コラム 2023.03.02
【コラム】 2035へ。オフ・ザ・ピッチで急がれる育成

【コラム】 2035へ。オフ・ザ・ピッチで急がれる育成

[ 野村周平 ]

 W杯組織委には、事務方トップの嶋津昭事務総長(元総務事務次官)のもとに、各局のかじ取り役を担う5人の「ナンバー2」が配置された。

 そのうちの2人、ミック・ライトさんとクリス・スタンレーさんは、統括機関ワールドラグビーから送り込まれた。W杯など国際スポーツ大会運営のプロたちだ。

 彼らが組織委に加わった頃、組織委内部や開催自治体の役人から「外国人にのっとられた」「日本の習慣を知らない人たちとは一緒に仕事ができない」などというネガティブな声を何回も聞いた。

 ただ役所からの出向者らで構成された組織委に国際大会の運営を経験した人材はほとんどおらず、専門的知見が少なかったのは事実だった。

 彼らが入ったことで、主催するワールドラグビーのガバナンスが利きはじめ、課題が明らかになり、準備のスピードは上がった。今回の一連の事件で焦点となった発注者と受注者が重なる利益相反の問題も、日本の商習慣へのしがらみがない外国人幹部が意思決定層に存在することで未然に防ぐことが出来た部分があった。

 外国人幹部がすべての問題を解決した、と言いたいわけではない。逆に内部であつれきが生まれた部分は少なくなかった。彼らの意向で、不本意なポジションに異動させられたり、出向元に戻ったりする管理職もいた。元職員は、大会の成功をもってしても彼らへのわだかまりが完全に埋まったわけではない、と話していた。

 それでも、大会後に解散することが決まっている時限組織を効果的に機能させるには、国籍問わず専門家を適切に配置することが肝であることを彼らは示したと言っていいのではないか。

 オリパラの組織委は「オールジャパン」を強調し、主に役所の論理で大会を運営した。ラグビーW杯のように、第三者的かつプロの視点を内部に抱えることができなかったから、マーケティングや大会運営など専門性が必要な分野を、電通など一部のノウハウを持つ人間や組織に依存せざるを得ない構造になった。

 W杯日本大会の公式報告書には各局ごとに準備や運営で得た気付きや学びに関する記述がある。

「大会前は国際レベルの試合運営経験を有する日本国内の人材は限られており、多くの専門人材を海外から招集せざるを得なかった。(中略)今後長期的な視点では国内においても専門人材の育成が求められる」(ラグビー業務局)

「様々な経験を持つ国際専門人材および海外コンサルタントが多方面において活躍してくれた。彼らを(中略)活用する際には、ビザ取得等の複雑な手続きに加え、文化の違い(契約書至上主義)も理解する必要がある。(中略)理想としては国際的な契約手続きや、業務内容に対する知見を持った専任者を配置することも必要」(人材戦略局)

 今回の事件を教訓に、日本ラグビー界は世界に通用する選手だけでなく、世界基準の裏方を意識的に育成していかなければいけないと思う。もし’35年に2度目のW杯がくるとして、残り12年。長いようでいて、時間はあっという間に過ぎていく。

【筆者プロフィール】野村周平( のむら・しゅうへい )
1980年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒業後、朝日新聞入社。大阪スポーツ部、岡山総局、大阪スポーツ部、東京スポーツ部、東京社会部を経て、2018年1月より東京スポーツ部。ラグビーワールドカップは2011年大会、2015年大会、2019年大会、オリンピックは2016年リオ大会、2020東京大会などを取材。自身は中1時にラグビーを始め大学までプレー。ポジションはFL。

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