日本代表 2022.11.27

初テストマッチの中尾隼太、日本代表期間中にもブレイブルーパス参加?

[ 向 風見也 ]
初テストマッチの中尾隼太、日本代表期間中にもブレイブルーパス参加?
11月20日のフランス戦で日本代表初キャップを獲得した中尾隼太(撮影:松本かおり)


 27歳の中尾隼太が、日本代表でのデビューを果たした。

 11月20日、敵地のスタジアム・ド・トゥールーズでフランス代表戦へ出た。17-35とリードされていた後半35分、FBの山中亮平と替わった。

 ファーストプレー。自陣10メートル線エリア左中間に蹴られたボールを捕り、迷わずカウンターに出る。フットワークを刻み、壁に衝突する。

 身長191センチ、体重115キロのグレゴリ・アルドリット、身長202センチ、体重118キロのバスティアン・シャリュローにつかみ上げられながら、味方の援護をもらって身長176センチ、体重86キロの身体をなんとか前に倒す。

 日本代表はそのまま攻め続ける。

 一度はターンオーバーを許すも、中尾がフランス代表の展開した先へ猛チャージを仕掛ける。

 敵陣中盤の左中間で相手のキックを手で弾き、転がる球を向こうのゴールエリアまで追う。捕球するマチュー・ジャリベールへも圧をかけ、得点機を作る。

 ここから交互に攻守を入れ替えた末、中尾は、敵陣22メートル線付近右中間でパスをもらう。防御網へ直進しながら、手にした球を右大外のスペースへ放る。味方を快適に走らせる。
 
 結局、スコアできなかったが、世界ランクで8つ上回る2位のフランス代表に牙をむいたのは確かだった。

 戦前から、心は凪いでいた。

「プレッシャーが大きければ大きいほどラグビー選手として幸せなことだと思っていて、それを乗り越えた時の高揚感、達成感というのをいままで味わってきました。途中出場。どういう状況で出るかはわからないですが、チームを勝利に導くためにどうしていくかを考えていきたいです」

 異色のキャリアで知られる。

 長崎北陽台高を卒業後、関東、関西の強豪ではなく国立の鹿児島大へ入った。九州学生リーグ1部加盟のクラブでプレーしていた時は、教師を目指していた。高校の体育教師に加え、小学校教諭の資格も取った。教育実習ではオルガンを弾いた。

 それでも現所属の東芝ブレイブルーパス東京(現名称)でラグビーを続けられたのは、大学4年時に入った九州学生選抜での働きが買われてのことだ。

 新しい世界に触れたい、アスリートとして進歩したい。そう思い続けて6年が経過した今年6月、初めて日本代表に選ばれた。

 「エリート」と一線を画す歩みに賛辞を贈るのが、ブレイブルーパスで先輩のリーチ マイケルだ。フランス代表戦でもスターターとして奮闘の元代表主将は、具体的な逸話を交えて語る。

「彼は僕のなかでもっともリスペクトする選手。大学ではコーチとマネージャーがいなくて、バイトしたお金で(クラブに)入ってきた子たちのお昼ご飯をおごっていた。そのなかから、東芝にスカウトされて、試合に出て、いまは日本代表のジャージィを着る選手になった。本当に、努力家です」

 勤勉さ、冷静さに定評がある中尾は、秋の日本代表にも呼ばれた。10月1日には「JAPAN XV」名義でおこなった、オーストラリアA戦(東京・秩父宮ラグビー場/●22-34)では本職のSOで先発した。

 以後は出場機会を失ったものの、軸足は、ぶれなかった。

「常に自分のなかに課題はたくさんあるので、まずはそれを克服すること。そしてチーム(の一員)として、(練習で)相手国のプレーをして(主力組に)いいプレッシャーをかけ、全体の準備を進める。そのふたつに集中してきました」

 印象的なのは、休息週の逸話だ。

 日本代表は対オーストラリアAの3連戦を終えるや一時ブレイクを挟んだが、その間、中尾はブレイブルーパスのトレーニングに加わることがあったという。

 心身共に疲れのたまる代表活動のさなかに、所属先の活動へ携わるのは異例。同僚で日本代表経験の豊富な德永祥尭は驚く。

「偉いっす。ミーティングにも参加して」

 徳永と一緒に共同主将を務める小川高廣は、日本代表が10月29日におこなったオールブラックスことニュージーランド代表との試合(東京・国立競技場/●31-38)を前にこう話した。

「オールブラックス戦、中尾(の先発)で行って欲しいなと本当に思います」

 学習意欲の高い青年のことだ。きっと、トゥールーズでの皮膚感覚も宝物としていよう。この約3か月間の代表活動では、常連組の日常からも多くを吸収していた。

「皆、リフレッシュがうまいなと。街へ出たり、カフェに行ったりして切り替えて、集中する時にエナジーを持つ。そこが、自分のなかで学びになりました」

 来秋のワールドカップ・フランス大会へは、故障離脱中の松田力也らとの生存競争に挑む。

「(課題は)キックの正確性、一貫性、アタックのオーガナイズ(統率)。それはこれから先も取り組んでいきます」

 まずは12月17日に開幕する国内のリーグワンで活躍し、日本代表でのサバイバルレースへ挑む足掛かりを作りたい。

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