日本代表 2024.04.21

【車いすラグビー日本代表/2024クアードネーションズ】日本がアメリカを破り優勝!「日本のディフェンスの勝利」

[ 張 理恵 ]
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【車いすラグビー日本代表/2024クアードネーションズ】日本がアメリカを破り優勝!「日本のディフェンスの勝利」
パリ・パラリンピックに向け世界に存在感を示した車いすラグビー日本代表。(撮影/張 理恵。以下、同)



 決勝で世界ランキング1位のアメリカを再び倒した日本。
 パラリンピックに向け、世界にその存在感を高らかに示した——。

 4か国対抗でおこなわれた車いすラグビーの国際大会「2024 Wheelchair Rugby Quad Nations」(以下、クアードネーションズ。イギリス・ウェールズ)は4月18日、大会最終日を迎えた。
 準決勝でフランスを下した日本は決勝でアメリカと対戦し、50-47で勝利を収めて優勝を果たした。

 午前におこなわれた準決勝。
 日本(予選3位)とフランス(予選2位)の一戦は、日本のリードで終盤まで進むも、試合時間のこり3分で49-44の場面から4連続得点を許し1点差にまで迫られる。
 あわやという展開になるが、橋本勝也のタイヤがパンクし、タイヤ交換のため試合が一時ストップしたところからリセットした日本がきっちりとまとめた。51-49で決勝に進出した。

闘争心あふれるプレーでチームを優勝に導いた橋本勝也(写真は準決勝)

 一方、予選ラウンドを4位(0勝3敗)で終えたアメリカは、3勝0敗の予選1位・イギリスとの準決勝に臨み、高い修正力を見せつけて勝利を収め、決勝へと駒を進めた。

 日本とアメリカの決勝戦。
 予選での対戦とは違うスターティング・ラインアップを起用した両者は、その戦いぶりも前日とは異なる様相を見せた。

 日本の激しくしつこいディフェンスに対抗するためか、アメリカは速いボールムーブを意識したパスラグビーを展開する。日本のスローインをカットしターンオーバーを奪ったアメリカがリードする形で試合が進む。
 走り合いの攻防が続き、ひとつのミスも許されない緊迫した空気がコートを支配する。連日の熱戦を物語るように、司令塔としてコート内で指示を送る池 透暢の声はカスカスに枯れている。

 12-13で開始した第2ピリオド。アメリカのバックコート・バイオレーション(フロントコートに入ったボールがバックコートに戻る)により、日本がリードを奪い返した。
 なおも続く強いプレッシャーに、パスが乱れ、ボールキープでミスが起き、ターンオーバーの連続。その後は1点を交互に取り合い、アメリカは残り5.2秒でゴールを狙うもトライが認められず、24-23の日本リードで前半を折り返した。

 アメリカはパラリンピックで3つの金メダル(アトランタ、シドニー、北京)を獲得している強豪。競技人口もクラブチームの数も、日本の3、4倍近くにのぼる。車いすラグビーが盛んな国だ。

 ただ北京以降は、ロンドン(銅メダル)、リオ、東京(銀メダル)と悔しい結果に終わっており、2028年に自国開催となるロス・パラリンピックを見据えるうえでも、パリ・パラリンピックへの思いは強いはずだ。今大会には絶対的エースのチャック・アオキや、2022年の世界選手権で鮮烈なデビューを果たした新星、サラ・アダム(女性選手)をはじめ、代表常連のエース級を中心としたメンバーで臨んでいた。

 もちろん、パラリンピックの金メダルに強いこだわりを持つのは日本も同じだ。
 銅メダルに終わった東京パラリンピックでの悔しさを胸に、悲願の金メダル獲得に向けて強化に取り組んでいる。

 まるでパラリンピック決勝のような戦いが後半も続いた。
 第3ピリオド、トライを奪い合う派手なパフォーマンスを演出するハイポインター(障がいの比較的軽い選手)を、長谷川勇基、小川仁士の障がいの重いローポインター陣が黙々と支える。

2019年の同大会で日本代表デビューを果たした長谷川勇基(左)。自身の成長を実感する大会となった。右は小川仁士(写真は予選ラウンドのアメリカ戦)

 一番障がいの重い0.5クラスの長谷川は、2019年のクアードネーションズが日本代表として出場した最初の大会だった。緊張のデビュー戦は、コートに出ていきなりファウルを起こした。出場時間はわずか20秒ほどと苦いものとなった。
 それを思うと「この5年でだいぶ成長した」と感慨深げに語る長谷川。同じ0.5クラスの中でも身体機能の状態は良くないため「自分が一番遅いというのは自覚している」と話す。

「どう頭を使って勝つか。フィジカルで負けているところは頭で補える。海外の選手に対してもそんなに負けていないと自信を持っている」
 長谷川はコート全体を見回しては車いすをクイッと翻し、先回りをして相手の動きを停滞させる。攻撃時には日本のボーラーに攻め寄る相手を押さえ込み、ハイポインターに道を拓いた。

 試合は、ピリオド残り1秒からのスローインをキャッチした池が、後ろ向きにトライを決めてみせ、37-35で最終ピリオドへとつなげた。

 ピリオド開始直後、ターンオーバーの応酬により、どちらが主導権を握るかハラハラする攻防が繰り広げられた。ようやく試合が落ち着き1点を争う展開となったところで、橋本勝也が相手ボールをカットし、そのままトライ。
 その2分半後には再び橋本がアメリカのパスが乱れたところに飛び込んでキャッチ、自らゴールへと持ち込み、ニヤリと笑みを浮かべながらトライラインを超えた。

 リードを3点に広げた日本は橋本がラストトライを決め、試合残り3.6秒で放ったアメリカのスローインを奪ったところで試合終了。激闘を制した日本が50-47で勝利し、ベンチは満面の笑顔と歓喜に溢れた。

キャプテンの池透暢は「日本のディフェンスの勝利」と勝因を語った。

 キャプテンの池は試合後、「日本のディフェンスの勝利」だと勝因を語り、「チームディフェンスとして世界トップクラスのどの国も抑えられるくらいの良いディフェンスを日本は備えられていた。若手選手のラグビーIQも高まってきて、橋本も頼れる存在になってきている。若手の活躍が光った大会だった」と手応えをにじませた。

 一方で、「今回は勝てたが、まだ確実ではない状況。もっと激しく、もっと丁寧に、ディフェンスの精度を高めなければいけない」と表情を引き締めた。
 そして、自身のプレーについては「出来としては65点から70点くらい。走力の部分ではまだ上げられる。プレーの質ももっと高めていきたい」と、さらに追い込む覚悟を示した。

 各大陸チャンピオンが集う今大会で優勝を果たし、世界に大きな存在感をアピールした車いすラグビー日本代表。6月にはパラリンピック前最後の実戦となる「カナダカップ」に出場する。
 すでにパラリンピック本番に向けた代表選考レースも始まっており、仲間であると同時に12名のメンバーの座を勝ち取るための争いが本格化する。

 パリ・パラリンピック開幕まで、あと4か月。
 世界の頂点に立つための挑戦が続く。

決勝てでアメリカを倒し、円陣で健闘を称え合う日本代表


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