国内 2023.03.24

雨に降られたスピアーズ×イーグルス。プレッシャー下での底力に明暗。

[ 向 風見也 ]
雨に降られたスピアーズ×イーグルス。プレッシャー下での底力に明暗。
雨のなかでの激しい攻防。スピアーズのルアン・ボタを懸命に止めるイーグルス(C)JRLO


 足場に水しぶきが舞い、ボールは滑ってパス交換がままならない。
 
 3月18日、東京・江戸川区陸上競技場は悪天候に見舞われた。

 両軍の動きが制限された、国内リーグワン1部・第12節。要所を締めたのは、ホストのクボタスピアーズ船橋・東京ベイだった。

 前半38分だった。対する横浜キヤノンイーグルスの反則により、敵陣22メートル線付近右へ侵入した。

 HOのマルコム・マークスが、タッチライン際のラインアウトで球を投げ入れようとする。ここへ相手SHのファフ・デクラークが、何やら、話しかける。

 集中力を削ぎにかかったのだろう。

 2人は南アフリカ代表、さらに母国のライオンズでもチームメイトだった。旧友のプレッシャーにマークスはしかし、どこ吹く風だった。

「いつもああして邪魔をしてくる。それが、ファフ・デクラークです」

 正確に投げる。まもなく仲間がモールを作る。捕球役のLO、デーヴィッド・ブルブリングが軸だ。

 前後の支柱役がブルブリングを守り、イーグルスの防御役が差し込んでくるのを弾く。果たしてオレンジの重戦車は、適宜、蛇行しながら前進する。

 最後は最後尾のマークスがグラウンディングし、5-0と均衡を破った。

 イーグルスの左PRだった岡部崇人は、押された事実を「ひとりの役割がずれると、全員分がずれてくる」と悔やんだ。

 スピアーズのCTBに入る立川理道主将は、自軍の底力を実感した。

「ひとりひとりがその時に何をしないといけないのかがわかっている。前半の本当に大事な時間帯で、FWが塊になってくれました」

 戦前の順位はそれぞれ2位、3位。トップを争う者同士の好カードは、恵まれぬ気象条件のもとぶつかり合い、キックでの陣地の取り合いに左右された。

 初の4強入りを目指すイーグルスも、デクラーク、SOの田村優による高低を織り交ぜたキックを多用。スピアーズの捕球ミスを誘った。立ち上がりから38分間を無失点で切り抜けたのは、そのおかげだった。

 しかし田村は、首をひねって会場を去る。

「追いかける試合展開になった時点で、ちょっと厳しかった」

 マークスら大型FWを擁し2季連続4位以上のスピアーズに勝つには、少機をものにしてスコアで先行したかったのだ。

 イーグルスは失点する約15分前、敵陣ゴール前まで進んだもののマークスのジャッカルにスコアを阻まれている。

 そのシーンにつき、マークス自身は「私ひとりの仕事ではない。他の選手がタックルでハードワークし、すぐにその場を離れたことで、ジャッカルに入るチャンスが生まれました」。この謙虚な超人は、ハーフタイムを経てからも魅する。

 向こうの左WTB、竹澤正祥がイエローカードで一時退場した後半6分からのことだ。ラインアウトで投げ入れたボールを再びもらい受け、グラウンドの端側を快走する連係技を2度、成功させた。

「ボールが濡れていて、後ろのほうへ投げるオプションは難しいから」

 そのうちふたつめが決まった直後の12分、スピアーズは敵陣ゴール前右でイーグルスのラインアウトに圧をかける。12-0と加点した。果たして15-5で勝負を制し、10勝1分1敗で2位をキープした。

 激戦で踏ん張れる背景については、複数の選手がほぼ同じ内容で語る。

 立川が代表して言う。

「日々の練習から、メンバー外の選手がプレッシャーをかけてくれている。試合と同じような強度、動きを出してくれる。競争がチーム力を上げて、試合に出る選手たちがより研ぎ澄まされているというか、『選ばれた選手が出る』という風になっていく。それが、上位にいるための最低条件だと思います」

 主力組が控え組の献身に感謝するのは、敗れたイーグルスも同じだ。

 前節では、FLの安井龍太が今季2度目の出場を途中出場で飾る。すると観客席にいた『ライザーズ』こと「メンバー外」の選手が大盛り上がり。安井は笑った。

「僕も(ゲームに)出ていない時間が長かった。皆の思いを背負っているつもりでした。(イーグルスには)大人な人間が多いので、やるべきことをわかって、かつ自分がどうしたら成長できるかを考えている。それがチームの一体感につながっている」

 もっとも今度の大一番では、CTBの梶村祐介主将いわく「がまんはしていたんですけど、同じムーブ(マークスの動き)で何度もゲイン(突破)された。『同じ失敗は繰り返さない』が、今日の学びになりました」。試合に向けた戦法そのものは一丸となり遂行も、圧力下における個々の失策に泣いた。

 竹澤の一時退場処分は、その一例か。

 処分を受けたのは、味方のキックを空中で捕る相手にタックルしたプレーだ。

「自分がちょっと行き(勢いがつき)過ぎて、ぶつかってしまった。(反則のリスクを減らすには)空中で競るのがよかったのですが、自分の判断ミスで…」

 こう反省した本人は、就任3季目の沢木敬介監督に告げられた。

「これを活かして、次、頑張れ」

 指揮官は、記者会見でもこの件に触れた。

「ああいうペナルティをしてしまうと、相手に勢いを持っていかれる。これを経験値という言葉では片付けたくないけど…。次に活かせればいいと思うので」

 これにて7勝2分3敗で4位。今後のビッグゲームを制する秘訣を聞かれ、沢木はこう示した。

「プレッシャーと、向き合わないといけない。プレッシャーは悪じゃない。それにどう対処し、それをどう力に変えていくかというマインドを持てるようになれば、こういう(タフな)ゲームでも正しい判断ができるし、ひとつのミスに一喜一憂しない」

 スタンド下に設けられたミックスゾーン。前所属先から通算し来日4季目のマークスが、今季イーグルスに新加入のデクラークと誘い合ってスポンサーボードに並ぶ。大物同士の記念撮影が、ノーサイドの合図となった。

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