「カマしたろう」。日本代表の姫野がオールブラックス相手にジャッカル連発。
6万5000人超のファンの前で日本代表の7番をつけたのは姫野和樹。身長187センチ、体重108キロの28歳は、ワールドカップ3度優勝のニュージーランド代表を相手に動じなかった。
10月29日、国立競技場での大一番に臨む。
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試合前、オールブラックスの異名をとる相手は、先住のマオリ民族の伝統舞踊「ハカ」を繰り出す。世界中の対戦相手にとって、この威嚇を乗り越えられるかが最初の試練となる。
ここに日本代表は、策を講じていた。陣形の後ろの選手を見た。マオリをルーツに持つ名人が前に並ぶことが多いのを踏まえ、元オールブラックスでもあるジャパンのジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが発案したのだ。
姫野は、「僕はシャノン・フリゼルが下手なのを知っていたので、彼を(見た)」。2021年には、フリゼルのいた同国のハイランダーズへ在籍していた。相手を過大評価しないのは、自然な流れだった。
「ニュージーランドでプレーしたからこそ、相手のレベルも、(戦前に)どう準備すればいいかもわかる。彼らのラグビー文化の中で生きてきたので、彼らをリスペクトはしていたけど、恐れることはなかったです。むしろ、カマしたろうと」
宣言通りだった。際立ったのは、相手の接点から球を奪うジャッカルの動きだ。
前半37分頃には自陣22メートル線付近右中間で決め、攻守逆転。反攻からのトライをおぜん立てした。10-21。
さらに17-28と11点差を追う後半14分頃には、自陣ゴール前中央左寄りで腕を伸ばす。向こうのボール保持者の反則を誘った。
「ブレイクダウン(接点)のボールへのアタッキングマインドを持っていました」
姫野のジャッカルは、思わぬ副産物を呼ぶ。24-35と一進一退だった同26分、相手LOのブロディー・レタリックがジャッカルをしていた姫野の頭部へクラッシュ。姫野は動じなかったが、レタリックは危険なプレーをしたとして一発退場の処分を食らった。
人数で上回った日本代表は最後の反撃に出て、39分、31-35と迫った。ここでトライを獲ったのは姫野。味方が敵陣ゴール前でラックを連取するなか、密集の脇にいた身軽なBKの選手のもとへ飛び込んで決めた。
ここから1トライ1ゴールを決めれば、日本代表は逆転できる。
「時間がなかった。はよう蹴って、次へ」と次を急いでいた姫野は、冷静でもあった。仲間と目を合わせ、「ボールキープからトライを狙いに行く」と意思疎通した。
ちなみに姫野のトライシーンは、テレビジョン・マッチ・オフィシャルと呼ばれるビデオ判定で落球を疑われた。戦後の取材エリアでその件を問われれば、「いやぁ、まぁ、トライ…で」と周りを笑わせるに止めた。
最後の最後まで行方の分からない勝負を演じた。ただし終わってみれば、31-38と惜敗。レタリック不在の相手を打ち崩せなかった裏には、日本代表のエラー、ペナルティがあり、姫野はこう認める。
「ペナルティが多すぎましたね、あの(レタリック退場の)後。そこで時間を使われて、数的優位を活かせなかった。疲れで集中力が散漫になったことがあると思います。そこを改善しないと、テストマッチでは勝てない」
これから欧州へ渡り、11月12、20日にはイングランド代表、フランス代表とそれぞれ敵地でぶつかる。2019年のワールドカップ日本大会で8強入りした姫野は、ナショナルチームの枢軸として述べる。
「やっぱり、勝てないことが悔しいです。日本代表は惜しい試合をしてよかったというふうに見られがちですけど、僕らはそこに満足するチームじゃないですし、そんなカルチャーはもうない。この敗戦を真摯に受け止めて、残りのビッグゲームでも勝ちにこだわっていきたいです」
4月に国内リーグワンの試合で故障して6~7月の代表活動は辞退も、雌伏期間には代表選手御用達と言える佐藤義人トレーナーに師事。身体動作を見直した。「身体の調子はすごくいい。あとはラグビーの感覚が戻ってきた」と、パワーアップに手ごたえを感じている。
来秋のワールドカップ・フランス大会に向け、結果を出しながら進歩を重ねたい。