国内 2022.10.14

驚異のインパクト。筑波大・谷山隼大の異次元パフォーマンスに迫る。

[ 向 風見也 ]
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驚異のインパクト。筑波大・谷山隼大の異次元パフォーマンスに迫る。
9月18日の早大戦でプレーする筑波大NO8谷山隼大(撮影:松本かおり)


 筑波大ラグビー部3年の谷山隼大は、ばね、走力、ひらめきで驚きをもたらす。

 試合中、対戦相手に「谷山! 谷山!」と名指しでマークされれば、「(自身の名を叫ぶ声は)耳には入りましたけど、こっちからやってやろうという気持ちに」。加盟する関東大学対抗戦Aでは開幕3連敗中も、冬の全国大学選手権での優勝をあきらめない。

 苦しい戦いを全力で楽しむ。

「もう負けられない。自分としても課題がいっぱいあって、他にも気づいていない部分(課題)もあるかもしれないです。そこを詰めて、伸ばして、選手権で優勝できるようにしたいです」

 身長184センチ、体重95キロ。福岡高時代から身体能力を評価され、全国大会と無縁も高校日本代表入りした。筑波大1年目はウイルス禍の影響で合流が遅れるも、初参加した対抗戦からアウトサイドCTBのレギュラーとなった。

 今季はFW最後列のNO8に転じ、序盤から躍動する。嶋崎達也監督はこうだ。

「彼にはずっとグラウンドに立ち続けることを大事にしよう、と伝えています。経験さえ積めば、パフォーマンスは上がる」

 9月18日、群馬県立敷島公園サッカー・ラグビー場。雨に見舞われるなか、通算最多の全国優勝を誇る早大とぶつかる。対抗戦・第2週の大一番にあって、ラン、オフロードパス、NO8の選手にあっては珍しいロングキックで魅する。

 特に印象的な足技は、後半20分頃にあった。

 筑波大はこの時、自陣中盤、左中間での自軍ボールスクラムでフリーキックを獲得。すると塊の後ろにいた谷山が、持っていたボールへいったん足をつけ、再び手にして駆け出す。右前方へ蹴り込む。

 弾道は敵陣22メートル線付近右で弾み、向こうのタッチラインをまたぐ。果たして筑波大は「50:22」ルールによって、その地点での自軍ラインアウトを得る。「裏にスペースがあるとわかっていた」と谷山。約2分後、チームの初得点に喜んだ。直前まで0-23と苦しんでいたが、最後は17-23まで追い上げた。

 続く10月2日の第3戦では、前年度日本一の帝京大に応戦。後半6分には20-12と、8点リードを奪った。

 東京・江戸川区陸上競技場で繰り広げられた接戦で、谷山は個性を発揮した。

 前半5分頃、敵陣中盤の右中間で防御網を破る。パスコースへ駆け込む勢いを保ってタックラーを引きずり、同22メートル線付近まで進んだ。先制点を演出した。

「自分の前にスペースがあって、思い切り走ることができて…」

 帝京大は、鍛えたフィジカリティが特徴的だ。もっとも谷山は、ライバルを等身大で捉える。

 終始、相手に捕まりながらも簡単に倒されなかった事実を踏まえ、このように述べた。

「帝京大は幅(防御の間隔)をしっかり取っている。その分、内側(接点周辺)は意外と空いている印象でした。試合を通してあまりタックルを受けた感じはなくて。自分としては、ですが、フィジカルでは大丈夫でした」

 後半7分頃には、ジャンプで光る。

 自陣22メートルエリア左で、相手SOの高本幹也のキックへ反応。ちょうど自身の頭上を越す絶妙な弾道に、「なんか、ちょうど取りやすい球が来て…」。右斜め後ろへ跳躍し、捕球した。

 この手のキックへ、地面に落ちる前に空中で対処するシーンはそうお目にかかれない。さらに驚くことに、谷山は着地するや前に走り出すそぶりまで見せていた(結局はレフリーの笛により、直近で反則のあった位置に戻された)。

「試合の映像を見ていたら、(高本には)ああいうキックをしてくる傾向があって。頭の片隅にはあったのがよかったのかなと」

 華やかなプレーを繰り出すかたわら、守りでも渋く光る。

 攻防の境界線へ駆け込んでくる走者へ、正面から刺さる。

「全然、タックルは苦ではないです。普通に怖いですけど、いけなくはない」

 恐れているようには映らない、と聞き返されると、「たぶん、みんな(怖いと思っているはず)ですよ。僕も人(並み)くらいな感じ」と笑った。

 最後は20-45で敗れるも、対戦したFLの奥井章仁にはこう賞賛された。

「めちゃめちゃアグレッシブですし、プレーに迷いがない。厄介なイメージです。彼とは高校(日本)代表で一緒だったんですけど、その頃からすごい運動神経なのはわかっていた。やられたところもあった。いい経験になりました」

 嶋崎監督は、谷山の働きについて「コンタクトエリアで、無理な身体の使い方をしなくなった」とも言及する。指揮官が本人に「ずっとグラウンドに立ち続ける」ようにと話しているのは、昨季の谷山がけがなどで不完全燃焼に終わっていたからだ。

 谷山自身、シーズンを戦い抜くためにシフトチェンジをしている。

「去年までに比べると、本当の100(全力)で当たりに行くことはなく、ちょっと余裕は出てきました。(攻撃で)思い切り(ぶつかりに)行ってはいるんですけど、相手の正面に自分の正面を当てていく感じではなく、しっかりスペースを見て当たる。ちょっとでも(相手の芯を)ずらしながらのほうが、(コンタクト後も倒れずに)立っていられる」

 前年度8チーム中6位と苦しんだチームは今季も開幕3連敗中だが、対戦相手は昨季の上位3傑だった。対抗戦から選手権へ行けるのは上位5傑と幅が広い。残るゲームの結果次第で、筑波大初の日本一へ望みがつながる。

 歓喜の瞬間まで、谷山は走り続ける。

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