国内 2022.08.11

管理栄養学を学ぶ地元大学生が、三重ホンダヒートの選手に食事指導。地域貢献にもつながる画期的な取り組み。

[ 明石尚之 ]
管理栄養学を学ぶ地元大学生が、三重ホンダヒートの選手に食事指導。地域貢献にもつながる画期的な取り組み。
新人CTB川合カイト(右奥)と担当する鈴鹿医療科学大学の学生(©MIE Honda HEAT)
学生と選手の初顔合わせの日は、体脂肪測定もおこなった。写真は新人CTBフレイザー・クワーク(©MIE Honda HEAT)

 選手たちのパフォーマンス向上と地域貢献が同時に見込める、画期的な取り組みが始まった。

 三重ホンダヒートの選手たちは、鈴鹿医療科学大で管理栄養学を学ぶ大学生に食事指導などのサポートを受ける。ケガの予防やパフォーマンスの向上につなげる。
 かたや、地元の大学生にとってはトップアスリートと交流し、学生の時から貴重な実践経験の場を得ることができる。

 8月3日にはこの取り組みに参加するヒートの選手9人と、活動に協力してくれる大学生27人が初顔合わせ。選手のカウンセリングや体脂肪測定などをおこなった。

 今後は選手1人に対して3人の学生が担当し、選手は基本的に毎日、グループチャットを通じて食事の写真を送ったり、身体に起こった変化などを記載する。定期的に対面の機会も設け、リーグワン2022-23が開幕する12月までにどういった変化が起こるかを見ていく予定だ。

 選手9人は京産大出身の平野叶翔ら、2022年4月加入の選手が中心。加えて筋肉の小さなケガをシーズン中に繰り返していた選手などが参加する。
 1人の選手に3名の学生がつくのは、「学生たちがまだ資格を取得していないので、全責任を与えるのは荷が重い。アルバイトがあったり、得意分野もある。メンタル的な負担を落としてもらうため」と、発起人であるヒートのヘッドS&Cコーチ、奥野純平氏は説明する。

 奥野氏はNTTコミュニケーションズ(現・浦安D-Rocks)に8シーズン在籍し、2017年シーズンからホンダヒートに加入。‘15年のU20日本代表のイタリア遠征の帯同経験もある。

「食事や栄養については、選手たちが高校生のときから大事だと言われてると思いますし、リーグワンでプレーする選手は強豪校出身がほとんど。栄養指導は受けたことがあるはずです。ただ、チームの方針としてやっていたという選手が多く、聞いたことを自分のものにして実践した選手は意外と少ない。
 若いと体も動くし、意外と無茶しても回復してしまう。どうしてもベテランになってからいろんなことに気づいて、少しでもキャリアを伸びしたいために栄養に取り組む選手が多いです。そこをもっと早く気づかせてあげることはできないかなと思っていました」

 ヒートに加入した当初から、この取り組みを頭の中で描いていた。「地方のチームなので、地方だからこそフットワークを軽くしてできることはないかと考えていたうちのひとつのプロジェクト」だという。

 コロナ禍になる前には、同大学で鍼灸を学ぶ学生を招いて、メディカルトレーナーの横で選手のマッサージの見学や補助をする機会を設けていた。今回はその栄養バージョンにあたる。

「ラグビー選手は1日のなかでラグどれだけきついことをしても平均したら3時間くらいです。つまり残りの21時間は、仕事も含まれますがプライベートな時間。その圧倒的に長い時間の方にフォーカスしないと、ハードなトレーニングは続けられなくなる。
 そこをどう変えていけるか模索する中で、栄養士の方が指導するチームは多いです。ですがどうしても月に1回だったり、1人来ていただいてもラグビーチームは50人、強豪校であれば100人近くいる。その一人ひとりに細かいところまでアプローチするのはすごく難しい」

 今回の取り組みではそうした課題を解決する。継続して選手をサポートすることで、自発的な気づきを与えることができるのだ。
 さらに奥野氏はメンタル面でのサポートも期待する。

「S&Cコーチはラグビー界では厳しいこと、きついことを選手にさせる側の立場。その人に24時間、監視されるのはメンタル的に逃げ道がなくなってしんどいです。
 時に落ち込んで弱音を吐いたり、プライベートなことを話したり。学生たちは選手に寄り添ってもらいたい。だから、あえて学生たちからこちらにフィードバックする内容は、体重が落ちてきたとか、体脂肪がプラスに変化したとか、ケガしてからこういう風に食事を変わったとか、必要なことだけをもらうようにしようと考えています」

 こうしたトップチームと大学との連携は、海外では盛んにおこなわれている。奥野氏はワシントン州立大出身。そうした活動を間近で見てきた。

「例えばアナリストの分野だと、データサイエンスを勉強している学生がチームのデータ処理をサポートしたり、インターンをした経験からフルタイムの採用につながるケースもあります。
 日本だと学生は学ぶところで、卒業してから実務経験をする場所を探すという流れがある。でも大学にいる時間で少しでもこうしたことを経験できるチャンスがあれば、管理栄養士になって病院や給食施設で働くことを思い浮かべて入学した子たちにも、スポーツ界でも活躍できると知ることができる。それが地域密着につながり、三重県にラグビーチームがあるという認知につながればなお嬉しいです」

 リーグワンのチームがこうして栄養に関して、長期に渡り大学生からサポートを受けるのは初めてのことだ。
 リーグが第一に掲げる地域密着を推し進める意味でも、この活動の意義は大きい。

この取り組みの発起人であるヘッドS&Cコーチの奥野純平氏(©MIE Honda HEAT)
学生にはチームのTシャツをプレゼント。「チームの一員ということを伝えたい」と奥野氏(©MIE Honda HEAT)

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