コラム 2023.06.26

【コラム】百年の友情。君たちはどう戦うか。

[ 野村周平 ]
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【コラム】百年の友情。君たちはどう戦うか。
ラグビーマガジン初掲載の早慶戦は1973年 冬季号にて(1973年1月25日発行)。52回目の対戦、早稲田 18-3 慶應(写真:BBM)

 ラグビー早慶戦はこの秋、100回目の定期戦を迎える。第1回は1922年。ルーツ校の慶大が14—0で早大に勝った。会場となった慶大の三田綱町運動場には群衆が詰めかけ、近くの道場の屋上にあふれるほどだったという。

 第2次世界大戦による数度の中断を経て、終戦翌年の’46年に早慶戦は再開した。’47年11月22日に完成した東京ラグビー場(現・秩父宮ラグビー場)で行われた最初の公式戦は、翌23日の早慶戦だった。

 この試合は早大が41—3(8—0、33—3)で圧倒した。翌日の朝日新聞は「慶應の非力なFWが、よくスクラムをがんばり早稲田の攻撃を抑え、かえってゴール前に十数分間早稲田を圧した。ここで慶應は再三チャンスをつかみながらハーフ、センターの持ち過ぎから得点をとることができず、後半大敗の種をまいた」と報じている(慶應蹴球部百年史より)。

 記事の一節は惨敗の理由を敗者の視点から描いたものだが、私は「慶大の小さなFWはこの頃から記者の心に響く奮闘をしていたのか」と受け止めた。慶大OBである自分の身内びいきはさておき、刻まれた数字を見るだけでは分からない選手たちの息づかいが、伝統を紡いできたことを実感させられた。

 今年はさまざまな大学の運動部が「100年」の節目を迎えている。

 6月半ばにはともに創部100年を迎えた早慶両校によるアイスホッケー定期戦を取材した。2千人ほどが集まった会場では、客席の半分ほどを埋めた一般の学生たちが滑りのスピード感やぶつかり合いの迫力に喝采を送っていた。

 ブラスバンドの演奏に手拍子をたたいたり、各校の応援歌を歌ったり。会場あいさつで関係者が口々に「早慶戦は日本で一番、お客さんが来てくれる試合」と語っていたが、何より学生が会場の主役となって盛り上げている熱量が印象的だった。選手たちに聞けば、彼ら自身がキャンパスやSNSで試合を告知し、友人やクラスメートたちにチケットを買ってもらっていたのだという。

 アイスホッケーの早慶戦はOBや卒業生が試合運営や寄付金集めなどで後輩たちの活動を全面的に支援していて、もちろん、そういう方々は会場に多くいた。それでも、大学スポーツが若者たちの舞台であることが伝わってくる会場の雰囲気には好感が持てた。

 この春に取材した全米大学体育協会(NCAA)の男子バスケットボールの準決勝・決勝「ファイナル4」も、対戦する両校の学生たちが7万人超を収容する会場の最前列を埋め、飲めや歌えやのお祭り騒ぎをしていた。

 NCAAは近年、選手たちの肖像権を使ったビジネスを認めるなど、日本の大学スポーツとは比べものにならないほど商業化を進めている。それでも、学生たちに一番コートに近い席を用意し、チケット代も学生が買えるような価格帯に設定していた。それが試合の価値を高める算段だろうが、学生たちを中心に置く大会のあり方は興味深かった。

 一方で、先日取材させてもらった立教大学ラグビー部の100周年祝賀会で見た光景も悪くなかった。

 会場となったホテルの宴会場の中央で、立教OBと他大学OBが入り交じり、旧交を温めていた。早大ラグビー部OBの大東和美・元Jリーグチェアマンは「自分の周りの5世代くらいの顔ぶれは早慶明も立教も、ほかの大学もだいたいは知っている。OBの集まりが至る所にあるから」と話していた。明大出身の森重隆・日本協会名誉会長はあいさつの最後で「来月には明治の100周年もありますので、そちらもよろしくお願いします」と笑いを誘っていた。ラグビーの絆の強さを感じさせる集いだった。

 先の慶應百年史に、発刊当時の日本協会会長、金野滋さんのあいさつが掲載されている。そこで金野会長は、1971年に来日したイングランドチームに同行したトム・ケンプ氏の言葉を紹介している。少し長いが、引用したい。

「アマチュアラグビーは我々の生活の余暇のほんの一部に過ぎない。ラグビーは絶対に生活そのものになってはいけない。アマチュアスポーツとして存続する限り、ラグビーは冒険心に富んだ若者の理想をとらえるものになりましょう。なぜならばグラウンドで全身全霊を込めて対抗するライバル意識と、グラウンドを離れたときのあたたかい友情が奇妙にマッチするからであります。ラグビーではこのように一見相反する感情が人生の人為的な障壁を突き抜けてあらゆる民族、あらゆる階級を超えた共通の絆となるからでございます。そして、それが世をより良く、より正しく、より安全なものにしてくれるはずです。ラグビーの真の報酬は金杯やチャンピオンシップではなく、ラグビーをやる楽しみと各プレーヤーの間に結ばれた永遠の友情にあります。ラグビーというものは決してそれ以上のものでなければ、またそれ以下でもありません」

 ラグビーを巡る環境は日々変化している。ただ、ケンプ氏の言葉はラグビーに限らず、学生スポーツ全体に通じる真理ではないだろうか。この先の100年も、キャンパスにいる友人たちのハートを揺さぶり、老若のOBが支えたくなる組織であり続けるための心構えである。

【筆者プロフィール】野村周平( のむら・しゅうへい )
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップは2011年大会、2015年大会、2019年大会、オリンピックは2016年リオ大会、2020東京大会などを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。

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