「正直、成長段階」。日本代表・李承信が意識するのは「超速」の「コントロール」
16キャップ。これまで代表戦に出た回数を表す。
2022年にラグビー日本代表となった李承信は、発展途上にある己の立場を俯瞰している。
だから、ゲームで思うに任せなくても過剰に落ち込まない。
某日、自身のパフォーマンスに課題があったことを取材エリアで指摘されることがあった。
身長176センチ、体重86キロの23歳は、どう応じたか。
「ネガティブにはならないように(と意識)」
エディー・ジョーンズヘッドコーチにもらった言葉を引き合いに出し、淡々と述べた。
「正直、自分も成長段階ですし、特に経験が必要な時期だと思うんです。エディーさんも言っていました。10~20キャップという若い間は難しい時期でもあると。日々、練習や試合を見返して、目の前の一歩一歩に集中して過ごしています」
本職は司令塔のSO。チーム戦術に沿い、仲間の頑張りを白星に繋げるのが仕事だ。目配り、気配りが不可欠で、それこそ「経験が必要」なポジションのひとつである。
パスを前に投げられないラグビーで勝つには、足技による陣地獲得が不可欠とされる。
ただしいまのジャパンは『超速ラグビー』を提唱。素早く布陣を作り、果敢にスペースを攻め続けるのを是とするように映る。
実際にはボールを保持するか、蹴るかをスピーディーに判断するのも『超速』の肝なのだが、現体制が発足したばかりの今年6~7月は「自分たちのスピード、アタックにフォーカスしてきた」と李。速いテンポでフェーズを重ねるという、グループにとっての基本の型を落とし込むのを重んじた。
もっとも8月25日(初戦の会場だったバンクーバー時間)より参戦のパシフィックネーションズカップでは、マイナーチェンジに着手した。スタイルの徹底を考慮に入れながらも、策に溺れず勝ち切ろうとした。
9月7日、蒸し暑い埼玉・熊谷ラグビー場での予選プールB・2戦目では、適宜、中盤から敵陣奥側へのキックを繰り出した。終始、リードを保ち、41-24で大会2連勝を決めた。
指揮官からの評価が上々だった李は、合宿で首尾よく準備できたことが本番での好ジャッジに繋がったと語った。
「合宿を通じて、『自分たちのミスが続いたり、ボールが滑ってなかなか継続できなかったりしたら、自陣からでも2~3フェーズで蹴り込んでいこう』という話があって。(アメリカ代表戦の)後半は、拮抗した状態で自陣からボールを動かすのがリスキーだと感じる場面もあった。そのあたり——自分の判断もありますけど——しっかりコミュニケーションを取りながらできてよかったです。後半は特に、エリアマネジメントにいい手応えがありました」
15日の決勝トーナメント準決勝では、最後尾のFBで先発する。
アメリカ代表戦でも途中からこの位置に入っており、「合宿中も10番(SO)以外のポジションもしていて、そこから見える景色の部分、コミュニケーション部分でいい経験ができている。色んなポジションができることは自分の強みでもある」と不安はなさそうだ。
相手はサモア代表。世界ランクで1つ上回る力自慢だ。日本代表の李は速さで対抗するスタンスを保ちながら、一本調子にならぬよう味方を制御する。
「(学んでいるのは)『超速ラグビー』の中でのキックの使い方、自分たちのモメンタム(勢い)のコントロールところ。80 分を通してどう勝ち切るか、自分としても、チームとしてもクリアになってきているので、本当に次の準決勝のサモア代表戦でもしっかりコントロールしていきたいです」
明確なコンセプトをもとに試行錯誤するこの日々を、よりよいプレーメーカーになるための肥やしにしたい。