九州3位。得点王も出た。鹿児島大ラグビー部の充実
ラグビーをやるためだけに、そこに来た者は一人もいない。
最初は、部活動へ取り組む個々の温度差もある。
それが変わっていく。
チームの熱量が少しずつ増える。
やがて、グラウンドを離れてもラグビーについて話し、みんながチームのことを考え出す。
時代や地域を問わず、地方国立大ラグビー部のサクセスストーリーの多くは似ている。
2022年度シーズンの鹿児島大も、そうだった。
九州学生リーグ3位。2013年度シーズン以来の好成績だった。
歩んだプロセスは将来につながる。
でも、全員で決めたターゲットには届かなかったのだから悔しい。
鹿児島大学ラグビー部の中嶋健太主将(PR)は、ラストシーズンを終えて1か月ほど経った12月中旬、そう話した。
ここ2年はコロナ禍の影響もあり、簡易化されたシーズンもあった。同主将が入学する前年も含め、過去4シーズンはすべて5位。
上位校の福岡工大、福大、九州共立大、日本文理大には、一度も勝っていない。
そのまま卒業したくなかった。
中嶋主将たちは自分らの代になって、年間活動の最大ターゲットをどこに定めるのか、4年生を中心に話し合った。
いろんな意見が出た。
順位決定トーナメントに出るための4位以上を目指そう。
上位校のどこかに勝とう。
そんな中で、中嶋主将は「九州(王座)を獲ろう」と仲間たちに呼びかけた。
負けず嫌いだ。長崎北陽台高校の3年生の時は、花園で準々決勝に進出している。
帝京大のFWで活躍する山添圭祐は高校時代の同期で、いまも連絡を取り合う仲だ。
日本一を狙う友から刺激を受け、自分たちも、戦うステージの中で頂点を目指すべきだと思った。
「4位以内を目指す。それは、負けるのを前提としているように感じました」
「勝とう」とただ言うのではなく、頂点に立つまでの道筋を仲間に示し、チームとしてベクトルをひとつにすることも忘れなかった。
鹿児島大は、今秋の日本代表欧州遠征でキャップも獲得した中尾隼太が学んだ大学としても知られる。
そんな背景もあり、多くの人たちが自分たちを好意的な目で見てくれる。
しかし主将は、「国立大学というだけでチヤホヤされることには違和感がありました」。
しっかりした結果を残すことで自分たちも満足したいし、評価を受けるべきだ。
そのためにも入念に準備した。
強豪と戦うとき、肉体的に圧倒されればスタートラインにも立てない。
トレーナーの協力も得てウエートトレーニングに取り組んだ。個々の数値をチームで管理した。
グラウンドに常駐する指導者はいない。選手主導の自治、自律でチームの土台を築いた。
体格、部員数で上回る相手に勝つために、戦い方も絞り込んだ。
例えば初戦の日本文理大戦。エリア重視、ショットで得点を重ねる作戦を描いた。
メンバー表には23人が名を連ねていても、格上に対抗できる力を持つ者の人数は限られている。だから終盤に走り勝つ試合をするなら、効率よく得点する必要があった。
FB小池明輝はこの試合で先制PGを含む1G3PGで11得点。16-14と競り勝つ原動力となった。
福岡高校出身。高校時代はキッカーではなかった。一浪しての入学後、4年生が卒業したらキッカー不在となるチーム状況を見て空き時間にもキック練習に励み、武器となるまでそれを高めた。
初戦で日本文理大に勝ったのは大きかった。
2戦目の福大戦は敗れるも、20-26と迫る。PGで6点を先行するなど戦い方も確立された。
福岡工業大、九州共立大には完敗するも、4位となり、上位同士で戦う順位決定戦への進出を決めた。
勝負を懸けたプレーオフの初戦では、リーグ戦で大敗した福岡工業大に食らいついた。
PGで先制。すぐに逆転されるも必死でスコアを離されぬように粘る。前半を17-17で終えた。
後半に3トライを奪われ、自分たちは1トライ。最終スコアは24-34も、残り3分まで5点差だった。
最終戦となった3位決定戦、福大戦は34-31。逆転勝ちだった。
チームは逞しかった。
先制するも、3連続トライを許して逆転される展開。口では勝てると言っていても、不安になっておかしくなかった。
そんな状況の時、落ち着いた態度で仲間たちに次にやるべきことを話したのが副将のSH畑田康太朗だった。
今年のチームは絆が太かった。特に4年生は仲が良く、部活の2時間だけでなく、それ以外の時間もよく集まり、ああでもない、こうでもないと、チームのことをよく話した。
その成果がシーズンラストゲームの勝負どころで生きた。
前半26分から3連続トライと反撃。小池がすべてのゴールキックを決めて28-17としてハーフタイムを迎えた。
後半の立ち上がりも、DGとPGで差を広げた。相手の追い上げをかわして3点差で競り勝った。
中嶋主将は、「いい加減にやろうと思っている人は誰もいない。ただ、もうひとつ先まで行こう、と最初から思っている人も多くない。でも、どうせやるなら、と実はみんな思っている。だから、やるなら全力でやろうと言えば、みんなが応えてくれました」。
キャプテンは、自分たちで運営しているチームだから、一人ひとりの考え方がチームカラーに反映されることを感じた。
全員で考えたラグビーをプレーしているから、試合中も同じ考えを共有して動けた。
「成し遂げる。そのやり甲斐を感じました」
ほぼ全部員が、部活、授業、アルバイトの生活を送りながら充実の日々を得た。
中嶋主将は4年間焼肉店で働いた。52得点(2T6G10PG)でリーグの得点王に輝いた小池のアルバイト先は居酒屋。温泉の浴場清掃に励んだ部員も多数いる。
小池は、「指導者がいないから、全員が意見を出さないと練習の質が上がらないと分かっているチーム。そこが高校のラグビー部とは違います。ここでは、自分たちで練習の内容も考えるから、そのメニューの意図も分かって取り組む。それを繰り返していると、試合中も、練習と同じだ、と思うシーンがある」と話す。
理学部に学ぶ小池は「人があたたかい」と、4年間暮らした鹿児島が好きになった。
卒業後はパイロットを目指して他大学に進学。資格取得後に鹿児島の航空会社に就職するつもりだ。
コロナ禍の間に「キック練習は一人でもできる」とボールを蹴り続けた努力の人は、今後も自力で未来を切り拓いていく。
「授業の空いているコマに、ラグビーの映像を見たり、できることはある。そういうことを積み重ねれば、(この部は)もっと強くなれると思います」と後輩たちにエールを送る。
教育学部に学んでいた中嶋主将は、「みんなのお陰で楽しくて、充実した生活を送らせてもらった」と話した。
卒業後は地元に戻って働く。
後輩たちへ向けて言った。
「目標を立てて、みんなで一生懸命にそこを目指してほしい。成し遂げる満足感を感じてほしい。自分たちのやりたいようにやればいい」
キャプテンは、新チームが自分たちのカラーを作り出すことを願っている。
2022年度の鹿児島大学ラグビー部は、3位より嬉しいものを全員で手にした。
同じ充実を、後輩たちにも感じてほしい。