【トップイーストA】東京ガスが着実な試合運びで山梨を圧倒。優勝戦線「点検異常なし」
落ち着いた試合展開だった。トップイースト第6節、東京ガスブルーフレイムス対クリーンファイターズ山梨の試合は、冒頭こそクリーンファイターズ山梨がPGで先制したものの、その後は得点を与えず、着実にトライを積み上げた東京ガスが51-3で圧勝した。
トップイーストは現在東京ガスとAZ-COM丸和MOMOTARO’Sの2強時代と言っても差し支えないだろう。昨シーズン秋のリーグ戦は丸和が制するも3地域順位決定戦では東京ガスがやり返し「日本一」の座を獲得。今年に入っては春季トーナメントでも決勝はこの2チームとなり、ここでは20-19、そして秋のリーグ戦に入って最初の対戦は22-20といずれも接戦を丸和が制した。ここ1年で対戦成績は丸和3勝1敗だが、スコアを見ての通り実力は拮抗している。
東京ガスと言えば、エネルギー供給というインフラを支える企業であり、安心と安全を担う社会的責任の大きな企業だ。ラグビー部の選手も外国人以外は全員東京ガスグループの社員で構成されている。堅実で責任の大きな仕事を担う会社の社員選手なら、どんなプレースタイルなのかはおおよそ想像がつく。その答え合わせをすべく11月8日クリーンファイターズ山梨との対戦を取材した。
試合結果のほうは冒頭で触れた通り東京ガスの圧勝に終わったわけだが、前半30分までの時間帯は山梨がコントロールしていたようにも見え、強度の高いアタックもよく凌いでいた。
試合が動いたのは前半終盤から。東京ガスはラインブレイクして派手にゲインするというよりもじわり、じわりと前進してトライゾーンに迫る。後半20分頃には終始山梨ボールであったにもかかわらず出足の早いディフェンスで着実に止め、ジリジリと山梨を後退させた。そしてついに東京ガスがマイボールにしてSOのライアン・ストワーズがトライ。要所要所での外国人選手のパワーランが観客の目を惹くが、一見地味なプレーが東京ガスの本当の強さで、ここから安定感のある戦い方が生まれる。
「ミスなく安定してプレーできるのが自分の強みだと思っています。」試合後にそう語るのは「チーム1のハードワーカー」と紹介をうけたFLの上原充(帝京大)だ。
「普段の練習からミスしないことは意識しています。練習でミスして笑っている選手は指導しますし、そのためには自分がミスするわけにはいきません」
上原は日頃の業務では病院や学校などの大きな施設のガス施設の点検をおこなっているという。ミスが許されないガスの点検、その責任感はラグビーに通じるだろう。上原に限らず、東京ガスの実直なプレーはこうした社員としての日常とも密接に関係しそうだ。

「自分たちは派手なプレーをするというよりも、基本に忠実、着実でミスのないプレーをする、規律を大事にするチームだと思っています」。上原の言葉を裏付けるように、この日のゲームキャプテンを務めたWTB稲吉渓太(同志社大学)も同じことを口にする。稲吉は日頃は企業に対しガス機器や脱炭素の商材を提案している営業マンだ。
筆者もラグビー選手を見過ぎで感覚がまひしているのだが、稲吉は身長173cmで体重84Kg、一般社会の常識ではかなりミチミチに詰まった体格である。「やはり見た目が…」ということで営業中にもラグビー部ですか、と声をかけられ、そこから営業の会話もはずむという。
それはさておき、クオリティの高いプレーは練習量なくしては到達しない。練習について聞くと上原は、「自分は絶対に遅刻しない、欠席しないということをまず第一に考えています。チームとしても毎月遅刻と欠席の一覧が出されて、遅刻が多いと注意されたりします。無論仕事の上ではやむを得ないこともあるのですが、選手の中には朝早く出社して残業をカバーするなど工夫して練習を優先している者もいます」

一方の山梨の話題についても触れておこう。この試合、一際目を惹くワインレッドのTシャツを着た集団が山梨御勅使(みだい)南ラグビー場の一角を占めていた。今シーズンリーグワンのサントリーから移籍してきた、山梨のSH木村貴大(筑波大)の応援団だ。
「山梨のスタンドを満員にしたい」
そう言って木村自ら東京からバスツアーを企画し、Tシャツもこのためにしつらえた。練習のない時間帯にはチラシを作って山梨の商店街を配って回るなど、まだまだ発展途上にある山梨をなんとか強くしようと、プロモーション面まで買って出る熱の入れようだ。これもまたラグビー選手としての生き方である。
上原と稲吉、そして木村。まったく異質な人生を歩む選手たちがグラウンドに立てば、その瞬間だけはラグビーという同じ世界で一つのルールで競い合う。そして試合が終わり月曜がくれば、あたかも魔法の解けたシンデレラのように選手たちは元の姿になりそれぞれの生活に戻る。
「仕事とラグビー、普段の生活も厳しいところがあるんですが、自分はそれを求めて東京ガスに入りましたので…フフフ充実していますね」と上原は照れくさそうに笑って見せた。
東京ガスは現在首位丸和を勝ち星1つで追っている。最終節12月6日の秩父宮での丸和vs東京ガスの直接対決で優勝をかけて戦うために、負けられない戦いが続く。一方の山梨も4敗目を喫したものの全国社会人大会への出場を確実にするには残る試合でどうしてももう1つ勝ちたい。まだまだトップイーストの戦いから目が離せない。




