日本代表 2022.10.18

車いすラグビー世界選手権 日本は「自分たちのラグビー」で銅メダル獲得

[ 張 理恵 ]
車いすラグビー世界選手権 日本は「自分たちのラグビー」で銅メダル獲得
2022車いすラグビー世界選手権で銅メダルを獲得した日本代表(撮影/張 理恵)


「1、2、3、日本!!」
 それは勝利への掛け声だった。

 10月16日、デンマークで開催されてきた「2022 WWR 車いすラグビー世界選手権」は大会最終日を迎え、日本は銅メダルをかけて、地元・デンマークとの3位決定戦に臨んだ。

「自分たちのラグビーをしっかりやろう」
 その目には、昨日の悔しさも、涙もない。

スターティングラインナップに名を連ねた長谷川勇基(撮影/張 理恵)

 試合開始の笛が吹かれると、池崎大輔が冷静に1点目を決める。
 デンマークのキーアタック(トライライン手前の「キーエリア」での攻撃)を弾き返す日本のディフェンスが光る。
 まるで、チームごと“ゾーン”に入ったかのような集中力が、丁寧かつ大胆な連係プレーを可能にする。観客の集中力さえコントロールしているのか、大接戦を繰り広げた予選ラウンドの“アウェー感”はない。

 障がいが一番重いクラスの長谷川勇基が屈強な相手にもひるまないディフェンスで押さえ込み、チーム一の練習量を誇る乗松聖矢のハードワークがチャンスを作る。スコアシートには残らない「縁の下の力持ち」たちの働きが目を奪う。
 車いすラグビーでは何回でもメンバーチェンジをおこなえる。役割を全うしベンチに戻ってくるメンバーを迎え入れるケビン・オアーHC(ヘッドコーチ)の満面の笑みが、自分たちのラグビーができていることを証明する。

ハードワーカー・乗松聖矢は攻守において欠かせない存在だ(撮影/張 理恵)

 15-11で第2ピリオドが始まり、デンマークの反撃が続くが、試合を支配しているのは日本だ。
 ローポインター・今井友明からのインバウンドが、高く伸びた池透暢の手にぴたっと吸い付くように収まると、観衆から「おー」という低い声がもれた。
 流れを引き継ぎコートに入った倉橋香衣は、細い体の重心を後ろに倒し、言葉通り体を張ったプレーで守備の一角を担う。
 その間にも島川慎一や池のトライで得点を重ね、31-27で前半を終えた。

倉橋香衣は試合ごとにプレータイムを増やしていった(撮影/張 理恵)

 第3ピリオドに入っても日本の精度が落ちることはない。
 一瞬ボールを奪われかけても全員で取り戻す。プレーエリアとベンチ、一本の線で分かれてはいるが、全員が同じコートに立ち、心をひとつにして戦っていく。

 そうして、45-41で迎えた最終ピリオド。
 試合終盤に差し掛かっても、日本のキレのある動きは健在だ。
「楽しむことを忘れずに。ラグビーを楽しむことでより良いプレーができる」
 “オアー・ラグビー”の原点ともいうべき「楽しむ」気持ちが好プレーを生み、観客の心をつかむ。
 積み上げてきた日本のラグビーを最後まで貫き、61-57で試合終了。日本は銅メダルを獲得した。
 池の言葉を借りれば、「(予選のデンマーク戦での)自分たちを一歩超えた」瞬間だった。

「全員がコートに入って戦えるチームになった」(島川)
「自分が疲れたら交代できる強い仲間が揃っているので気兼ねなくプレーができる」(長谷川)
「12人全員がブロンズメダルに価するプレーヤーだ」(オアーHC)
 これこそが、今の日本代表の最大の強みだ。

「全員で戦えるチームになった」と代表歴最長の島川慎一(撮影/張 理恵)

 世界選手権すべての戦いを終え、オアーHCはコート中央で選手一人ひとりとハグを交わした。
 そして、『スバラシイJAPAN!』とスタッフを含めたチーム全員を称えた。
 東京パラリンピックで戦う日本代表の姿を見て、「車いすラグビーがやりたい!」と競技を始めた選手がいる。目標としていた結果ではなかったかもしれないが、今大会での戦いもまた、きっと誰かの心を動かし、メダルの色以上に輝く光で誰かの希望になったことだろう。

 車いすラグビーは、日本を含めた「4強」時代から、強豪ひしめき合う「8強」時代へとステージを上げた。
 キャプテンの池は、その新たな風を肌で感じていた。
「これ以上高めていくのは苦しさも伴う。厳しさを持って進んでいかなければ、また涙をのむ形になる。そういうヒリヒリした現実がありながらも、自分がこの競技に人生をかけてやっていくことの意味を魅力に感じながら進んでいこう、そして、自分自身に対する可能性をもっともっと高いところで持とうと思わせてくれる大会でした」

「この競技に人生をかけてやっていく」とキャプテンの池透暢(撮影/張 理恵)

 7日間に及んだ車いすラグビー世界選手権は、オーストラリアの2大会ぶり2回目の優勝で幕を下ろした。強いオーストラリアが世界の頂点に返り咲き、その中心にいるライリー・バットがMVPを獲得した。

豪州×米国の決勝は58-55。ライリー・バット(左)とチャック・アオキの壮絶なバトル(撮影/張 理恵)
2大会ぶり2回目の優勝を飾ったオーストラリア(撮影/張 理恵)

 来月11月にはオーストラリアを迎え、次世代選手たちによる国際親善大会「2022 車いすラグビー SHIBUYA CUP」(東京・代々木第二体育館)の開催が予定されている。
 そして、来年にはいよいよパラリンピック予選が待ち構える。
 パリまであと2年。
 車いすラグビー日本代表の戦いは続く。

チーム一丸となって自分たちのラグビーを遂行する日本(撮影/張 理恵)

<2022 WWR 車いすラグビー世界選手権 結果>
■金メダル: オーストラリア
■銀メダル: アメリカ
■銅メダル: 日本
■4位: デンマーク
■5位: カナダ
■6位: フランス
■7位: イギリス
■8位: ニュージーランド
■9位: コロンビア
■10位: ドイツ
■11位: ブラジル
■12位: スイス

金メダルのオーストラリア(撮影/張 理恵)
銀メダルのアメリカ(撮影/張 理恵)
優勝トロフィーを掲げるクリス・ボンド(左)とMVPを獲得したライリー・バット(撮影/張 理恵)

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