23歳の福井翔大をゲーム主将に抜擢で無敗キープ。ワイルドナイツ決断の背景は。
白星のほかに欲しいものがあった。
今季のリーグワン1部で開幕11連勝中の埼玉パナソニックワイルドナイツは、3月19日、東京・秩父宮ラグビー場での三菱重工相模原ダイナボアーズ戦に大胆なメンバー構成で挑んだ。
日本代表でも船頭役を担うHOの坂手淳史主将、同じく代表歴の豊富なPRの稲垣啓太を控えに回し、ゲーム主将には23歳の福井翔大を抜擢した。
東福岡高から大学を経ずに加わり5季目の福井は、身長186センチ、体重101キロのFW第3列でシャープなコンタクト、スピード、何より前向きな性格で際立つ。
大役を担った本人は、「緊張」を隠さなかった。
「いつも通りやろうと思っていたのですが、どこか緊張するところはあったのかなと」
ロビー・ディーンズ監督は「今回の試合は、(前回の休息週以来)6連戦の5戦目でした。いろんな選手を使ってマネジメントしないといけなかった」。福井の抜擢は「私にとって簡単な選択」だったようで、本人が「緊張」していたと打ち明ける様子にも「正直なところもリーダーに求められる素質」。目先の勝利を目指しながら、未来の繁栄を見据えていた。
「ワールドクラスの選手が揃うチームでリーダーとして活躍するのには、恐怖も伴う。それを正直に口にできること自体、リーダーになる素質です。福井はチームからリスペクトを勝ち取っている。選手としてはもちろん、リーダーとして未来の選手をドライブする人になって欲しいと思います。リーダーになると、皆の目が自分に向く。ここで結果を出せるかが問われてくる」
期待の星が船頭役を務めるに際し、周りも後押しした。日本代表のSOで28歳の松田力也は、準備段階からこう考えた。
「あいつはのびのびやるのが一番、いい。(当日は)翔大に負担がないよう、僕がいつもよりリードしないといけない」
キックオフ。ワイルドナイツは序盤からペースを握った。
前半4分に0-3とリードされるも、約2分後に逆転するや一気にペースアップした。
数的優位があると見れば、自陣からでもラン、パス、短いキックでスペースを攻略。南アフリカ代表CTBのダミアン・デアレンデ、オーストラリア代表WTBのマリカ・コロインベテが適宜、持ち場を離れてチャンスを作った。
前半だけで49得点を挙げ、61-29で開幕12連勝を決めた。
福井は改めて言った。
「僕自身、ゲーム主将をやらせていただいたことで、本当にいいチームに(在籍して)いると改めて感じられました。この1週間、アタック、ディフェンスなどの各リーダーがチームに対してポジティブなことを言ってくれていました。僕が主将らしいことをしていないなかでも、チームが完成していた」
失敗も糧にできた。
というのも後半のスコアでは、12-21とダイナボアーズに上回られたのだ。
中盤以降は、攻め込んだ先でエラーを重ね、反則やターンオーバーから得点機を付与。折しもダイナボアーズは、グレン・ディレーニー ヘッドコーチに喝を入れられ原点に立ち返っていた。
ワイルドナイツが失点し、前半で退いた松田がピッチの外から助言を届ける一幕もあった。
「ボールが横に、横に動いていて、ゲイン(前進)できていない。もっとダイレクト(直線的)にいかないと相手にプレッシャーがかからない…と。うまくいかない時は何か原因がある。それをすぐにわかって、ピッチ上にいればコミュニケーションを取り直せる。(チームとしては)こういう(難しい)試合を重ね、レベルアップするものだと思います」
渦中、福井も状況を改善すべく、「もう一回、ベーシックなことをやろう」とリマインドした。それでも改善の手ごたえがないまま、ノーサイドを迎えたという。
「(大差がついても)本当に誰も手を抜くことはなかった。ただ何かが嚙み合わなくて、ペナルティも増えて、うまくいかなくなった。そこは、僕らがもっと上にあがれるところ(伸びしろ)です」
この時間もまた、福井の肥やしになると指揮官は見る。
「(福井は)視野が広がったのではと思います。(リーダーとしての)試合に向けての準備に、どれだけの苦労があるのかを学んでくれたと感じています。(試合では)前半のようにうまくいっている時は何もしゃべる必要がないが、後半のようにうまくいかなくなる時こそ(リーダーシップが)求められる。(失点後の円陣などで)自分がどんな話をするか、誰に話を振るのかを迷うという教訓が、今日、得られたと思います」
一昨年、日本代表に初選出された福井。故障のため昨年の代表活動には加われなかったが、今年開催されるワールドカップ・フランス大会への出場は「あきらめたことないです!」。各国代表戦士がひしめくワイルドナイツで、選手としての幅を広げる。