コラム 2024.09.04

【ラグリパWest】覚悟と徹底。向井昭吾 [花園近鉄ライナーズ/ヘッドコーチ]

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】覚悟と徹底。向井昭吾 [花園近鉄ライナーズ/ヘッドコーチ]
花園近鉄ライナーズのヘッドコーチになって2季目を迎える向井昭吾さん。リーグワンのディビジョン2(二部)に落ちた原因を洗い出し、最短1季での再昇格を目指す。晩夏の生駒の山並みに向井さんの吹っ切れた笑顔が映える。普段、練習で使う花園ラグビー場の第二グラウンドにて

 向井さん、明るくなりましたよね?
「ん? そうそう。声も出るようになってきたね」
 今里良三はうなずく。向井昭吾の赤銅色に日焼けした顔は柔らかい。

 その表情から読み解いてみる。
<自分なりの総括はできた。再起する>
 向井は吹っ切れたのだろう。それができる歳月は重ねてきた。来月で63歳になる。

 初めて指揮を執った花園近鉄ライナーズはリーグワンのディビジョン2(二部)に落ちた。入替戦は浦安DRに12-21、30-35と連敗する。向井はヘッドコーチ(監督)だった。

 向井を連れてきたのは今里である。昨年、チームトップの統括として、日本代表や東芝府中(現BL東京)、廃部したコカ・コーラでの監督経験を評価した。その「盟友」からは再昇格に向け、吉兆が見て取れる。

 その向井は降格理由を話す。
「覚悟と徹底ができなかった。私の責任です」
 それまでいたコーチ陣やスタッフの意見に耳を傾けすぎ、自分の思いを後に回してしまった。美徳のひとつの優しさが仇になった。

 その上で2季目の起用法を明言する。
「練習で生き残った選手を使います」
 これまでの実績は見ない。今、何ができるか。その自分の選択に覚悟を持ち、シーズンを通して徹底させてゆく。

 その向井の思いを知るかのように、二部に落ちながら、出場機会を求めて、若く有望なプロ選手たちが移籍してくる。

 雲山弘貴は東京SGにいた。
「ウチはエッジを使うアタックがありますが、雲山はそこにパスが放れます」
 向井は評する。FBとしてタッチライン際に長く正確なパスを出せる。キックも飛ぶ。

 丸山凛太朗はSO。トヨタVから来た。東海大の出身で向井の後輩になる。
「判断など面白い選手です」
 SOには左からのキックが得意なウィル・ハリソンも加わった。

 選手をまとめる新主将はパトリック・タファになった。194センチ、120キロの体でフロントロー以外のFWバック5ができる。
「体を張れる。前に出られる。簡単そうで難しいことができます」
 任命した向井は期待を寄せる。

 2人いる副将のひとりにはSHの河村謙尚がついた。河村は左が利き足で、ハイパントなど攻撃の幅を広げられる。この河村、雲山、丸山、ハリソン、タファの5人は今年25歳の学年。春秋に富む。

 花園Lには大きなテーマがある。
<世代交代>
 SHウィル・ゲニアとSOクウェイド・クーパーは36歳になった。オーストラリア代表キャップは110と76。このHB団は在籍6年目の功労者ではあるが、チーム永続の点から見れば若手の奮起が求められる。

 SHは河村を副将にして、そのひとつ上の中村友哉と人羅奎太郎を競わせる。中村はさばける。人羅はスタミナがある。SOは丸山、ハリソンを刺激に、野口大輔、竹田祐将、吉本匠らの成長を引き出したい。

 その新陳代謝を目指すHB団にボールを供給すべく、突破力のあるアキラ・イオアネも新加入した。FW第3列として、ニュージーランド代表キャップは22を持つ。

 花園Lには日本代表のLOサナイラ・ワクァやFBやWTBをこなすセミシ・マシレワもいる。ワクァは先月26日(日本時間)のカナダ戦、マシレワは昨年のワールドカップに出場した。キャップ数は6と7である。

 その選手たちの力を発揮させ、ヘッドコーチを支えるコーチ人事に今回は向井も加わった。FWはトウタイ・ケフ、BKはジョン・マルビヒルに任せることになった。

 ケフはクボタ(現S東京ベイ)で選手とコーチとして10年在籍した。向井は言う。
「日本語を使えるのもいいし、選手の気持ちをつかむのもうまいですね」
 直近ではルーツのあるトンガ代表のヘッドコーチだった。現役時代はオーストラリア代表のNO8として、キャップ60を得る。

 マルビヒルは2011年から6年、このチームでコーチをした。勝手は知っている。前副将でWTBの片岡涼亮は歓迎する。
「やりやすいですよ。これでいくからなんかあったら言ってきて、って感じです」
 方針がきちっと示される。

 2人はすでに着任済み。再起を期すチーム練習はまず若手の社員選手を中心に7月29日に始まった。グラウンドでは早くも試合形式の練習がある。時にはつかみ合いが起こる。選手たちの真剣さが伝わってくる。

 チームスローガンは<All Atack>に新しく決まる。向井は説明する。
「アタックからもディフェンスからも貪欲にトライを獲りにゆくということです」
 それは東芝府中の監督時代につけられた<PからGO>に重なる。

 当時、向井がやらせたのは、ペナルティーからタップキックでの速攻だった。斬新だった攻めは、リーグワンの前身である全国社会人大会で連覇、日本選手権で3連覇をもたらした。1996年度からだった。

 攻撃は向井の得意分野でもある。そこを磨くことも含め今月9日から1週間、高知で合宿を張る。ベテランを含め全選手が集結する。向井の2季目が本格的に幕を開ける。
「みんなが自信を持ってやっていけるシーズンにしたいですね」
 チームを観察する時期は終わった。向井は静から動になる。その晴れやかな表情が続けば、紺エンジのジャージーの再昇格はおのずと近づいてくる。

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