コラム 2024.03.01

【ラグリパWest】それでええんか? 花園近鉄ライナーズ

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】それでええんか? 花園近鉄ライナーズ
S東京ベイを相手に突進する花園近鉄ライナーズの主将、FLの野中翔平。2月24日の試合は前半で0-39と勝負は決まった。チームは開幕から7連敗。勝ち星を得ないチームで野中は孤軍奮闘している(撮影:平本芳臣)


 東屋(あずまや)あさ子は「花園ラグビー酒場」の主人である。花園近鉄ライナーズ(略称:花園L)をこよなく愛している。
「わたしなあ、前半で帰ろうと思ったわ」
 S東京ベイに前半は0-39と手も足も出ない。最終スコアは19-56。2月24日、昨年度の優勝チームとの一戦は完敗だった。

 リーグ戦は7戦全敗。勝ち点は1。入替戦圏内、下から2つ目の11位は変わらない。クロスボーダーのため、約1か月弱の中断があったが、良化は示されていない。

 東屋は花園Lのファンクラブ会員。年間6万円のダイヤモンドである。個人として最高の援助をする。この日もホームの花園ラグビー場の最前列で応援した。

 東屋は常に言っている。
「選手はわたしらにできんことをしてくれている。だから尊敬をしないと」
 そんな女性からも厳しい言葉が飛び出した。

 S東京ベイはハーフタイムで1番から4番までを総替えした。敵将のフラン・ルディケは紳士である。
「交替は点差が理由ではありません。まあ、10分ほど早くなったことは認めますが…」
 間違いないのは、東屋が言ったように前半40分で勝負は決した、ということだ。

 不甲斐ない試合だった。2分のファースト・スクラム。ヒットの速さで負ける。態勢を作られ、押され、花園Lはパスアウトできない。ターンオーバーされる。2分後、左PRのネスタ・マヒナが脳震とうで退場する。

 主将の野中翔平が花園Lを俯瞰して言ったことがある。
「負けの理由を探しているんですよね」
 スクラムの中心がすぐに抜けた。これで言い訳がつく。16分のDGを挟み、7、9、18、23分と4連続でトライを奪われる。

 11月25日、神戸Sとの練習試合でもそうだった。FWの外国人選手に黄色のカードが出た。同時に大黒柱のSOのクウェイド・クーパーが脳震とうで退場した。この1人足りない10分間に3トライを奪われた。

 野中は言う。
「オールブラックスって14人の方が強い、と言われます。ウチはそうじゃない。それを変えられない自分に責任があります」
 果たしてそれは主将にのみ責任を負わせる類のものなのか。

 野中と新任ヘッドコーチ(監督)の向井昭吾はこの中断期間、手をこまねいていたわけではない。2人は話し合って、激しいコンタクト練習を入れた。ここまで6試合の平均得点は16、同失点は47。ボールの争奪局面で劣っている、との判断だった。

 ゴールラインを挟んで、3つのグループが攻防に入る。時間は2分。少なくとも5回、それを繰り返す。向井はリスクを取った。

 結果的に右PRで最高評価を得る三竹康太が骨折でこのS東京ベイ戦には出場できなかった。ただ、チームはケガ人を出さないためにあるのではない。試合に勝つためにある。

 花園Lの問題はその選手層だ。二番手の文裕徹(むん・ゆちょる)はエディー・ジョーンズが日本代表のトレーニングスコッドに呼ぼうとした逸材だが、それ以前に肉離れをしている。昨年、日大から入団した岩上龍に頼らざるを得なくなってしまった。

 S東京ベイとは明らかに選手層にその差がある。ハイパントを戦術のひとつに据えながら、チーム有数のキックを誇るゲラード・ファンデンヒーファーを控えに置けた。

 花園Lを統括する近鉄グループホールディングスは総合職採用の枠をラグビーに割り振っている。入社すれば、傘下の260ほどの会社を統べる社長になれる資格を有する。鉄道を中心に関西のイメージが強いが、関東にもホテルや不動産など進出企業は多い。

 つまり、ラグビーを上がったあとに関東に帰ることも可能だ。そのことを関東の優秀な大学生に伝え、採用担当任せにせず、チームや会社が一丸となって勧誘しているのだろうか。戦いはまず、素材ありき、である。

 一丸ということに視点を向ければ、向井のサポートにもそれは言える。この62歳の指導者はひとりで九州からやってきた。通常、組閣の段階でひとり二人その監督の意志でコーチを呼べるものだが、向井には認められなかった。これでは自分のラグビーを浸透させるのは難しい。手足となる人間がいない。

 何より、選手自身に勝つ意志があるのか。プロ、社員というステータスを問わず、同じ選手として負けっぱなしでいい訳はない。社員選手でも会社や部署に関わらず、シーズン中は週4で二部練習をさせてもらえると聞いている。一昔前でその状況はプロだ。

 チームの負けが続けば、昇降を飛び越えて、廃部にゆきつくこともある。連敗なら事業としては大赤字だ。2年前、花園Lは廃部説が大勢を占めた。存続したのは現在80歳のグループ会長、小林哲也の鶴の一声である。

 小林は若手社員のころの全国社会人大会(リーグワンの前身)と日本選手権の2冠の記憶がある。1974年度(昭和49)だった。最後の栄光をその目で見たことが存続の理由につながっている。ただ、現状なら、会長といえども抵抗勢力を抑えるのは難しい。

 チームがなくなればプロは路頭に迷う。成績を残せなかった者の再就職は難しい。社員も仕事で結果を残せなかったことになる。次の落ち着き先はあるにせよ、評価は下がる。この後の出世は難しくなる。

 今、花園Lの選手一人ひとりにとって、人生を賭して戦う時期に来ている。人やチームのせいにせず、ボールをもらったら一歩でも前に出る。相手が来たらタックルする。システムや戦術ではない。彼我との能力差でもない。ラグビー選手としてのプライドだ。

 喜寿を超えた東屋が勝敗に関わらず、涙を流す試合をやってみろ。それが本当の意味で、ファンに報いる、ということである。

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