成熟と進歩。中村亮土が見る日本代表。
ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ体制の日本代表が発足したのは、2016年秋のことだ。19年のワールドカップ日本大会での8強入りを経て、いまなお熟成し続ける。同フランス大会を23年秋に見据える。
浦安合宿があった同年6月、グループの歩みに触れたのは中村亮土。日本大会組のインサイドCTBで、普段は東京サントリーサンゴリアスに所属する。
まず話題は、今年の初選出組の吸収力について及んだ。
「戦術理解が早いというんですかね。新しく入ったメンバーも、そこまで時間をかけず、ゼロから10まで教えることなく、スムーズに練習できていると思います。スタッフが提示したことを、しっかり理解してグラウンドでできている。『普通に練習できている』というところで違和感がないというか…」
トニー・ブラウン アシスタントコーチの唱える攻撃の手順も、ジョン・ミッチェル アシスタントコーチが謳う防御システムも、いったんレクチャーを受ければ首尾よく表現できる選手が多いようだ。
新参者がすぐ組織になじむ裏には、すでにその組織にいる人たちの尽力もあろう。
常連組が新規選手を支える。その流れが成熟ぶりを醸す。
「いままで(ジョセフの下でラグビーを)やってきた人の割合が高く、だいたい(動きを)把握していて、それ(新加入組の理解)をサポートするメンバーが増えたというのもあると思います」
チームは6月12日からのキャンプ中、就寝前のホテルでは複数名でその日の練習映像をレビュー。確立されたチームのプラットフォームにならって、意識をすり合わせる。
練習のビデオを見る際、中村亮土は同じインサイドCTBを担う後輩を誘う。
埼玉パナソニックワイルドナイツの長田智希、東芝ブレイブルーパス東京のニコラス・マクカランらだ。
「その時に思ったことを振り返ってビデオを見ます。僕も、彼らの癖、考えを理解しないといけないので。お互い、理解を高め合っている感じですかね」
中村亮土にとって長田、マクカランは定位置を争うライバルにもなるが、中村自身は「自分のベストを作ることだけにしかフォーカスしていない」。周りと比べるのではなく、自分を高めて先発ジャージィをつかみたい。
29日まであった浦安合宿の個人的なテーマは、「個人のキャパシティを増やす」だった。
「だいたい、チームのやりたいことは理解しているつもりなので、スキル、コンタクトなど、個人でできることの枠を大きくしていく位置です」
渡りに船だったのは、浦安合宿が個人をとことん鍛える場だったことだ。
最初の2週間は、仮設テント内でタックルセッションがあった。ジョン・ドネヒュー スポットコーチが音頭を取った。選手は約1時間、ぶっ通しで身体をいじめ抜いた。
メニューには、ボールを使わない1対1のぶつかり合いもあった。
そこでは両者ともつかみ合ってはならず、どちらかが相手を所定の「ライン」の向こうまで押し切れば勝てる。その間は張り手も可とあり、さながらストリートファイトだ。中村亮土は笑う。
「身になりましたよ。さすがにひとりではできないことだし。『オフシーズンに自分を追い込めた!』と言っても、あそこまではできない。ああいう環境を用意してもらって、チームで取り組めたのは、すごくいい機会でした」
7月は宮崎に拠点を置き、全国各地で試合を重ねる。8日以降は1週間おきに、オールブラックスXVとの2連戦がある。
「この合宿でやったことを(試合で)出したい。それこそフィジカル、タックルのところを。よりパワフルなドミネートタックルが増えると思います。僕自身としても、チームとしても、です。あとは、日本らしい速いアタックも見せたい」
試合のメンバー選考については、「コントロールできない部分。与えられた位置を全うして…って感じですかね」。代表では一時、控え暮らしも経験した32歳は、静かに準備を進める。