ハカも出た! NZ式で卒業生をお祝い。 一宮ラグビースクール卒団式
小春日和の3月10日、2023年度の一宮ラグビースクールの中学生の卒団式でクラブの大人たちが工夫を凝らしたユニークな贈り物があった。
◆一宮ラグビークラブの歩み
愛知県一宮市にある、一宮ラグビークラブは、1975年に誕生した。2007年には、NPO(特定非営利活動法人)の資格も得ている。まもなく50周年を迎える歴史のあるクラブだ。
一宮市光明寺球技場がホームグラウンドで、地元の高校生の大会での利用はもちろんのこと、2019年には、ワールドカップで優勝した南アフリカの公認キャンプ地として利用されている。
週末、午前中は、ラグビースクール、午後からは、シンボルチームのBHS(ビックホーン・シープス)、様々な年代のプレーヤーが集まるLPS(ロング・プレーヤーズ)が活動。地域に根ざした 、生涯ラグビーが楽しめるクラブとなっている。
シンボルチーム(現BHS)は、1999年に入れ替え戦に勝利して東海社会人Aリーグに昇格、クラブの黄金期を迎えた。現在は東海社会人Bリーグに所属しておりAリーグ返り咲きを狙う。
スクール活動においては、中学生は、昨年7年ぶりに愛知県大会の優勝を勝ち取った。
卒業生には、日本代表のキャップを持つ藤井淳(元東芝)、兼松由香(リオ五輪代表)の名前がある。
◆スクールの中学生の卒団式は、今年も大人たちがサプライズの演出。
3月10日、ホームグラウンドの一宮市光明寺球技場で2023年度の一宮ラグビースクールの閉校式と中学生の卒団式が行われた。
中学3年生は、この日でスクールを卒業。最後の練習は、中学生の気持ちが高まっているのを感じた。
練習の締めとして、クラブの理事長の大串修二(中学生の監督)が最後のメニューを指示した。
「1、2年生は、3年生に思いっきりぶち当たってこい! 最後に3年生の胸を借りてこい!」
1、2年生は、必死にコンタクトバックに当たりに行く。
そんな後輩に対して、負けるものかと、受け止める3年生。
15分ほど繰り返したコンタクトセッションは、熱いものとなった。
そして間もなく、スクール全体の練習が終わり、スクールの校長、前島弘嗣のあいさつで閉校式が始まった。
幼児から中学のスクール生、親御さんが見守る中、卒業する中学3年生が一人ひとり呼ばれた。
卒業生の全員が賞状を受け取り、それぞれが一言あいさつをして閉校式が終わった。
スクールの閉校式の後に、この日でスクールを卒業する中学生の卒団式が行われる。
昨年(2022年度)の卒団式は、サプライズがあった。
2020年の始めごろから世界で猛威を振るったコロナウイルスにより、2022年度に卒業となる中学生の3年間は、規制下での活動を強いられた。思う存分にラグビーができなかった。
そんな3年間を過ごしたスクールの卒業生にクラブの大人たちが何かをしたいと思い始めた。
昨年の卒団式のタイミングでクラブのOBでニュージーランド(以下、NZ)在住の松尾智規(筆者)が日本に一時帰国。そこからクラブの理事長の大串、三浦知有(中学生のコーチ)、松尾の3人で話し合いが持たれた。
NZでも行われる、ハカとロリー・レイ(キャンディーなどの菓子で包まれたレイ)を卒業生にプレゼントの案が誕生した。
ハカもロリー・レイも、卒業、旅立ちなど、節目の時に贈る意味もある。
ロリー・レイは、主にパシフィックの伝統的なレイで、NZでもロリー・レイが贈られる。
※2023年にスーパーラグビーでリッチー・モウンガ、アキラ・イオアネが100キャップ目の試合でロリー・レイを受け取っている。
そして、今年も松尾が卒団式のタイミングで急遽帰国。2年連続でサプライズの卒団式が実現した。
卒団式が始まり三浦コーチが卒業生に向けて、「昨年に引き続き、たまたま2年連続での特別なプレゼントになるが、毎年あるわけではない」と語った。
中学1,2年生、コーチ陣、BHSの選手らが加わり、卒業する3年生の前に正対した。
そして、松尾がハカの指揮を始める。
「タリンガ ファカロンゴ!」
「キア リテ!キア リテ!」「キア マウ!」
「ヒー!」
皆でリズムよく、足踏みを右足で取り、手を太腿、胸に叩きつける。
卒団式の直前に少しだけ合わせただけだったが、見事なハカ「カ・マテ」が卒業生に贈られた。
見ていた親御さんなどから、大きな拍手が起こる。
昨年はハカを贈る側だった卒業生も、気持ちの入った後輩のハカを見て大きな拍手をした。
少し恥ずかしながらも、最後まで見事に踊り切った1,2年生の姿は、どこか誇らしげだった。
ハカで全体の気持ちが高まった。その後、卒業生も一緒に交じって、親御さんに感謝の気持ちを込めてハカを贈った。昨年は一度のハカだったが、今年は2度ハカをした。
ハカの次は、ロリー・レイの贈呈。
ロリーをつなぐリボンの色は、緑と白。一宮ラグビークラブの色が使われている。
ひとつひとつ気持ちを込めて手作りで作られたものだ。
まずは、親から卒業する我が子へレイを贈呈。そして、子から親へもレイの贈呈をしてもらった。
3年間、送り迎えを含めて、支えてくれた親に感謝の気持ちが伝えることができた。
お互いにレイを贈り合った後は、親子でハグを呼び掛けた。
照れくさそうな、子どもたちとは対照的に、親御さんは嬉しそうにしていたのが印象的だった。
卒業生だけでなく、家族にも思い出に残る特別な日になった。
日本では、なかなか多文化に触れる機会がないなか、クラブの大人たちが工夫を凝らして、今年の卒団式もサプライズ大成功となった。
卒団式の夜には、2023年度の県大会で(第34回愛知県中学生ラグビー大会)優勝している事から、保護者の企画により優勝祝勝会が行われた。
昼は卒団式でサプライズ、夜は優勝祝勝会。3月10日は、笑顔がいっぱいだった。