各国代表 2024.07.19

イタリア代表の現在地。ゴンサロ・ケサダHCに聞く。

[ 竹鼻智 ]
イタリア代表の現在地。ゴンサロ・ケサダHCに聞く。
イタリアの躍進を牽引するキャプテンのFLミケーレ・ラマロ(Photo: Getty Images)



 イタリア代表で昨年のワールドカップ終了後に契約満了となったニュージーランド人のキアラン・クローリーHCの後任に就いたのは、アルゼンチン人のゴンサロ・ケサダHC。アルゼンチン代表選手としてだけでなく、選手、指導者としてフランスTOP14で多くの輝かしい実績を挙げてきた人物だ。イタリアでの仕事を受ける前は、パリに本拠地を置く名門クラブ、スタッドフランセで指揮を執ってきた。クラブでのHC、代表チームでのアシスタントコーチという仕事はしてきたが、代表HCという仕事は初めて。ケサダHCに、イタリアでの仕事について聞いた。

「イタリア代表のHCがどんな仕事になるか。もちろん、事前に知っていた部分もありますが、驚いた部分もあります。いい驚きは、選手たちの規律正しさです。これは、グラウンドの外での生活にも言えることで、特に若い選手たちの規律ある行動は予想していなかった点です。思っていた以上に、ハードワークを重んじるカルチャーがあるチームです」

 シックスネーションズでは連敗記録、昇降格制導入議論など、ありがたくない話題の的になってきたイタリア。代表チームの戦績が芳しくなかったこともあり、ケサダHCがイタリアラグビーについてやや現実とは違うイメージを持っていたのも仕方がない。イタリア人の大らかな国民性もあって、こうしたチームのカルチャーには新鮮な驚きがあったのだろう。だが当然、イタリアラグビー独特のチャレンジというものも存在する。

「これは事前に知っていたことではありますが、代表資格を持ったプロラグビー選手の数の少なさは、仕事を始めて改めて実感しています。国内にプロクラブが二つしかなく、イングランドやフランスのトップクラブでプレーする選手も10人前後いる程度です。ここから代表レベルで戦えるチームを作り上げるのは、イタリア独特のチャレンジです」

 複数の統計が存在するが、国別ラグビー競技人口ランキングでは15位前後のイタリア。意外かもしれないが、6位前後につける日本よりもはるかに競技人口は少ない。国内にあるたった二つのプロクラブは、アイルランド、ウエールズ、スコットランド、南アフリカのクラブと共に構成される「ユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ」というリーグに所属する。

「イタリアの子供たちに、もっとラグビーをプレーしてもらいたいです。そのためには、代表チームが勝たなければなりませんがね」、とはゴンザロHCの言葉だ。代表チームの戦績と、その国でのラグビー人気に大きな相関性があるのはどの国でも同じだろう。

 ただ、こうした状況に対し、有望な若手を海外のクラブでプレーさせるというやり方には、バランス重視の見解をケサダHCは持つ。

「イタリアのクラブでプレーする選手のなかに、フランスのクラブへ移籍したいと考えている選手もいるでしょう。私の人脈(選手時代も含め、20年以上フランスラグビー界で活躍した実績を持つ)が助けになるようであれば、もちろん助けます。ですが、ただ選手たちが海外に行けばイタリアラグビーにとってプラスになる、という訳ではありません。レベルの高いリーグで揉まれるのはいい経験になりますが、出場機会が大きく減ってしまうようなクラブへの移籍では意味がありません。それに、イタリア国内でプレーする選手たちは代表合宿にも呼びやすく、より多くの時間を一緒に過ごす事ができるという利点もあります」

 正式にHCに就任したのは今年の1月。シックスネーションズでは、ボーナスポイントの差で5位に終わったが、2勝2敗1分けの戦績はイタリア史上最高だった。優勝候補の一角とされていたフランスと引き分けるなど、「今年のイタリア代表は何かが違う」と思わせるパフォーマンスを見せた。夏のテストシリーズでは、日本と戦う前にサモア、トンガと戦い、1勝1敗で日本との対戦を迎える。

「グラウンドのどこからでも攻めるメンタリティを持ち、何をしてくるか分からない、というラテン系ラグビーのアイデンティティをしっかりと意識しています。情熱を持ってディフェンスラインを死守、熱いハートを持って戦うのが、このチームのDNA」

 情熱の国、アルゼンチンからやってきたHCに率いられた、情熱のアズーリ(イタリア代表の愛称)。桜の戦士たちを相手に、どんな戦いを見せてくれるだろうか。

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