ワールドカップ 2023.10.27

ファイナルへ準備万端。オールブラックスを包むチーム内外の熱

[ 松尾智規 ]
ファイナルへ準備万端。オールブラックスを包むチーム内外の熱
ブレイクダウンの攻防は、勝負を決める重要な要素のひとつ。(撮影/松本かおり)



 ラグビーワールドカップ(以下、W杯)の決勝を前に、ラグビー王国ニュージーランド(以下、NZ)の雰囲気は、完全にラグビーモードになっている。

 これまでにないほど盛り上がった今回のW杯が、いよいよクライマックスを迎える。
 NZ国民の期待を背負って決勝に勝ち上がってきたオールブラックス。対するは、準決勝で死闘を演じてイングランドに16-15で逆転勝ちした南アフリカ代表、スプリングボックス。
 南半球のライバル対決になった事により、NZ国内の盛り上がりは最高潮となっている。

 数週間前まではナーバスだったNZ国内のラグビーファンは、決勝を前に穏やかな様子がうかがえる。勝ち目が薄いと言われていた準々決勝でアイルランドに勝利(28-24)した。その直後にNZ国内の雰囲気が一変したのは言うまでもない。

 しかしながら、近年は安定したパフォーマンスを継続できなかった事から準決勝のアルゼンチン戦の戦い方も注視されていた。結果は、完璧と言える内容で44-6の圧勝だった。 

 序盤は、アルゼンチンの勢いのある攻撃に押される場面がありながらも、アイルランド戦に続き、粘りのディフェンスを見せた。最後の最後まで気を緩めずノートライに抑えた。
 ディフェンスだけでなく、攻撃面も好調で7トライを奪った。
 強いオールブラックスが戻ってきた。ファンが安堵するのも納得がいく。

チームの公式「X」(旧Twitter)より

◆メンバー変更は1人のみ。注目はベンチ選手のセレクション。

 オールブラックスはノックアウトステージに入り、メンバーを固めてきた。先発メンバーの変更は前戦から一人のみ、ブロディー・レタリックが先発に戻りサム・ホワイトロックと入れ替わった。これは、予定通りと言えるだろう。

 注目されるのは控え選手のセレクションだ。
 タイトヘッドPRの控え(18番)に誰が選ばれるかNZ国内でも注目されていた。決勝の大一番では、ベテランのネポ・ラウララをベンチが指名された。フィールドプレーにも定評がありノックアウトステージの2試合で良い仕事をしたフレッチャー・ニューウェルをメンバー外とした。
 ボールを長く継続しながらの高速ラグビーをしてきていただけに、このセレクションは興味深い。

 スプリングボックスの強力なスクラムを警戒しているのだろう。ノックアウトステージで初登場のラウララのスクラムはワールドクラス。セレクター陣の期待に応えることができるか。

 HOの控えのセレクションにも注目が集まった。
 これまでデイン・コールズとサミソニ・タウケイアホの2人をローテーションで起用してきた。決勝では、経験値を買ってコールズの起用の声が多かった。
 しかし、セレクターが選んだのは、フィジカルが強いタウケイアホだった。

 今大会後に引退するコールズに憧れ、オールブラックスでチームメイトとなったタウケイアホのコールズに対するリスペクトは大きい。コールズの気持ちを背負っての力強いパフォーマンスが見ることができるかも知れない。タウケイアホが大暴れすればチームに勢いも出る。

◆注目は、FW戦とキック処理、そして控え選手の投入。

【FW戦】
 オールブラックス、スプリングボックスのライバル対決の見所は、なんといっても激しいFW戦。まずは、基本のスクラム、ラインアウトのセットピースを見極めたい。
 スプリングボックスのスクラムは、準決勝で逆転のきっかけを作った。オールブラックスが上手く対処できるか注目される。

 そして、ブレイクダウンの攻防では、激しいフィジカルバトルになることは間違いないだろう。もっとも見応えがある局面で、試合のカギを握る。オールブラックスの6番シャノン・フリゼル、7番サム・ケイン、8番アーディー・サヴェアの3人のバランスがよく、スプリングボックス相手にも十分に対抗できそうだ。

【キッキングゲーム】
 スプリングボックスは、キッキングゲームを得意な攻撃のスタイルのひとつとする。オールブラックスは、過去にキック処理で何度も痛い目にあっている。しっかり対応できるだろうか。
 逆にスプリングボックスは準決勝でイングランドの精度の高いキック攻撃に手こずり苦戦した。決勝ではしっかり修正してくるかも注目される。
 オールブラックスのSOリッチー・モウンガ、FBボーデン・バレットのダブル司令塔のキックの精度もカギを握るだろう。

【控え選手の投入】
 オールブラックスは、ケガ人が復帰してから控えの選手も充実している。
 HOタウケイアホ、LOホワイトロック、FLダルトン・パパリィイ、SO/FBダミアン・マッケンジー、CTBアントン・レイナートブラウンといったレギュラーでも遜色ない選手が並ぶ。
 そして140キロの巨漢ながら、モバイル(機動性)に動けるPRタマティ・ウイリアムズも試合を重ねるごとに成長している。

 ノックアウトステージを見ても分かるように、後半に入っても試合のテンポを落とさずに攻撃できる強みがオールブラックスにはある。そして今大会で披露している長時間のボール・イン・プレー(ゲームを切らずにボールを動かす)。スプリングボックスのスタミナを奪うことで、オールブラックスの勝機が見えてくる。

 それに対抗するかのように、スプリングボックスのベンチスタート8人の配分は、FW7人、BK1人と極端だ。これは、大会前ウォームマッチの対戦時に採用し、圧勝していることから、再び試すことにしたのだろう。
 BKのケガ人が出たら試合が厳しくなるリスクを背負ってでも、FW戦にかけている様子がうかがえる。このセレクションがどのように試合に影響するかも興味深い。

 控え選手の起用は試合を動かすきっかけになる。投入するタイミングと合わせ、注目したいところだ。

 今年の2回の対戦は、7月のザ・ラグビーチャンピオンシップで、35-20でオールブラックスが勝利。W杯開幕直前のウォームアップ戦ではスプリングボックスが7−35で勝利と1勝1敗。いずれも、序盤で大きくリードした方が試合に勝利している。
 今回もスタートダッシュに成功し、スコア上でプレッシャーをかけておくことが重要になってくる。

◆結束し、盛り上がるチームとNZ国内。

 決勝を前にコーチ陣、選手たちからは、ポジティブなコメントが多く出ている。
 印象に残ったのは、FWコーチのジェイソン・ライアンのコメントだ。「私たちはいくつかの分野で良い進歩を遂げました。私たちは正しい方向に進んでおり、私たちが非常に尊敬しているボックス(スプリングボックス)との対決を楽しみにしています」と語った。

 近年の不調から学び、やる事をしっかりやってきたと言う自信の表れのようにとれる。死闘の準々決勝の勝利後も前回大会のように慢心にならず、準決勝のアルゼンチン戦もしっかりと戦った。

 ノックアウトステージに入り一気にギアを上げてきたオールブラックスの調子はすこぶるいい。特に、粘り強いディフェンスが得点力のある攻撃以上に光る。隙のないように見える。
 しかし相手は最大のライバルのスプリングボックス。簡単には勝たせてくれないだろう。

 最高の相手と決勝で対戦する。どんなドラマを見せてくれるのかワクワクする。
 とてつもなく激しい試合になるだろう。

 NZ国内では、決勝を前にラグビーファンの元気な声がTVやラジオから聞こえてくる。朝から雄叫びをあげ、オールブラックスにエールを送る声がたくさん聞こえる。すでにお祭りモードだ。

 指揮官のイアン・フォスターをはじめチームは、チームへ連日届く応援の声に対して感謝する。

 パリに行くことができないファンのために地上波でも試合放映があり、自宅でライブ観戦することができる。
 そして急遽、イーデンパーク(オークランド)でパブリックビューイングが開催されることが決まった。しかも無料開催だ。現地やイーデンパークに行けなくとも、全国のパブなどで盛り上がりそうだ。

 チーム5ミリオン(NZの人口が約500万人)でNZ国民のヒーローのオールブラックスを応援している。
 ファンの期待に応えてくれるだろう。


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