国内 2025.02.05

【連載】プロクラブのすすめ㉒ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 高校の合同チームを指導し、高校生世代を救いたい。

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ㉒ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 高校の合同チームを指導し、高校生世代を救いたい。
(撮影:松本かおり)

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 22回目となる今回は、競技人口の減少が止まらない高校生世代を救う策を語ってもらった(1月30日)。

◆過去の連載記事はこちら

――序盤戦は4勝1敗と好調でした。

 昨シーズンから藤井(雄一郎)監督と契約し、3年以内で日本一を狙えるチームという目標がありましたので、その2年目として現状はいい感じだと思います。

 昨シーズンはW杯を終えてから藤井監督が合流して1か月程度で開幕したのでバタバタでしたが、今シーズンは7月からじっくりチームづくりができている。
 また、マロ・ツイタマ選手、サム・グリーン選手、マリー・ダグラス選手らがカテゴリAとなったことも大きいです。外から(カテゴリAの外国籍選手を)獲得するのではなく、長くチームに在籍してくれた選手がこうして出場機会を多く掴めるようになり、チーム力がグッと上がりました。

――一方で、事業面では集客を見ると苦戦しているように映ります。開幕節(神戸S戦)は8498名、第5節(BL東京戦)は6571名、第6節(東京SG戦)は6203名でした。

 ワールドカップ直後だった昨シーズンよりもリーグワン全体で集客数は減少傾向にありますが、正直、苦戦している部分もあります。

 言い訳すると、1月はあらゆるスポーツの興行自体が苦戦する傾向にありますし、開幕節は雨で着券率が下がってしまった。
 また以前もお話ししましたが、今季は戦略的な招待の数を減らして有料比率を増やすことを目指しています。またヤマハスタジアムは満員に近い動員数となるとトイレや駐車場の混雑具合から満足度が落ちてしまうと分かったので、超満員を目標とするよりも、適切な観客動員数の中で有料比率を上げていこうと。「筋肉質な体質にしよう」と話しています。

 ただ、これらを鑑みても、チームの調子が上向きであることを踏まえれば、もっと事業サイドが頑張らないといけません。
 チームが好調な分、初めての観戦に訪れる方も満足いただける可能性が高いので、協定を結んでいる自治体の招待も入れながら、広告を含めたマーケティング活動をしていきます。

――これまではチームが3季連続の8位だったので、その中でも奮闘する事業サイドに光が当たることが多かった。

 そうなんです。いまはその逆の現象が起きている。
 なので年明けに事業サイドのスタッフに話したのは、モードの転換です。

 これまではホストゲームで勝てなかった分、タレントを呼んだり、魅力的なイベントを開くなどいろいろな工夫をしてチームの勝ち負けに頼らない集客をやってきましたが、いざ強くなった時に「強いチーム」というコンテンツの価値をまだまだウリにできていません。

 ワールドカップイヤーでなくなったこともあると思うのですが、いまは特にラグビー自体のメディアへの露出が減っています。チームの好調具合が広く知れ渡っていないと感じます。

 次のホストゲームは1か月後の3月です。少し暖かくなり、プレーオフ争いも見えてくる時期にしっかり平均で8500人を超えることができるよう計画したいですね。

――今回のメインテーマに移ります。第19回でも軽く触れていただきましたが、先日、高校の合同チームをブルーレヴズが指導するという報道がありました。

 この話の前提として、高校生世代の競技人口が日本全体で減ってしまっていることが大きな課題だと常々感じていました。
 W杯が開催されたり、日本代表が強くなったことで、小中学校のラグビースクールの生徒が増えている傾向にあるにも関わらず、そこから先の高校で続けられる場所が少ないんです。

 強豪校に選手が集中し、強化できていなかったり、合同チームが増えている県もある。
 日本ラグビー協会がこれに対してどう手を打つのか、急を要する課題だと思います。

 ただ、それを傍から見ているだけでなくブルーレヴズとして何かできないかと。
 静岡も聖光学院や東海大翔洋など私学を中心にラグビーに力を入れている高校はありますが、それ以外はレベルの差が大きかったり、合同チームや休廃部になってしまうことも現状として見られます。

 もともとU18のクラブチームを作る構想はあったのですが、高校生はやはり目指す場所は花園ですよね。
 現行のルールではクラブチームが花園に出ることはできません。サッカーのようなU18プレミアリーグやプリンスリーグといった目標となる大会がないのであれば、やはり花園に出られるというモチベーションは大事です。

 そうすると、高体連に加盟するチームでなければいけないので、まずは各高校に数名でもいいのでラグビー部を作ってもらうのはどうかと。部員が少なくなって結果として合同チームとなってしまうのとは逆の発想で、部員が1人でも2人でも多くの学校にラグビー部を作ってもらい、そのチームを集めた合同チームをつくるという発想です。
 その合同チームにわれわれが指導者を派遣したり、練習場を貸すという方法をとれないかなと。

 もちろん15人以上いる1校単独のラグビー部が増えていくことが理想ではありますが、現状は少子化で部活動がどんどん減っていく中で、15人以上の新しいラグビー部を作るというのはハードルが高いです。ただ、数名のラグビー部とはいえ指導はしないにしても顧問の先生を置かなければいけないし、試合、遠征の帯同やケガへの対応もある。学校の部活動なので人数に関係なく学校側の一定の負担はあります。

 しかしながら、競泳では選手が学外のスイミングスクールに所属していますが、高体連に登録だけして高校の大会に出ている例もあります。個人競技の実態なのでラグビーに適用できるかは分かりませんが、それと同じ考え方ができると思うんです。

――費用面はどう考えていますか。

 費用は他の部活と同様に一定の受益者負担は発生すると思います。いわゆる部費を選手から出していただく形ですね。
 ただ、最低限の活動費や遠征費などは負担していただく一方で、こうした活動に共感していただくスポンサーやプロテインなどの物品を提供いただけるサプライヤーを獲得することでコストを極力抑えながら、指導者や練習場はブルーレヴズが提供することで運営していくことが可能だと思っています。

 プロクラブにとって小中学生のラグビースクールは育成のみならず習い事のビジネスという側面もありますが、U18チームは選手育成の投資という考えです。
 そのようにつくった合同チームでも最初は県大会でもボロ負けするかもしれませんが、こうしたことが魅力的に感じれば、徐々に選手が集まってきて、いつかは花園に出られるかもしれない。花園の大会が終われば、直後にリーグワンに登録するような選手も出てくる可能性もあります。

 今回の取り組みでこれまでと異なることは、高校を選べるということです。レベルの高いラグビーを続けたければ強豪校に行かなければいけないではなく、進学校でも職業系高校でもラグビー部があればその学校に通いながらブルーレヴズのプロの指導を受けられます。

――長崎南山高を卒業してブルーレヴズとプロ契約して静岡産業大学にも通う本山佳龍選手のような形ですね。

 そうですね。もちろん、これまで築き上げてきた既存の枠組みも素晴らしいのですが、競技人口が減り特に地方ではラグビーをする選択肢が限られてきている中では、いろいろな選択肢を作ってあげることは必要だと思っています。

 早い段階でプロのレベルでプレーしたいというモチベーションがあるのに、その選択肢がないのはもったいない。
 本山選手の場合は、教員免許を採りたいという希望もありましたので、静岡産業大学の多大な協力があって今回の契約に至りました。

 これは高校でも同じで、高いレベルでラグビーを続けたかったり、高校からラグビーを始めたいと思っても、その高校にいることでラグビーができないというのは一番もったいない。いろいろな学校にラグビー部があるということが大事だと思うんです。

――(本拠地の)大久保グラウンドで合同チームが活動する場合、公共交通機関で通うことは難しい。

 そこは心苦しいところではありますが、まずは磐田にある近隣の高校を考えています。
 普及育成部門の責任者の田井中(亮範/OB)さんが学校をまわってご理解いただけるように話をしたり、高体連さんとも話をしている最中です。早ければ今年の4月からできないかと思っています。

 すごく前向きな学校もありますし、後向きな学校もありますが、前例がないことに抵抗があるのはある程度当然です。ですが、可能性がある限りはチャレンジしていきたいと思っています。

――関連して新しい練習場を探していることも第19回で話していましたが、進捗はいかがですか。

 われわれは磐田市だけでなく、いわゆる遠州の自治体とも連携協定を結んでいるので、磐田市だけでない市町村にも少しお声かけさせていただいています。
 われわれの練習場ではあるけど、市民の皆さんにも貸し出せるようなスポーツ施設を作れないかと。

 実は候補地はいくつか出てきている状況です。まだ自治体の名前は言えませんが、面白いことができそうですね、と良い感触もいただいていやす。

 天然芝2面、人工芝1面の3面あるグラウンドが理想で、それができればU18、そしてU15も充実した練習ができるようになります。
 来年あたりに具体的な計画ができて、早ければ3年後、4年後には完成している状況になることを望んでいます。



PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

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