警察署から表彰の「元主将」。流経大副将の土屋英慈の役割と目標。

かつて主将だった副将として、主将を支える。流経大ラグビー部4年の土屋英慈は、丸い瞳を鋭く光らせる。
昨季終了後、スタッフやリーダーの話し合いで新たな船頭役が決まった。抜擢されたのは福田拓人。3年時は怪我でプレーできなかったものの、求心力が買われた。
2人とも付属の流経大柏高出身だ。高校3年時は土屋が主将をしていた。福田はムードメーカーとしてチームを支えた。
大学ラストイヤーは、土屋がサポート役に回る。
「チームを引っ張るというより、主将と他のリーダーとの間に立つ」
加盟する関東大学リーグ戦1部が9月13日、開幕した。前年度4位の通称「RKU」は、神奈川・秋葉台公園球技場で同5位の法大を制した。26-14。
身長176センチ、体重106キロの土屋は、持ち場である最前列の左PRへ入った。見せ場のスクラムで再三、ペナルティを獲った。一時的に向こうに笛が傾いたのを「緊張で、自分たちのやりたい形を見失った」と反省しながら、手ごたえを口にした。
「自分たちのスクラムを体現したくて、しっかり自立したいい『絵』をレフリーさんに見せるという思いで試合に入りました。そして、回数を重ねるごとにペナルティを奪うチャレンジもしました」
守りでも光った。注力して磨いた組織防御により、自陣ゴール前でのピンチを幾度となくしのいだ。
19-0で迎えた後半14分頃には、グラウンド中盤で土屋が鋭いタックルを決め、孤立した走者のふもとへ先発LOの福田が絡んだ。リーダーのふたりで向こうの反則を誘い、約2分後には26-0とした。
背番号1は、自らの伸びしろに期待する。
「1オン1で(走者に)勝つ部分も、引いてしまった部分もあります。それを次に生かして、前に出てディフェンスできるよう修正したいです」
小学2年で競技を始めた。地元にある横須賀ラグビースクールで楕円球を追っていたら、千葉にある流経大柏高の相亮太監督に誘われた。中学3年の夏のことだ。
もともと県内や東京の学校に自宅から通うつもりだったなか、親元を離れることにした。千葉県からずっと全国大会へ出続けるクラブで台頭すべく、寮生活を始めた。
指揮官はグラウンド上では甘くなかったが、ひとたび芝を離れれば優しかった。
主将を務めた3年目の秋頃だったか。大きな試合に向けて重圧を覚えていたら、自分だけ家に招いてもらった。食事を出してくれた。
「向き合ってくれる感じでした」
卒業後、恩師から久しぶりに連絡がきたのは昨年の春。外出先から寮に戻る常磐線の車中、乗客の不審な動きが目に入った。動画を収めた。怪しげな男が降車してからその近くの女性に話を聞けば、痴漢だったとわかった。通報し、安孫子警察署に表彰されたら、相から褒められたのだ。
「LINEで、『お前、捕まえたのか?』って」
グラウンド内外で困った人を助ける青年は、卒業後のプレー続行を希望する。
池英基監督を窓口に、国内リーグワンの各方面へアプローチを図る。公式戦での働きで「リーグ戦優勝、全国ベスト4」という願いを叶えながら、自身の進路も切り開きたい。