国内 2022.09.30

スピードラグビーの日立がパワーの山梨を抑えて38-21で勝利

[ 鈴木正義 ]
スピードラグビーの日立がパワーの山梨を抑えて38-21で勝利
この日MOMに選ばれた日立SO芳崎風太。おしゃれなキックパスでトライを演出など、この日キックが冴えた。


「体の大きい選手はパワーがあるが、当たり前のことだが反対に小さい選手はスピードがある」
 試合後にインタビューで胸を張ってそう言ったのは、日立Sun Nexus茨城の田井中啓彰ヘッドコーチ(HC)だ。

 トップイーストリーグBグループは、元日本代表クリスチャン・ロアマヌを筆頭にミロ デビッド(前・マツダスカイアクティブズ広島)、レイルア マーフィー(前・花園近鉄ライナーズ)らトップリーグ、リーグワン出身選手の「大型」補強をおこなったクリーンファイターズ山梨にラグビーファンの注目が集まっている。事実、9月25日に御勅使南公園でおこなわれた第2週のスターティングメンバー中5名が外国出身選手で、さらにリザーブにも元日本代表のオト ナタ二エラらが控えるというパワーで圧倒する明快な戦術に出た。

開始早々、さすがのパワーで日立ディフェンス陣を突破しトライを決める山梨FLミロ デビッド。

 対する日立は冒頭の田井中HCのコメント通り、スピードが売りのチーム。田井中HCが試合前に「今日のキーマン」と名前を挙げた明道風輝(山梨学院大学出身)、依田朋己(東海大学出身)ら、バックス陣のスピードでこれに挑む。体格に劣る日立が、FWからBKまでスタメン15人中9人の体重100kgを超える選手を止め、快足で振り切ることができるのか、ここがこの試合のポイントとなりそうだ。

 キックオフから5分、早速山梨のパワーが日立のディフェンスを突き破り、ミロが中央にトライ。日立が手堅くPGで点差を詰めるも、26分には山梨がラインアウトからモールをドライブさせて、神戸製鋼、ホンダで活躍したマパカイトロ・パスカがトライ。この展開を聞くと、山梨がパワーで圧倒するゲームを想像してしまうかもしれない。

 しかしこの日、山梨は日立の速い出足とプレッシャーで、得点ではリードしているものの自陣に攻め込まれる時間が長い。キックで押し返してもミスや反則で戻されるもどかしい展開が続き、ついに33分、日立がモールを押し込んでHO米沢豪真(専修大学出身)による初トライ。168cmの米沢は山梨のお株を奪うパワーで押し込んで10-14とし、前半を終えた。

FWなら山梨という前評判に奮起した日立FL中村龍太郎はブレイクダウンからブラインドに回り込んでの技ありのトライを決めた。

 後半になって、日立の戦術が機能し始める。山梨は外国人が看板通りの能力を発揮し前に出る局面を作る、しかし、「体の大きい外国人選手には2人で止めにいくと、試合前から決めていました」と、SO芳崎風太(関東学院大学出身)が振り返るように、山梨はゲインしてもあと一つ前に進めない。
 反対にタックル後のブレイクダウンへの集結では日立が一枚上だ。ジャッカルを決められ、山梨は度々ペナルティを「やらされてしまった」印象だ。6分にはゴール前ブレイクダウンからFL中村龍太郎(流通経済大学出身)がブラインドに回り込んで左角にトライ。決して大きいとは言えない日立FW陣の健闘が光る。

 日立はこうしたFW陣らの奮闘でもらったペナルティで積極的にショットを選択。今年の新人ながらこの期待に応えた芳崎は、この日合計4本のPGを決めている。
 次第に日立は積極的にボールを動かし、グラウンドを大きく使い始める。14分には後半からWTBに入った横瀬慎太郎(流通経済大学出身)が芳崎のキックパスに反応し、スピードを活かしたトライ。横瀬は28分にはハーフライン付近から一気にスピードに乗って鮮やかにこの日2個目のトライを独走で決めた。山梨も33分にロアマヌの魔神のごとき突進からWTB李翔太(立正大学出身)が意地のワントライを返すも反撃はここまで。38-21で日立が制した。

日立の横瀬慎太郎は後半からWTBに入ると快足を飛ばしてグランドを縦横無尽に走り回り2トライ。

 「練習から意識させないと反則は減らない」と、試合後に山梨の福島正人HCは振り返る。山梨が与えたPKは前半6、後半に至っては13と、これではさすがに厳しいコメントをせざるを得ない。おそらく残る対戦相手も同様に外国人選手対策を打ってくることは容易に想像がつく。それでもロアマヌ、オトなどのビッグネーム以外にも要注意選手は多く、言うは易しである。例えば、この日再三、日立ディフェンス陣をなぎ倒したシオネノフコート・トケは183cm、119kg。このサイズでWTBのポジションに立つのだから相手トイメンは決していい気分はしない。むろん外国人選手にばかり気を取られていては日本人プレーヤーにも経験値の高い選手が多く、隙を見せれば何かやってくるだろう。

注目のクリスチャン・ロアマヌ(山梨)はCTBで出場。初トライはおあずけとなったが魔神のごとき突進は会場からどよめきがあがった。

 一方の日立は、「後半はテンポを上げた」(田井中HC)ことで、チームの強みがうまく引き出せた印象だ。速い展開になれば当然相手も味方もミスが出やすくなる。ここで丁寧なプレーをやりきれることが日立の本当の強さなのだろう。
 「しっかりディフェンスしてくれていた」と田井中HCから合格点をもらった両CTB、評判の快足を見せてくれたWTB。キックと走力でエリアを挽回し、パスでグラウンドを広く使う。こうした展開になった時の日立は強い。

 トライ数では1トライ差だったが、じわじわとPGを積み上げてきた日立が山梨の反撃を振り切った。そのPGを全て決め、「ディフェンスもしっかりできて、ターンオーバーにつなげられた。今日は自分たちのやりたいラグビーができたと思う」と振り返る芳崎がマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)というのは納得の結果だ。芳崎は2試合連続でのMOM、今シーズンこれからも冴えたキックを見せてくれそうだ。

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