妙技と衝突の応酬。リーグワンの昨季ファイナル対決はドロー。
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マイクに入らぬ声だった。
ゲーム後の会見を済ませると、東芝ブレイブルーパス東京のNO8で主将のリーチ マイケルは「…身体、痛い」。寒風吹きすさぶ埼玉・熊谷ラグビー場で、埼玉パナソニックワイルドナイツとぶつかったのを振り返る。
2月9日にあった国内リーグワン1部の第7節。前年度決勝と同じカードを28-28とドローで終えていた。
「ゼロ分から最後まで、勝つためにお互いに必死こいた試合だったと思います」
前半は2季連続でレギュラーシーズン首位のワイルドナイツが、敵陣で分厚い守備網を敷いた末に6得点。9-7と2点リードの36分には、得意のパターンで突き放しにかかった。
混とん状態からの速攻だ。
自陣に高く蹴り上げられたボールを、決して大柄ではないSHの小山大輝が相手と競り合いながらキャッチ。本人曰く、「たまたまです」。着地すると、左中間にいたWTBの長田智希を走らせる。勢いをつける。
ハーフ線を通過すると、今度はSOへ入っていたダミアン・デアレンデが繊細かつ大胆な突破を繰り出す。
最初はFW陣のユニットの陰に隠れ、パスが渡る直前にその輪から外れるようなコースを取ったのだ。
手前の群れに気を取られたタックラーを置き去りにし、22メートル線付近中間でCTBのヴィンス・アソへ繋いだ。まもなくフィニッシュとコンバージョンの成功で、16-7とリードできた。
それでもデアレンデその人は、「ブレイブルーパスのディフェンスがよく、我々に圧力がかかる部分がたくさんありました」。そう。昨季王者のブレイブルーパスは、スコアボード上こそ劣勢も応戦していた。自陣の深い位置でボールを持たれながら、至近距離で大砲を打つようなダブルタックルを重ねた。ワイルドナイツのテンポを鈍らせた。
ここで地を這ったひとりはHOで副将の原田衛。献身を誇るのに恥じらいがあるような口ぶりだ。
「…大変です。(相手は)身体もでかくて、重いし」
ブレイブルーパスは後半になると、風下に立ちながらも追い上げてゆく。
リスタート早々のピンチを耐え抜けば、10、19、23、27、30分にはフィールドの端側での連携攻撃でチャンスメイク。そのうち3度はトライに昇華した。
ラスト10分で23-28。追う形となったワイルドナイツにとっては、本来の看板たる防御を攻略された格好だ。長田は反省した。
「抜かれたシーンは(味方同士で)コミュニケーションを取らず、何となく前に出て(間合いを詰めて)、タイミングが合っていない…という感じでした。疎かにせず、喋りつづけるということが改善点です」
ブレイブルーパスのSOで昨季リーグMVPのリッチー・モウンガは、直近のゲームまでやや不調ぶりをにじませるもこの日は生来の凄みを示す。大外にサポートへ回ってのラン、穴場へのキックで魅した。
そのモウンガを凝視していたのは、ハーフタイム直前に好捕の小山であった。
ブレイブルーパスが5点を勝ち越した直後、トライライン近くの相手ボールスクラムからモウンガへ渡りそうなパスをカットした。「絶対に来ると思っていた」と読み通りの動きで、好機を手繰り寄せた。35分、ワイルドナイツでWTBの竹山晃暉が自身2トライ目をマーク。タイスコアにした。
ここからロスタイムを含め約7分間、得点板を揺らせぬまま衝突し合った。
ブレイブルーパスでCTBのロブ・トンプソンの突進、ひいてはFLのシャノン・フリゼルのドミネートタックル…。ワイルドナイツでNO8のジャック・コーネルセンのインターセプト、さらにはFLのラクラン・ボーシェーによるスティール…。
決定打となりうる動きが折り重なった。
それらが容易に決定打とならないほど、グロッキーなはずの面々が「必死」にその場を引き締めていた。
ワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督は、途中で議論の分かれるビデオ判定があったことも含め「ふたつのチーム、レフリー、TMO(ビデオ判定部門)、全員がプレッシャーを感じ、ミスもしたが、とてもよい試合になったと感じています」。いくつかのエラーを、あまたのよいプレーが帳消しにしたとの意味合いか。
いずれにせよこの両軍は、第12節で再戦する。
原田は、関西弁のジョークを交えて締めるのだった。
「あと、もう1試合あるんねや、と。…ポジティブに捉えて、頑張ります」