「甘さ」のあったサンゴリアスが入れた「スイッチ」。ダイナボアーズは惜敗に涙。
自分たちのことが誇らしく、かつ不完全燃焼の感を覚えたのはどちらも同じだ。
34-36。リーグワンに1部昇格2季目の三菱重工相模原ダイナボアーズが、2003年以降のトップリーグ時代から通算して日本一5度の東京サントリーサンゴリアスに迫った。
1月20日、神奈川・相模原ギオンスタジアムの第6節でのことだ。前半22分までに29点リードを奪い、逆転されていた後半33分に34-31と勝ち越しながら、後半ロスタイムにまたも逆転された。
「選手みんながとてもいいハートを持って私のゲームプランにコミットしてくれて、すごくいいところもたくさんありました。ただ、ぎりぎりのところで、あと少しで大きな勝利を取れたかもしれない試合だった。…そこは残念でした」
黒星を喫して2勝4敗となったグレン・ディレーニー ヘッドコーチは、こう総括する。7日前に同じ場所で、埼玉パナソニックワイルドナイツに21-81と大敗したのを受けてのことだ。
白星を掴んで5勝1の田中澄憲監督は「タフなゲーム。最後、勝ち切れてよかったという思いです」。昨季、幾多のジャイアントキリングを起こしてもいたダイナボアーズの歩みを想像しながら話す。
「ダイナボアーズさんは前節でああいう負け方をして、きょうはいろんなものを取り戻しに来るのをわかって準備していたつもりでしたが…。しかし29-0からスタートしてしまった。自分たちが招いた結果です。甘さ、一貫性のなさを見直し、レベルアップしたいです。ただ、29点差をひっくり返せる力があることは間違いない。あきらめないスピリッツは間違いなく自分たちのカルチャーにある。それを、またちょっと違った方向に発揮できれば」
序盤はホストチームが支配した。接点で鋭く踏み込み圧をかけ続け、5分にはアンストラクチャーの攻めから敵陣中盤左の区画を攻略。接点の脇をCTBの岩下丈一郎が抜け出し、SHの岩村昂太主将にフィニッシュさせた。
11分に19-0とするきっかけは、瞬間芸だった。FBのマット・ヴァエガが、サンゴリアスのキックオフを自陣22メートル線付近左で捕球。加速。次々と防御を破り、ハーフ線を通過した。
ここから向こうの意図通りの展開で得点板が動くと、追う立場にいたHOの堀越康介主将は味方に「スイッチオン!」と発した。
「あのキックオフでゲインを切られた時は、皆、立っていて、『誰が(タックルに)行くんだ?』という感じで、パチンと入る選手がいなかった。『それは絶対、だめだよね? サンゴリアスのラグビーじゃないよね?』と」
今回の登録選手中、昨秋のワールドカップに出た選手はダイナボアーズが0だったのに対してサンゴリアスは7名。直近の個々の実績で言えば、サンゴリアスは挑まれる側に映った。そのサンゴリアスが生来の動きを取り戻したのは、被インターセプトを絡め29点のビハインドを背負った頃からか。肉弾戦での厳しさが増した。
ダイナボアーズにキックミス、反則がかさんだのもあり、サンゴリアスはハーフタイムが近づくにつれチャンスをつかむようになった。首尾よく得点化した。29-14と差を詰め、ロッカー室に戻った。
幸い、劣勢時もスクラムは優勢だった。さらに後半からは、流大がSHに入って好配球で魅した。
29-24として迎えた23分、流が敵陣中盤の接点からボールを持ち出し、右端の空間へ投げる。WTBの尾崎晟也の快走を引き出し、最後は流自らがフィニッシュ。直後のコンバージョン成功で29-31とした。この日初のリードを奪った。
雨中に集まる観客にとって試合がおもしろく感じたのは、ここからダイナボアーズの意識が途切れなかったからだろう。
サンゴリアスが点差を縮める間もNO8であるジャクソン・ヘモポの好守、SOのジェームス・グレイソンのエリア獲得などで魅していた。29-31となっていた27分には、それまで苦戦のスクラムに活路を見出した。
押し込み、反則を誘った。折しもサンゴリアスは最前列のメンバーを入れ替えていた。指揮官の田中は、大きくリードされたのを受け早めの選手交代を意識していたのだ。
かくして自陣10メートル線付近左から敵陣10メートル線付近左に進めば、途中出場したSHのジャック・ストラトンが次々と突進役に楕円球を預けた。一転、高い弾道を蹴り上げた。WTBの中井健人がキャッチ。さらにペナルティキックをもらった。再逆転したのはその直後だ。
勝負は結局、サンゴリアスがものにした。
クライマックスに差し掛かるなか、SOの高本幹也が好タッチキック。自陣中盤から敵陣トライラインの近くへ飛ばす。次のラインアウトでLOのハリー・ホッキングスがスティールし、これでもか、これでもかとフェーズを重ねる。最後は高本のラストパスが右隅の空洞を射抜き、この午後に今季初先発のCTB、中野将伍がフィニッシュした。
劇的な結末をもってしても、堀越は首を傾げていた。
「僕たちがやりたいことをそのままやられた感覚でした。最初は僕たちがフィジカルで受け、相手の準備したことが全てはまってしまった。ハドル(合間に組んだ円陣)でも皆、パニックになっている印象でした」
この日は悪天候に見舞われていたが、サンゴリアスは「(晴れ間が)持つかなと思い、きょうみたいなシチュエーションを選手に意識させられなかった」と田中。「天気がいい状況での設定(の練習)を多くしていた。コーチ陣として反省したい」とも続けた。
かたや敗れた岩村は、目を潤ませていた。
「このチームで勝ちたいという気持ちが強くて。この結果に満足している人はいないと思います。我々は今後、トップチームにも勝てるようになるのを目標にしています。昔とは全然、違うダイナボアーズになっている」
旧トップリーグ時代から、下部リーグへの降格と昇格を繰り返していた。目指すは上位層安定だった。リーグワン1部に昇格して迎えた昨季、ハードワーク重視のディレーニーをアシスタントコーチから内部昇格させた。おこなったのは猛練習だ。走行距離やパスの精度も数値化し、そのデータを仲間内で共有。競争心をあおった。個々の身体つき、態度を変え、大物に挑む。
約5週間後のリーグ再開へはどう時間を費やすか。惜敗のボスはそう問われ、「選手が嫌というまで、ハードな練習をし続けます。一緒にしますか?」と返した。