ワイルドナイツが誇る世界一戦士ダミアン・デアレンデは減速しても前進。
力があるのに力任せでない。
32歳のダミアン・デアレンデは、身長190センチ、体重105キロのラグビーマンだ。南アフリカ代表のインサイドCTBとして、昨秋までワールドカップ2連覇。世界一に上り詰めるのに用いた資質を、所属先の埼玉パナソニックワイルドナイツでも還元する。
球を持てば前に出られる。その手法はさまざまだ。
全速力で壁にぶち当たり、蹴散らす。
スペースへ走り込んで、切り裂く。
それだけではなく、いったん、減速しながら、人垣をかいくぐり、最終的に前進してしまうこともある。
力があるのに力任せでない。本人は説く。
「コンタクト時には、フットワークを使い、できるだけパワーを活かし、相手の裏に出るのを目指します。ワイルドナイツからのコーチングで言われていることでもあり、それをすれば、チームが以後のフェーズプレーで前に出やすくなります。ポジション柄、両側からディフェンダーに囲まれることもあります。その場合は無意識的にスピードを緩め、ウィークショルダー(タックルを放つのとは逆の肩)を探して当たっていますね」
守りでも光る。12月中旬開幕のリーグワン1部にあって、接点に身体を差し込んだり、敵の持つボールへ腕をかけたりしてターンオーバーすること多数。地上の球に絡むジャッカルでは、低く強い姿勢を取るのが肝だ。
長身のデアレンデは「少し抽象的な言い方になりますが」とし、心がけていることを述べる。
「いいボディポジションに、入るのです。上体があがっていては相手にはがされるので、いい低さになる。また、頭が下がるのもよくない。感覚的には『ボールを越えていく』のを意識し、球を引き込む動作をして、それをレフリーに示す」
危機管理力にも長ける。それを大一番での勝機につなげたのは3月9日。本拠地の熊谷ラグビー場でのリーグワン1部の第9節だ。
東芝ブレイブルーパス東京との全勝対決は、接戦を強いられていた。10-10と同点で迎えた前半19分。ハーフ線近辺での防御局面で、右の区画を相手に破られそうになった。
走者が抜け出しそうなところへ、反応したのがデアレンデだった。タックル。落球を誘った。
ディフェンスシステムの構造上、前衛に入るひとりとして、後衛に負担がかからないようにしたかったという。
「前線が破られた時、後ろに立つ選手だけに止めてもらうのは(相手に勢いがついており)とても難しい。ましてブレイブルーパスは判断力に優れたチームですから。やはり、エラーはどうしても起こるものです。そこに反応し、仲間を助けたいです」
攻守逆転。まもなくワイルドナイツはペナルティキックを獲得し、一気に敵陣22メートル線付近右へ進んだ。
最後はデアレンデの突進がブレイブルーパスの反則を誘い、SOの松田力也のペナルティゴールで13-10と勝ち越した。
36-24で無敗をキープ。際立つ12番は、プレーヤー・オブ・ザ・マッチを得たSHの小山大輝にこう感謝された。
「シンプルに、すごい。頼りになります。(パスを)放っておけば、勝手にゲインしてくれる。あと、チームのこともよく考えてくれます。どうプレーしていったらいいかのアドバイスもあって、何より褒めてくれる。『ボビー(小山の愛称)ナイス!』って。自分、褒められて伸びるタイプなので、ありがたいです」
ワイルドナイツへは旧トップリーグ時代の2020年に一時的に在籍し、リーグワン発足2季目の前年度に再加入。クラブにとって2シーズンぶり7度目となる日本一へまい進する。