国内 2023.02.28

殊勲マルコム・マークスは「文化」を誇る。スピアーズ9戦負けなしで王者に挑む。

[ 向 風見也 ]
殊勲マルコム・マークスは「文化」を誇る。スピアーズ9戦負けなしで王者に挑む。
ラインアウトでスローワーを務めるマルコム・マークス。スピアーズのキーマンのひとり(撮影:松本かおり)


 頑張りすぎるな。

 クボタスピアーズ船橋・東京ベイの、これがキーワードだ。

 田邉淳アシスタントコーチはいつも言う。担当の攻撃面についてだ。

 個々が強引に局面を打開しようとするのではなく、組織でつながってスペースを攻略するよう促す。

「ラグビーは15人でやるスポーツ。皆で一緒にアタックをしよう。個人、個人(スタンドプレー)ではなく、我々の持っている約束事(システム、プラン)のなかで、ひとりひとりが役割を徹底すれば、絶対にスコアチャンスは生まれる」

 2月25日、本拠地の東京・江戸川区陸上競技場。昨季4強同士だった東芝ブレイブルーパス東京とのリーグワン1部・第9節では、その有機的なアタックでファンを楽しませた。

 前半2分の先制トライ(5-0)、2点差に迫られていた13分の追加点(10-3)は、流れるパスワークがもたらした。

 NO8のファウルア・マキシらFW陣が強烈にぶちかまし、SOのバーナード・フォーリーが適宜、ラン、パスを使い分けて深めの布陣を操る。左の木田晴斗、右の根塚洸雅、といったそれぞれ1、2年目の若手WTBが、本来の持ち場を問わずに走り回る。

 前年度新人賞の根塚は加速力と運動量で、ルーキーの木田は強さと思い切りのよさで魅する。田邉は続ける。

「我々は強みである若いWTBを使う。(2人は)ボールを持っていない時にどんどん、どんどんタッチラインから遠ざかって(逆側へ回り)、人数をプラスしていく(数的優位を作る)。それを、フォーリーと9番(SH、この日の先発は28歳の谷口和洋)が活かしていく。(突進役を担う)FWがしっかり前に出てくれることを信じる…」

 個性のよさを引き出すシステム。その仕組みにあって際立ったのは、マルコム・マークスも然りだ。

 身長189センチ、体重117キロの28歳。南アフリカ代表として2019年のワールドカップ日本大会を制したHOは、文句なしの強靭さ、スピードで光った。

 24分だ。スピアーズはまず、根塚のランとキックで敵陣ゴール前右へ球を運ぶ。

 相手の蹴り返しをハーフ線付近で捕るや、右から左へ展開する。木田のラン、パス、CTBのハラトア・ヴァイレアのサポートでタッチライン際をえぐる。22メートル線を通過する。

 右にラックを刻む。さらに右へ回す。ここで最初にバトンを受け継いだSOのフォーリーの右斜め後方には、深めの攻撃陣形が整っていた。

 まずフォーリーからパスをもらったのは、CTBのリカス・プレトリアスだ。プレトリアスは飛び出す相手防御を引き付けると、その右側の死角へパスを放る。

 それを受け取ったのはマークスだ。突っ切る。トライ。

 直後のコンバージョン成功で20-3としたこの場面を、当のマークスは淡々と振り返った。

「あのコネクションは、練習している動きでもあります。自分の仕事を全うできました」

 後半も木田、根塚をフォーリーが活かす流れは続く。対するブレイブルーパスのSHで共同主将の小川高廣は、こう述懐する。

「すごく勢いがあって、相手の強いキャリー(突進役)を受けてしまって、(防御を接点付近に)寄せられて、寄せられて…という状況に」

 マークスら中央の突進役に対して「受け」た、つまりは受け身になった。かくして次の局面で後手を踏み、両翼の躍動を促してしまったと見る。

 本来ならフィジカリティが強みのブレイブルーパスにそう言わしめるほどの圧力が、スピアーズのプラットフォームにはインストールされていた。

 マークスは守勢局面でも強烈なタックル、ジャッカルで向こうの攻めのリズムを鈍らせた。39-20と点差をつけていた28分、交代した。

 ノーサイド。46-27。マークスは、「まずは勝利を味わいたい。ただ、ラグビーには完璧はない」。超人的な動きにも改善点があると言いたげだった。

 これでブレイブルーパスが4勝5敗となったのに対し、スピアーズは8勝1分。無敗をキープする。

 ちなみに勝者は前半19分頃、即興的なアタックでスタンドを沸かせている。トライラインまでの約75メートルの距離を、たった5本のパスで攻略したのだ。

 途中に球を前へ投げる反則があったため、トライは無効となった。ただしこのシーンで「ラストパス」を放ったマークスは、手ごたえを口にした。

「スクランブルなアタックでも、同じ絵を見られた」

 シーズン中盤には、大量得点後に足踏みする試合内容に反省していた。2月上旬の休息週を経て、「バック・トゥ・ザ・ベーシック」を合言葉にした。原点回帰を誓った。

 江戸川で開かれた第8節では、堅守で鳴らす三菱重工相模原ダイナボアーズを60-22で撃破。かくして日本代表NO8のリーチ マイケルら実力者揃いのブレイブルーパスから、白星をもぎ取った。

 好調の秘訣は。マークスが即答する。

「オンフィールドならミスがあってもサポートで支える。オフフィールドなら、相手のことを考えてケアする。チーム文化がうまくいっている」

 フィールド内で「同じ絵」を見てハイパフォーマンスを発揮しているのは、選手同士の関係が良好だからだというのだ。

 司令塔のフォーリーは、さらに深掘りする。

「簡単そうに見えるトライも、ハードワークの結果です。スモールトーク、FWのショートパスを経てBKがコネクションを取ってスペースを見つける。そこでパスをするのか、ランをするのか、キックをするのか、ワイド(大きく展開)にするのかを判断する…。このような、小さいことの積み重ねなのです。武器も多い。相手にとっては守りにくいと思います」

 3月4日の第10節では、埼玉パナソニックワイルドナイツとぶつかる。国内タイトル2連覇中の優勝候補に、敵地の熊谷ラグビー場で挑む。

 ワイルドナイツの看板である組織防御を、スピアーズのアタックの「コネクション」は突き破ることができるか。

 同部OBでもあるアシスタントコーチの田邉は、こう展望する。

「我々にも得点力がある。そこには自信を持っていい。ただ相手もディフェンス力に自信を持っている。どちらが先にがまんできなくなるか(の勝負)」

 戦略的なキックも交え、自慢の攻撃力を有効活用したい。

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