矢崎由高の第100回早明戦。徹底マークにも「自分のプレーが変わることはないです」
ノーサイドの瞬間、両手を挙げて喜んだ。
早大ラグビー部2年の矢崎由高は、12月1日、東京・国立競技場で今回が100回目となる早明戦を制した。ライバルの明大を27-24で下し、加盟する関東大学対抗戦Aの全勝優勝も決めた。
試合後の交換会を経て、クラブのスタッフに連れられる形で報道陣と対峙。見据えるのは、21日より参戦の大学選手権だ。
「勝てたことにはホッとしましたし、17年ぶりの全勝優勝を勝ち取ることができてよかったと思います。それと同時に、新たなスタートだと思うので。ここから、負けたら終わりの試合が始まる。それに向けて、チームをいちから作り直していこうと」
持ち場のFBで先発フル出場した。
身長180センチ、体重86キロの韋駄天がハイライトを飾ったのは、17-17で迎えた後半21分だ。
味方のキックを自ら追って作った敵陣ゴール前でチャンスを作ると、最後のフェーズで大仕事をやってのけた。
接点の近くの隙間へ鋭角に駆け込み、フラットな軌道のパスを受ける。ラインブレイク。追いすがるタックルも引きずって走った。
「(スペースが)空いていたから、行った」
トライ。直後のゴール成功で24-17と勝ち越した。
そのふたつ前のフェーズでも鋭い突進を繰り出していた。ワークレートは持ち味だ。
「それが僕のしなければいけないこと。当たり前のことをしただけだと思います」
会話の流れで、今度の接戦についてこのようにも話した。
「明大が強いのは言わなくてもわかることで、こういう(競った)展開になるのは予めわかっていた。特に驚き、動揺というのはなかったと思います」
6月からは日本代表としても動いた。10月26日、横浜・日産スタジアムでニュージーランド代表とぶつかった。終盤のトライチャンスを相手のカバーリングに阻まれるなどし、19-64で敗れてうなだれた。
その後は他の代表選手が欧州遠征へ出かける傍ら、早大へ戻って対抗戦に臨んだ。チームが白星を重ねる中、コンディションを整えるのに難儀した。
「ハイインテンシティ(高強度)で試合をするのは、僕じゃなくても、代表の皆さんでも疲れる。人間として当たり前の疲れなのかなと思います」
何より厳しいマークに遭う。今度の早明戦のみならず、パスをもらった瞬間に防御の壁が迫ってきているように映るシーンは幾度もあった。蹴り込まれるキックも球筋、高さに工夫が施され、圧を受けながらのキャッチを余儀なくされている。本人はこうだ。
「もちろん、相手が(自身を)キーマンと思ってくれているのかはわかりませんけど、『矢崎、矢崎』という声が耳には入っている。(警戒を)されているのか、されていないのかで言えば、されているという感覚はありましたけど、だからと言って、自分のプレーが変わることはないです」
大田尾竜彦監督曰く、国立での大一番へは「気負いもなく、自分のやるべきことをクリアにした状態で臨んでくれた」。件のトライが決まる約21分前、ハーフタイムを過ごすロッカールームで指揮官は矢崎には「頼んだよ」と声をかけたようだ。本人も「(明大戦へ)マインドセットをしっかり持ってできた」と頷く。
「(当日まで)自分のいまやるべきこと——それは、僕にしかわからないことなんですけど——を見つめ直し、明確にして、考え直すことができた」
21日より参戦の大学選手権に向けても、このクラブの一員として、アスリートとして「いまやるべきこと」をし続ける。
「チームとしてやってきたことの精度に磨きをかけていきたいです」
この午後の劇的な80分を受け、「僕の人生の5倍くらいに伝統のある試合に出られたことは嬉しいです。そこに勝ち切れたこともよかったです」とも発した。
ただ、この舞台において気合いが入っていたのでは、との問いかけには「気合いは毎試合、入っている」。他者の仮説へ無自覚に応じることは少ない。