国内 2024.10.10

初の単独で花園予選3回戦進出。折尾愛真[福岡]の挑戦。

[ 明石尚之 ]
初の単独で花園予選3回戦進出。折尾愛真[福岡]の挑戦。
ファーストジャージーはスクールカラーの紺色。元サニックスのFLで建築デザイナーの西谷将克さんがデザインした。「何度も作り直した結果、ブルースに寄っていきました(笑)」(森山監督)(撮影:東鶴昌一)

 福岡は北九州市にある折尾愛真(おりおあいしん)高校ラグビー部は、2年前に創部された新しいチームだ。

 監督を務めるのは森山智(さとし)。語気を強めて言う。

「本気で花園出場を目指しています」

 その情熱はホンモノだ。

 森山監督は現役時代、近鉄ライナーズや宗像サニックスブルースに在籍したFL。引退後は当時サニックスの監督だった藤井雄一郎氏(現・静岡BR監督)のもとでリクルーターを担い、チームを離れた後は本社の人事部で課長を務めていた。

 しかし、順調に重ねてきたキャリアを突如、手放す。
 50歳にして、教員になることを決めたのだ。

 きっかけは何気ない会話からだった。
 森山監督は当時、高校生を採用するためにいろんな学校を回っていた。その1校が折尾愛真だった。

「数年前に女子のラグビー部を作ろうと動いたけど、なかなか上手く集まらなかったようで。そんな話を進路指導主事の船津先生から聞いていて、でも先生は『まだ諦めていません』と。それなら何か手伝えることがあれば連絡ください、というお話からでした」

 後日、ラグビー部の創設が決まり、その指導者に、と打診される。
 まさかの誘いに驚いたが、「これは滅多にない機会ではないか」と思えた。

「僕は玄海ジュニアで長年コーチをさせてもらっていました。土日だけでしたけど、子どもたちを指導するのがすごく好きで。新しい目標をいただいていた。先生になればそれが土日だけでなく、月から金までもが僕の頑張る糧になる。ゼロからラグビー部を立ち上げて、自分の考えるチームを作れる人はそうそういません。夢があるなと思いました」

 だから目標は大きく持った。部員たちへの声かけ一つひとつに、熱がこもる。

「新卒で教員になったわけではありませんから。1年1年が勝負です」

 ただ、初めて3学年が揃う今春の時点では、男子部員は13人(3年生4人、2年生7人、1年生2人/加えて女子選手2人、マネージャー5人)しかいなかった。
 学校は部の強化に協力的だったが、闇雲に部員を集めようとはあえてしなかったのだ。

「本当に悩みましたが、これだけは譲れないと思ったのは文化の醸成です。チームの文化を作っていく上では、1年目、2年目、3年目が一番大事。そこで妥協すると、軌道修正するのは難しくなるなと。僕はラグビーだけでなく、中学校の成績も見ます。通知表に『1』があったら入学を認めません。そこで努力できない人は、ラグビーでも努力できないと思っています」

 とはいえ、入部時からキャプテンを担ってきた3年生の野田涼太朗は、15人以上の部員を確保し、単独出場することを切望していた。

 ここまでの話は5月発売のラグビーマガジンで詳しく触れている。
 あれから約半年。果たして、部員は休部中の2人も入れて20人まで増えた。花園予選で初めて単独で組めたのだ。

「クラブチームでバスケをしていた3年生1人と野球部を引退した3年生4人が入ってくれました。嬉しいことに、野球部の監督が快く力を貸してくれて、3年生のほぼ全員が試合に出たいと言ってくれました」

 迎えた9月22日の初戦、合同チームに62-7で快勝した。勢いそのままに翌週の2回戦も突破する。45-7で糸島を破った。

 ただ、2回戦は最終スコア以上に苦戦を強いられたという。
「1回戦に勝って、2回戦までの1週間はかなりふわふわしていました。何度も戒めていたのですが、『まあ次も勝てるだろう』という態度が完全に表に出ていた。案の定、前半は14-7。ミスばっかりでした」

 ハーフタイムは放心状態。リーダーたちの声かけに周りがまったく反応していなかった。そこに、森山監督が活を入れた。
「戦術的な話は何もしなかったですね。ここでチームがひとつにならないでどうするんだと。なんとか後半は盛り返せましたが、試合後は誰にも笑顔はなかった。この日のために一生懸命練習してきたのに、最後の大会を笑顔なしで終わるのは一番よくないこと。勝っても負けても最後は達成感を味わわせてあげたいです」

 自分たちの力を出せずに終わってほしくない。だから森山監督は、3回戦を前に持つべきマインドを伝えた。

「矛盾してるんですけどね。勝つために負けにいきます」

 対戦相手は県内屈指の強豪・修猷館。力の差は大きく開いているのが現実だ。

「負け方にもいろいろな負け方があります。試合が終わった時にみんながこれ以上動けないという達成感を味わえるように、見てくれている家族や友達、先生たちに感謝の気持ちが伝わるようなプレーをしようと。全員を泣かせようと。それは試合を放棄したわけではありません。勝つための準備は最大限します。ただ、勝ちにいこうとすると、点差が離れていった時にテンションが落ち込んでいってしまうと思うんです。負けを認めた上で戦った方が、覚悟が決まりやすい」

 折尾愛真にとって初めてのラストバトル。すべてを出し切る。

助っ人5人を入れて単独出場が叶った(写真提供:折尾愛真高校ラグビー部)

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