厳しさと笑顔の人気者。國學院栃木・福田恒秀道は「毎日、日本一になると言い続ける」。
けろりとしていた。
ファーストネームを「つねひでみち」と読む福田恒秀道が、ボールを持っていたところで相手に担ぎ上げられた。東大阪市花園ラグビー場・第1グラウンドの芝に叩きつけられた。
まもなく起き上がり、微笑んでいた。
向こうの防御に、スピアタックルという危険なプレーの反則が科されたためだ。
幸運だと思ったのだ。
「下(半身)に入られた(自分の姿勢が高かった)のであまりいいキャリーではなかった。(先方の)ペナルティーだったので、ほっとした感じです」
12月30日にプレーしたのは全国高校ラグビー大会の2回戦だ。シード校として初戦が免除された國學院栃木高の主将兼インサイドCTBとして、関東地区の好敵手である流経大柏に29—10で勝った。
自身も5-0で迎えた前半17分、鮮やかなトライを決めた。
敵陣22メートル線付近左端のラックから中央へ折り返すパスをもらい、もともと球が飛んできた方角へ走り出した。人垣を突っ切った。
「ちょっとラックへ(重圧)をかけられていて、(目の前のタックラーが)前に出てきてくれていた。ギャップ、あるなと思って(走った)」
事前の抽選の結果、最初から歯ごたえのあるカードが課されたことへは「強い相手とやったほうが大会中に成長していける」。悲願の初優勝へ、厳しい視線を保っていた。
「ここ(2回戦)にベストな状態を持ってこられるよう準備したのですが、ディフェンスのところでエラーがいっぱいあった。修正しないといけないと思いました。注目もされ、自分たちでも日本一を目指すと言っています。でも、まだその力が完全にあるとは思えない。1試合ずついい準備をして、成長していけたら」
身長171センチ、体重76キロ。細身だが身体を張るのを厭わず、何より独自のフットワークとスキルで局面を打開できる。
初年度からレギュラーを張り、今季は主将を任された。
花園で4強以上2回という全国的強豪とて、女子選手、マネージャーを含め100人超という大所帯で皆の視線を合わせるのは簡単ではない。
その難しいチャレンジのために、己のできること、できないことを精査している。
「チームを引っ張ることも学べています。全員をひとつの方向にまとめていくのが難しい。自分だけではなく、3年生がリーダーシップを持ってやっていけるようにしています。毎日、日本一になると言い続けるのが大事だと思いました。練習していくなかで(同志が)増えていけばいいな…と。この1カ月は、皆がいい準備を。だんたん、よくなってきたなと」
このリーダーについて、吉岡肇監督は「コクトチ史上に残る主将」。7人制大会で頂点に立っていることを「有限実行」と褒め、普段の人柄にも太鼓判を押す。
就任38年目の名物指導者は、周囲にとってお馴染みの情感ある話し方で福田の特徴を語る。
「教員にも『つねちゃん、つねちゃん』と人気者。学業も優秀。地頭が、いいんじゃないかな。すごく厳しいんですよ、自分に。だから、仲間も檄を飛ばされても不貞腐れることがない。『あいつに言われたらしょうがない』なんだから。そして、普段は笑顔の男なんです。グラウンドでスパイクの紐を締めたら、一緒に(気持ちも)ぐっと締まる。このメリハリは…。尊敬しちゃうね」
このクラブは日本代表70キャップの田村優ら名選手を輩出しているが、指揮官によると「高校時代の貢献度で言ったら(福田が)最高『かも』しれない。まだ終わっていないから結論は出しませんけれども、大会次第で最高『かも』」。話の流れで、歴代の名手と比べて福田が「手がかからない」ほうの生徒であることをにじませる。
この話題の締めは…。
「手がかかるのは吉岡に預けろって? ふざけないでよぉ。…やんちゃ坊主、(過去に)いっぱいいますよ」
グラウンド脇の取材ブースにて周りを笑わせ、近くでインタビューを受けていた福田らとともにロッカーへ戻った。



