビー場で第6節を主管し、前年度のプレーオフ決勝で下したクボタスピアーズ船橋・東京ベイを迎える。

 果たして、先方の開幕からの連勝に待ったをかけられるか。今回16番でリザーブ待機の酒木は、「ただ試合に出るだけではなく、勝利に貢献し続けられる選手になっていきたい」と展望する。

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