コラム 2023.06.05

【ラグリパWest】長田は誇り。 古川辰行 [京都市立神川中学校ラグビー部元監督] 

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】長田は誇り。 古川辰行 [京都市立神川中学校ラグビー部元監督] 
日本代表に初選出された埼玉(旧パナソニック)の長田智希をその神川中学校時代に教え、導いた古川辰行さん。東海大仰星から中京大に進み、保健・体育の教員になった。現在は京都市の教育委員会につとめている
順調に成長の階段を昇る長田智希。(撮影/松本かおり)


 一報はショートメールで入った。
<ジャパンに呼ばれました。頑張ります>
 発信者は長田智希(おさだ・ともき)。受けたのは古川辰行(たつゆき)だった。

 5月24日、ラグビー日本代表とその候補の46人が発表された。メールはその当日だった。埼玉パナソニックワイルドナイツ所属の長田はCTBとWTBの兼任。23歳の若さである。

 そのラグビーを最初に本格的に磨いたのは、中学の3年間。京都の神川(かみかわ)だった。古川は恩師である。ラグビー部の監督であり、保健・体育の教員だった。

「率直にうれしかったです。私にとって長田は誇りです。桜のジャージーを着て、グラウンドに立つ姿を見てみたい、と思いました」

 古川は47歳。教え子で初めての日本代表である。その喜びはひとしお。鬼瓦のような顔をくしゃくしゃにさせた。

 神川はラグビーが盛んだ。この中学は京都市の郊外、南西にある。青い苗を潤す桂川が流れ、西にゆけばじき大阪に入る。

 長田の6歳先輩には坂手淳史がいる。埼玉のチームメイトは、同じ24日にHOとして召集を受けた。埼玉の主将でもある坂手は日本代表キャップ32を有する。

 長田はすでに小4から亀岡ラグビースクールで競技を始めていた。古川は説明する。
「同級生に誘われたようでした」
 入部して、長田と握手をする機会があった。
「手が、ごっつ、ごっつかったんです」
 ごっつ、とは京都弁で「大きい」の意。子供にない厚みなどが印象的だった。

 長田はすでに空手に鍛えられていた。
「黒帯を取るまで、という約束で1年の頃は練習を週1回休んでいた記憶があります」
 達成感を得て、ラグビーに集中する。
「フィットネスのトレーニングでは、ほかの部員と競い合っていました。設定タイムを上げても、すぐにクリアしてきました」
 向上心は高かった。

 最初はFWだった。格闘技経験者のため、コンタクトには慣れていた。
「僕はBKに変わることをすすめました。プレーの思い切りがよかったのです」
 古川はSH出身。瞬時に判断をして、実行に移すBKの方が向いている気がした。

 12人制の中学時代、京都選抜のAチームに入った。ただ、トップではなく、次の12人だった。
「神川はよくいってベスト4。当時は伏見と藤森(ふじのもり)の2強時代でした」
 選抜は強いチームから多く選ばれる。

 高校は東海大仰星に定める。古川はOBだった。大学は中京に進んでいる。
「私はなんにもアドバイスはしていません。その子の人生です。行きたいところに行ったほうがいい」
 地元には京都成章や京都工学院がある。坂手はここから京都成章に通った。

 本人の希望を尊重しつつ、古川は思った。
「仰星は合うやろな、と。基本を教えて、生徒たちに考えさせますから」
 長田は監督の湯浅大智の下、そのラグビーを旺盛に吸収する。
「長田は中学時代、勉強もできました。成績は5段階で5と4ばかりでした」
 理論を吸収できる素地もあった。

 東海大仰星ではCTBを任される。高3時には主将となり、冬の全国大会で優勝する。97回大会(2017年度)の決勝は大阪桐蔭に27−20。チームは全国大会V5を達成した。大会後には高校日本代表にも選ばれる。

 大学は早稲田を選ぶ。2年時にはCTBとして大学選手権で優勝する。56回大会(2019年度)の決勝は明治に45−35だった。大学時代は日本代表の下に位置するジュニア・ジャパンやU20日本代表に選ばれている。

 大学時代、長田は古川をたずねたことがあった。転出した七条中にやって来た。
「しゃべるのが上手になっていました。ええー、これが長田か、とびっくりしました」
 早稲田の最終学年は主将。大学選手権は58回だった。初戦の8強敗退。2年時に勝った明治に15−20と雪辱された。

 埼玉では新人の昨年こそリーグワン出場はなかったが、2年目の今年、ブレイクする。5戦目のBR東京(旧リコー)からプレーオフの2試合までを含め、CTBやWTBで14試合に出場した。先発は13試合。179センチ、90キロの体は速くて、強い。パスも上手い。その活躍が認められ日本代表に選ばれた。

 古川は長田が神川を卒業した後、七条で6年を過ごし、今は市の教育委員会に勤務している。指導現場で23年を過ごした。その間、府中体連のラグビー専門部の委員長などをつとめた。現在はその経験を生かし、不登校など様々な「困り」を持った子供たちが通う中学の改善に取り組んでいる。

 古川にとって、長田は忙しい日々を生きて行く中での星である。

「中学の時は、スーパーラグビーで活躍したい、と言っていました。当時はかなり上の夢のような話やと思っていたけど、どんどん近づいて行ってくれています」

 今秋のワールドカップに出場する日本代表は今の46人から33人に絞られる。その選考合宿で奮闘する長田の姿すら恩師にとっては励みになる。ワクワクが多い、幸せな教員人生を古川は得ている。


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