日本代表 2022.08.03

「12」への再挑戦、試合2日前の先発入り…。日本代表・中野将伍の夏。

[ 向 風見也 ]
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「12」への再挑戦、試合2日前の先発入り…。日本代表・中野将伍の夏。
7月のフランス戦でアピールした中野将伍(撮影:松本かおり)


 走る。猛暑日、真夏日が続く季節も走る。東京サントリーサンゴリアス所属の中野将伍は、覚悟していた。

「たぶんというか、絶対、(次の)合宿もきついので。そこに向けた準備は大事です」

 話をしたのは7月中旬。6月3日から参加したラグビー日本代表の活動が終わり、1週間ほどが経っていた。見据えていたのは、9月上旬からと見られる同代表の候補合宿だ。中野も招集を目指す。

「次の合宿では、その前の合宿の時までとは違うと思われるようにしたいです。走り込みでフィットネスのレベルを上げる。もっとボールをもらって前に出ないといけないので、もともと強みにしているフィジカルも、スピードもさらに高めたいです」

 身長186センチ、体重98キロの25歳。福岡の東筑高時代から、20歳以下日本代表に飛び級の扱いで選ばれた。早大進学後も大器と謳われ、昨秋、日本代表デビューを果たした。

 キャリアアップを期して臨んだ今回のツアーでは、イレギュラーな形で貴重な機会を得た。 

 きっかけはポジションチェンジ。トニー・ブラウン アシスタントコーチから勧められた。

「12番にもマッチすると思う。やってみないか」
 
 これまで、中野はおもに「13番」のアウトサイドCTBを任されていた。この位置では大外でのチャンスメイク、広い守備範囲のカバーが求められる。

 かたや「12番」のインサイドCTBは、グラウンド中央での突破やゲームメイクの支援で期待がかかる。同じCTBでも、それぞれが独自の役回りを有する。

 中野は、大学時代まで「12番」を主戦場としてきた。

 サンゴリアスや日本代表では大外のWTB(11、14番)も兼務しているが、本人はずっとCTBを好んでいた。今度のブラウンのリクエストも、もちろん快諾した。

「CTBなら12、13番の両方をできるようにしたいと思っていた」

 打診されたのは6月26日。地元のミクニワールドスタジアム北九州でのウルグアイ代表戦(〇43-7)に、後半25分から出た翌日のことである。

 日本代表では、試合のメンバーがその週の初めまでに固まる。当日までの練習では、出場予定組とそうでないグループが明確に分かれる。

 7月2日のフランス代表戦に向け、中野はまずレギュラーの相手役の「12番」に入った。このチームでの「12番」の作法を学びながら、続く9日の同カード2戦目に出るのを目指すことになった。

 潮目は突然、変わる。

 中野が転向を打診されたのとほぼ同じタイミングで、チームに新型コロナウイルスの陽性者が発生していた。選手が相次ぎ体調を崩し、輪から離れた。チームは試合開催へ務めた。

「リーグワンの時は、(チーム内に感染者が)出たら練習や活動ができなかった。ただジャパンでは(症状が)出た人を隔離して、あとはいままでと変わらず練習をしていました。その分、普段の感染対策には気を付けました。(陽性反応が)出ると、自分自身がグラウンドでプレーできなくなる。普段のマスク(着用)だったり、ごはんの時の手洗いや消毒だったりと、管理をしっかりしました」

 中野は体調を保った。するとゲームの2日前にあたる「木曜(6月30日)」に、スターターへ昇格する。取り組み始めていた「12番」に空きが出たためだ。

「ミーティングでも『全員がどこに入っても対応できるように』と話していて、サインプレーも理解している状態でした。リザーブだったウルグアイ代表戦の時も『11、12、13、14、全部のカバーを』と言われていたので、4つのポジションのサイン(プレーでの動き)は全部、頭に入れていましたね。(2日に向けても)メンバー外としてフランス代表のプレーの特徴に沿ってアタック、ディフェンスをしていましたが、それと同時にジャパンのフランス代表戦でのプラン、使うサインプレーを(頭に)入れていました。そうでないと『急遽、(試合のメンバーに)入る』となった時に対応できない」

 果たして対フランス代表2連戦では、ずっと「12番」をつけた。

 特に東京・国立競技場での2戦目では、15-20と惜敗も後半30分頃までリード。自身も得意のオフロードパスで魅した。

 サンゴリアスの同僚、オーストラリア代表CTBのサム・ケレビと個人練習を繰り返してきたスキルだ。「狙ったところに(球が)いくようになった」と、手ごたえをつかむ。

 ツアーを終えたいまは、改善点も整理している。

 防御では、ジョン・ミッチェル新アシスタントコーチの唱えるシステムを習得している最中。仕組み上、CTBの選手は1人で複数名の相手をチェックしなくてはならない。ミッチェルの説く原則を身体に染み込ませたい。

「よく言われていたのが、『肩をスクエア(ゴールラインと平行)にする』こと。(縦に並ぶうちの)表(手前側)、裏(奥側)のどっち(の走者)が来ても(前を向いて)対応できるように」

 今秋はイングランド代表などとの代表戦が、来年にはワールドカップ・フランス大会がある。

「ワールドカップには出たくて、自分の頑張り次第でそれを狙えるところまではいけると思います。ただ、まだまだ力不足だとも感じています。毎日を大切にして、ディフェンスでも、アタックでもレベルアップしていかないと間に合わない」

 活躍の場を広げ、存在感を示した。それでも向上心を失わず、今日も明日も走る。

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